この作品のレビュー
平均 4.1 (70件のレビュー)
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哲学に憧れと魅力を感じつつもうっすらと勘づいていたが、やはりと言うべきか、哲学は私にとって縁のないもののようです。これは中島義道『哲学の教科書』を読んだ時も思ったことだが、本書ではっきりと自覚した。自…分は「子どもの問い」なるものを強く抱いたことはないし、そういうものに特別興味があるわけでもないのだと。私が求めていたのはどうやら哲学ではなく思想だった。自分を支えてくれる思想。本書の中で著者が竹田青嗣氏のことを「彼の姿勢は哲学ではなく思想だ」(意訳)と批判しているが、私が竹田氏の『自分を知るための哲学入門』に好感を持ったのもまさに同じ理由だったのだろう。本書に登場した印象的な言葉を使えば、私の関心の方向は子ども的・存在論的なのではなく、青年的・認識論的だったのである。お前の哲学に対する興味は偽物なのだと喝破されて苦い思いがしたけれど、おかげで哲学に対する幻想をようやく断ち切ることができそうだ。それは悪いことではないし、哲学することの本来の形を示すという難題にこの本が真摯に取り組んでいるからこそ起きた反応と言えるのではないかと思う。哲学に目覚めるどころか、はっきりしたのは自分に哲学は無縁であることだったが、非常に読む価値のある本だった。続きを読む
投稿日:2016.12.21
このレビューはネタバレを含みます
20年ぶりの再読。
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学生時代に買った本ですが、大事に取ってあったので余程思い入れがったのだろう。
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<僕>の独自性の問題、そしてそれに続く道徳の問題、どちらも刺激的で面白かった。でも、それを賞…賛してもなお余りあるのは最後の章の『哲学とは』ではなかろうか。
ここに、<哲学>と「哲学」の違い、あるいは<哲学>と「哲学史」ないし「思想」との違いが書かれている。
つまり、<哲学>とは実に極私的問題であり、他人が理解する必要などないもの。また学校で教えるものでもなく、個人の疑念・疑問として知らずのうちに考えてしまうもの、とも言える。
他方でそうした変人奇人たちの一連の極私的文章を「哲学」という枠で括って、教え、場合によって利用するような輩すらいる。そして哲学とは大体そのようなものだし、そうやって<哲学>もその命脈を保ってきたという。
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高校生の頃、進学先を決めねばならなかった。そして、未熟でもあった(今もだけど)。
環境関連の仕事に興味があり化学の専攻を希望していた。が、色弱であったため、学校の先生には「進学はできても就職は難しい」と言われた。それを確認もせずにそのまま渋々従った。既に愚の骨頂であった。そして文系に進むことになった。
周囲の友人たちを眺めてみる。なぜ法学部なのか、なぜ商学部なのか。返ってくるのは「親から言われた」「給料が高そうだから」。お前ら自分の頭で考えているのか?確固たる「自分」はないのか?
かくいう私も、何がやりたいかなんて全く考えていなかった。
そこで、一番役に立たなそうな学問、ということで哲学科を選んだ。
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しかし道は苦しかった。
当初、何か大変なすごい秘密が隠されているのでは、と思った。秘密の発見以前に、とにかく理解できない。日本語は言わずもがな。ドイツ語の原典は、それこそ読むというより辞書を引く時間の方が長かったくらい。
縁あって、他の大学院でも学ばせてもらったが、修士一年の夏休みには、この道はなかろう、と就職へと舵を切った。理解できない絶望感は強かった。
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今、永井氏の作品を読んで、改めて思った。
ああ、私はある意味で普通の人間たりえたのだ。人様が当然だと思えるようなことに、立てつくように疑問を感じて、止むにやまれぬ思いを感じてしまう質の人間ではなかったのだ、と。
そして、そうした<哲学>をする人たちの私的問題は、分からなくて当然。否、分かる必要もない。ただ、類似の問題を抱えてしまった人が、「ああ、自分と同じ疑問を持ったひとにも他にいるのだ」と感じるのみ。
思えば、自分にはそのような止むにやまれぬような疑問はなかった。あるとすれば、「人は死んだらどうなるのか」とか「人は(自分は)好きな人以外にでもどうして好意をもてるのか」とかその程度であった。
前者は小学生ごろからもっていた。筆者に言わせるとそれは、<老人>の哲学に該当するらしい。宗教がそのあたりの守備範囲とのこと。いいじゃない。勉強しようじゃないの。
そして後者は学生時代に今の嫁と付き合い始め出してからむくむくともたげてきた。K.ローレンツ(動物学者)やR.ドーキンス(進化生物学者)を読み、我が物顔で彼女に「動物として、大きな胸に目が行くのは仕方ないんだって」「種として、種に踊らされているから、他人に惹かれるのは仕方ない」といっても、当然理解は得られなかった。自分から喧嘩のタネをまいていたといっても過言ではない。それでも今まだ夫婦で(だいぶ)仲良く暮らせているのは、僥倖という他ない。
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話は逸れてしまったが、永井氏の作品。
彼のいう<哲学>とは、ひょっとしたら<人生>と言い換えてもいいのではないか。他人に自分の人生をとやかく言われて、自分の人生が傷つくだろうか。自分が満足した人生を送っているところに、他人の価値尺度は必要だろうか。きっと不要なのだ。
もちろん、金銭、地位、名誉など多くの外的な切り口で自分の評価は上下しよう。これらのラベルを目指す人々は、その上下に一喜一憂しよう。しかし、もし本当にやりたい何かを持つのであれば、他人の評価や既成の価値があなたに影響を与えるものは僅かであろう。
本作は哲学的には、毛色の異なる独我論、そして道徳の限界、について述べられているもの。でもこれらを越えて、自分の頭で考える、自分の疑問を考える姿勢を強く説くものである。
響く人には、強く響く作品。続きを読む投稿日:2023.12.03
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