- 最新巻
レ・ミゼラブル (下)
ヴィクトル・ユゴー(著)
,永山篤一(訳者)
/角川文庫
作品情報
あわただしい時代のなかで、貧しくても上昇志向でがんばっていた青年マリウスは、ある美少女に恋をした。謎の男性といつも一緒のコゼットだ。彼女への思いをつのらせる彼だったが、革命騒ぎのまっただなかに巻き込まれ、絶体絶命となる。そのとき、コゼットと一緒にいた男、ジャン・ヴァルジャンと再会した! ジャヴェール警部、凶悪犯テナルディエなどもまじえながら、壮大な物語は感動のクライマックスへと向かう――。
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商品情報
- シリーズ
- レ・ミゼラブル
- 出版社
- KADOKAWA
- 掲載誌・レーベル
- 角川文庫
- 書籍発売日
- 2012.12.01
- Reader Store発売日
- 2013.04.12
- ファイルサイズ
- 1.2MB
- シリーズ情報
- 既刊2巻
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この作品のレビュー
平均 4.6 (41件のレビュー)
-
下巻は、1832年6月5日に起きたパリ蜂起の模様が中心である。1830年の七月革命でブルボン王朝が倒れた後に、日和見主義のブルジョワジーの推薦によって新たに誕生したフィリップ王政に対する、人民の不満…が、深刻な経済状況に加え、コレラの蔓延などで沸騰点に達し、若者たちを中心にパリ市街にバリケードを築き、政府軍と戦った。
血で血を争い、どさくさに紛れて一般市民が死んでしまう。また、正義のための争いの前では殺人が正当化されてしまう、そういう戦闘は肯定したくないが、この蜂起のリーダーであったアンジョルラスの演説には感動して鳥肌がたった。
「自分自身の主権を、われわれは“自由”と呼んでいる。そういった主権がいくつも集まれば、“国家”が生まれる。そして、この複数の主権の集まりの中では、権利が失われることはない。社会の権利のために、一人一人の主権が多少制限されるだけだ。その制限量はみな同じだ。一人一人が他人のためにこうむる制限が同じことを“平等”と呼ぶ。共同の権利とは、個人個人を守るための全員による保護のことだ。一人一人に対する、この全体による保護を“友愛”と呼ぶ。そして、これらの主権の交差する場所こそが“社会”なのだ。(中略)みんな、平等とは誰もが同じ高さにとどまっていることではない。たけの高い草と、小さい柏の木がならんだり、互いに相手を妬み、抑えつけ合う社会のことではない。社会の面では、全員が同じように能力を高める機会を持っていることであり、政治の面では、誰もの一票が同じ重さを持っていることであり、宗教の面では、どの信仰も同じように扱われることなのだ。平等のもとで、無償による義務教育というものが誕生した。全員に義務付けられている小学校。全員にひらかれた中学校。これが基本だ。同じ教育環境によって平等な社会が誕生する。そう、教育が大切なのだ!そこに光明が、救いの光がある!・・・・・みんな、19世紀は偉大だが、20世紀はもっと幸せになれるだろう。そのころには、もう古い歴史を引きずるようなものは残っていない。現在のような支配、侵略、略奪、武力行使による国家間の対立。国王の婚姻がきっかけの文明の変化・・・(中略)みんな、私がこうして語っている現在は、暗くやるせない時代だ。でも、これは将来を形づくるための生みの苦しみなのだ。革命は通行税のようなもので、未来のために高い代償を払う必要がある。・・・バリケードは、敷石や角材や鉄くずでできているのではない。ここは思想と苦悩の二つが積まれ、山となって誕生した。無慈悲と理想がぶつかる場所だ。・・・・同胞よ、ここで亡くなったとしても、未来の輝きに包まれて死ぬのだ。・・・」
これは1832年、今から約200年前のことであり、この後、世界は大きな戦争を2回もして、反省し、先進国は少しずつこの時のアンジョルラスの理想とした社会に近づいてきたわけであるが、この時革命を引っ張ってきた若者は、混乱したフランス社会でこんなに先見の明を持っていたのだと分かり感動した(大多数の人々は理論的にはよくわからず、革命にエネルギーを注いでいただけかもしれないが)。フランス国旗のトリコロール「自由・平等・博愛」の意味が分かった気がする。そして、さらにこの部分が私の胸を打つのは、これが後世の人々によって書かれた歴史書ではなく、その時、タイムリーに現場に居合わせたユゴーによって、ルポタージュのように書かれたということである。
ジャン・バルジャンが革命のバリケードの中からマリウスを救い出し、砲火を逃れるためにパリの真っ暗な地下道を命懸けで通って安全な地上に避難したシーンも圧巻だった。
パリに行ってみたくなった。このような歴史事件があったパリの街並みを見てみたくなった。
子供向けに「ジャン・バルジャン物語」などが刊行されていたから、この小説の主人公はジャン・バルジャンだと思っていた。しかし、「ああ無常」と言われるこの小説の主人公は、蜂起の中で「役に立ちたい」と張り切って、敵の散弾が飛び交う中、無邪気にも歌を歌いながら味方の為に弾薬を拾い集めて死んでいった、貧しい最下層のガウローシュ少年のような名もなき貧しい一般市民だったのだと分かった。
ジャン・バルジャンは若い日、パンを盗んだ罪で投獄され、その後脱獄を繰り返したことで、15年間も獄中生活を送ったが、その後ビジネスで成功し、市長にもなり、再度シャベールに捕まったが、再度脱獄して、追われる生活をしながらも、少女コゼットと幸せな9年間を過ごし、最終的に自分は身を引いてコゼットをマリウスという若者に渡してしまうが、革命で散った若者たちに比べると幸せな人生を送ったかもしれない。
ジャン・バルジャンは、貧困、差別、闘争などの矛盾に満ちた社会の中で、人間が無理やり作った規範と戦った強い、愛に満ちた大きな人だったと思う。
登場人物一人一人の人生がドラマチックで、パリ蜂起という山場もあるので、ミュージカルとしても成功したが、やはり原作(抄訳だが)を読んで、ユゴーの考え方が分かり、本当に良かった。続きを読む投稿日:2021.05.22
下巻で印象に残ったのはジャベール警部
ジャンバルジャンは前科者だけど善行を行う人、ジャベール警部は法律家だけど正義を盾に悪行を行う人として描かれる。
ジャンバルジャンを追いかける中で盲目的に信じて…きた法律が完全ではなく、前科者にも善性がある事に気づいてしまったが故に、戸惑い苦しむ。
今までに行ってきた正義は弱者を虐げるものだったかもしれない、厳罰を科された者の中にも善い人がいたかもしれない。
何より、ジャンバルジャンを信用してしまった自分自身も法律に背く存在として許すことができない。
これまでの信念を貫いた必死の行いが、取り返しのつかない過ちだったと気づいてしまう事もまた途方もない苦しみであり、そこで良心に従って苦しむ事ができるジャベール警部もまた悪人ではないと感じた。続きを読む投稿日:2024.02.25
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