この作品のレビュー
平均 4.1 (34件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
今でこそ自明の理として扱われる「自由」について論じた本。思えば「自由」という言葉ほど頻繁に人の口の端に上るのに、それが何なのか論じられない言葉も少ない。
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「自由」を考える上での最大の難問は、ディレンマに陥りやすいこと。例えばアメリカが「イラクの文明化」を掲げて同国の自由のために干渉したことは「自由の強制」であると言える。「自由」を押し付けるのだから自己矛盾である。
また、「○○への自由」という積極的自由を徹底的に追求すれば全体主義に、「◯◯からの自由」という消極的自由を追求すると、自己中心主義や排他主義に陥りがちである。○○に入るのは個人の情緒を反映した価値観であり、価値観の相対化を図るリベラリズム(自由主義)に基づいて考えると、何でもかんでも「どっちもどっち」になってしまい、自由の判断の妨げる。
「自由」という概念は、近代ヨーロッパにおいて自由な個人が国家や社会に先立つものとして「発見」されたことに根差しています。そのため近代国家は国民の安全に対して当然に責任を持ち、権力を行使して自由な個人を支えるものと理解される。
数年前にイラクで三邦人が人質となった事件があった際、「自己責任論」が人口に膾炙しましたが、著者は国家が「自己責任」を押し付けるのは国家が国民に対する責任を放棄したことに他ならず、そのことによって国民の自由を蹂躙することになると主張する。
国家と個人との関係を考えれば、政治家や公務員が自己責任論を主張することは自らの責務を否定する自家撞着である。
現代人は「自由への倦怠」に陥っているとされる。これは昔のように命懸けで抵抗すべき政治的抑圧や道徳的規範がなくなり、自由に対するイメージも稀薄化したことが発端である。
現代のリベラリズムは「多様性を保証するための平等な権利としての自由」を中心としているが、それでも自由への倦怠は止まらない。寛容と多元性を志向するはずの自由というものは、飲めば飲むほど喉を渇かす塩水のように、求めれば求めるほど不寛容と一元性へと収斂していく。
そのような自由のパラドックスをどのように克服すればいいのか。著者はそれを多様な「義」を承認することであると主張する。アメリカ軍もイスラーム過激派も自らの「大義」を唯一絶対と考える独善性を孕んでいる。
そのため両者の調停をするには、互いの「義」を承認しないわけにはいかない。自分の確信も相対的なものの一つに過ぎないことを自覚することが多元性につながる。リベラリズムもその例外ではない。
「自由」の起源やリベラリズムの抱える矛盾や難問について考える上で必読の書。自由が尊いのは言うまでもないが、それよりも寛容さや多元性を尊重したいと改めて思った。投稿日:2011.06.05
「自由とは何か」佐伯啓思著、講談社現代新書、2004.11.20
286p¥777C0230(2023.07.15読了)(2012.07.27購入)
副題「「自己責任論」から「理由なき殺人」まで」
…【目次】
第1章 ディレンマに陥る「自由」
第2章 「なぜ人を殺してはならないのか」という問い
第3章 ケンブリッジ・サークルと現代の「自由」
第4章 援助交際と現代リベラリズム
第5章 リベラリズムの語られない前提
第6章 「自由」と「義」
おわりに
あとがき
☆登場する本
「自由の二つの顔」ジョン・グレイ
「自由の条件」フリードリヒ・ハイエク
「近代の政治思想」福田歓一、岩波新書
「罪と罰」ドストエフスキー
「実践理性批判」カント
「プリンシピア・エチカ(倫理学原理)」ジョージ・エドワード・ムーア
「論理哲学論考」ウィトゲンシュタイン
「哲学探究」ウィトゲンシュタイン
「正義論」ジョン・ロールズ
「歴史のなかの自由」仲手川良雄、中公新書
「アンティゴネ」ソフォクレス
「自由からの逃走」エーリッヒ・フロム
「犠牲と羨望」ジャン=ピエール・デュピュイ
『存在と時間』マルティン・ハイデガー
「道徳を基礎づける」フランソワ・ジュリアン、講談社現代新書
「自由論」バーリン
「大衆の反逆」オルテガ・イ・ガセット
「意味を見失った時代」コルネリウス・カストリアディス
☆関連図書(既読)
「「欲望」と資本主義」佐伯啓思著、講談社現代新書、1993.06.20
「「市民」とは誰か」佐伯啓思著、PHP新書、1997.07.04
「アダム・スミスの誤算 幻想のグローバル資本主義(上)」佐伯啓思著、PHP新書、1999.06.04
「ケインズの予言 幻想のグローバル資本主義(下)」佐伯啓思著、PHP新書、1999.07.05
「総理の資質とは何か」佐伯啓思著、小学館文庫、2002.06.01
「新「帝国」アメリカを解剖する」佐伯啓思著、ちくま新書、2003.05.10
「自由と民主主義をもうやめる」佐伯啓思著、幻冬舎新書、2008.11.30
「反・幸福論」佐伯啓思著、新潮新書、2012.01.20
「日本の宿命」佐伯啓思著、新潮新書、2013.01.20
(「BOOK」データベースより)amazon
「個人の自由」は、本当に人間の本質なのか?イラク問題、経済構造改革論議、酒鬼薔薇事件…現代社会の病理に迫る。続きを読む投稿日:2023.07.15
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