トクヴィルと明治思想史:〈デモクラシー〉の発見と忘却
柳愛林(著)
/白水社
作品情報
「文明化」を夢見た明治日本
文明化を追い求めた明治日本は、翻訳書が果たした役割がいまと比較にならないぐらい大きかった。そして数多くの翻訳書が刊行されるなかで、新たな概念もたくさん生まれた。
本書では、アレクシ・ド・トクヴィルと『アメリカのデモクラシー』に焦点を当てて、その営為を明らかにする試みである。
トクヴィルによって見出された「諸条件の平等」としてのデモクラシーについて、あるいはその帰結である「個人主義」や「多数の圧制」について、明治の日本人はいかに理解したのか? またいかに誤解したのか? 本書は徹底的に解明している。
その際、目を向けるのは、福澤諭吉ら明治思想界のスターだけでなく、むしろ時代の脇役たちである。
時代のあり方や将来を真剣に考えていたにもかかわらず、英傑に遮られ、注目されなかった人々。実は、彼らの西洋受容こそがその時代の典型であり、そこからしか時代の全体像は描けないのだ。
自由民権運動に邁進した肥塚龍、社会における宗教の意味を考えた中村敬宇や明治キリスト教界、国会開設の意味を自治論からとらえ直した植木枝盛や星亨、高田早苗……トクヴィルを軸に描く、新たな明治思想史へ。
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この作品のレビュー
平均 5.0 (2件のレビュー)
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先日読んだ『明治革命・性・文明』(渡辺浩著)の流れから、この本を借り出してみた。トクヴィルは、随分昔に「世界の名著」で抄訳を読んだきりで、記憶が薄れている…
著者は韓国出身で、横浜国大に交換留学で来日…し、いったん帰国後、再度問大大学院で博士号を取得した人。博士論文を加筆修正したのが本書。
読むのは大変だったけど、途中から莫大な労力を注ぎ込んだものと気づき、身を正して読むと、明治初期の人たちがトクヴィルをどんな風に受容していったか、本当によく分かる。
そのために明治期の翻訳から論文・雑誌・新聞に至るまで莫大な資料をきちんと読み込んで書かれているのには驚いた。
それは、よくある論文のように、どこかで引用されていたようなところをつまみ読みして、署名と該当頁を注記するだけで済ませることなく、丹念に原文を引用しているところで著者の誠実な姿勢がよくわかる。
それがまた、書経・詩経等々に至る漢籍に通じた明治期の人たちのものだから、それなりに漢文には強いつもりだったけど、所々では漢和辞典のお世話にならないと読み方がわからない漢字が間々出現する。
多分、若い人たちには手に負えないだろうと思う。
それを、韓国の留学生が読みこなして、トクヴィルの原著フランス語、明治期の人たちが翻訳に使った英訳本までしっかり目に通しているのだから、ただもう敬服するしかない。
しかも「あとがき」を読むと、単なる諸先生・先輩・同僚に対する謝辞で終わらず、心優しいお嬢さんであることがひしひしと伝わってくる。
大学院に留学して半年で亡くなられたお母さんは中学の歴史の先生をやっておられたと書かれているが、この本を天国でさぞかし喜んでおられるだろうし、きっと周りに自慢されているに違いない。
いくつか付箋を付けたが、二箇所だけ記録に残しておきたい。
近代の西洋思想の受容に伴って再発見された広い意味での「良妻賢母」は、決して日本的価値観や儒学的価値観のみに根ざすものではない。社会成員の再生産、さらには教育の場としての家庭の価値を認め、その家庭を担う女性の役割を評価した点で「良妻賢母」はあくまでも近代的な価値観で、西洋・東洋の区別をこえて広い範囲の地域、文化が共有していた考え方であった。
(第Ⅱ章 二 女子教育と女性の役割 3 「良妻賢母」は日本的価値観であるか 182頁)
論文「アンシャン・レジームと明治維新」で渡辺浩は『旧体制と大革命』を手掛かりにして、明治維新を「革命」と見なしている。そして革命以前の社会条件や革命自体の様子に関して、トクヴィルがフランス革命に見たものを「トクヴィリアン・モーメント」と呼んで「明治革命」にも似た状態が実在することを指摘した。ところが、このように明治維新について、トクヴィルの革命理解を参照しながらフランス大革命との類似点を指摘する試みはすでに同時代に行われていた。明治十年八月三十日の『東京日に日新聞』の社説がそれである。
(題Ⅱ章 四 出版の自由、革命、社会主義 2 『デモクラシー』以外の著作の需要 247-8頁)続きを読む投稿日:2022.02.12
明治日本がトクヴィルをどのように受け止めたのか、詳細に論じている。様々な問題点はあるものの、明治の人々のレベルの高さがうかがわれる。
投稿日:2023.03.01
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