刑期なき殺人犯――司法精神病院の「塀の中」で
ミキータ・ブロットマン(著)
,仁木めぐみ(訳)
/亜紀書房
作品情報
両親を射殺して出頭。しかし「刑事責任能力」はナシ。
統合失調症により心神喪失した凶悪殺人犯はどこへゆくのか。
犯罪精神医療界の構造的な歪みと限界を暴く第一級のノンフィクション。
【精神医療、司法制度に関心のあるすべての人の必読書】
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愛を知らない孤独な青年が、ある日、自宅で父と母を射殺した。
しかし、統合失調症のため、司法精神病院へ措置入院となる。
過剰投薬の拒否、回復の徴候、脱獄未遂、自ら弁護人となっての本人訴訟……。
――そして彼は、今なお病院から出られないでいる。
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犯罪者は逮捕後、世の人々の前からは消えるが、いなくなったわけではない。人生は続くのだ。重警備の刑務所で、あるいは司法精神病院で……。
本書は、評決が読み上げられ、判決が下されたところからはじまる物語だ。
複雑かつ混沌としてはいるが、その後のストーリーはひっそりと、たしかに存在している――。
《当代随一のノンフィクション作家にして精神分析医が描く、殺人犯の青年に降りかかった判決後の驚くべき人生とは》
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【目次】
■はじめに
1……止まった時間
2……汝の父母を敬え
3……想定外の誕生
4……水よりも濃し
5……罪の重さは
6……「フォーカス・オン・フィクション」
7……第八病棟
8……リハビリと抗精神病薬
9……「拘束衣を解いて」
10……過剰に宗教的
11……転換点
12……薬男
13……疑惑
14……思考犯罪
15……怒りと拘束
16……煉獄
17……レディ・キラー
18……「みな恐れている」
19……本人訴訟
20……正気が回復するまで
■訳者あとがき
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商品情報
- 著者
- ミキータ・ブロットマン, 仁木めぐみ
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 亜紀書房
- 書籍発売日
- 2022.07.23
- Reader Store発売日
- 2022.08.26
- ファイルサイズ
- 4.3MB
- ページ数
- 336ページ
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この作品のレビュー
平均 5.0 (2件のレビュー)
-
刑事責任能力なしと鑑定されたことにより、刑務所ではなく司法精神病院に収容されたアメリカのひとりの殺人犯の半生をたどることで、司法精神病院内部の実態と問題点を描き出すノンフィクション作品。全20章、31…0ページほど。
著者の肩書きは人文学の教授であり、作家、精神分析家である女性。司法精神病院内での読書会のボランティアを主催するなかで、20年以上収容されつづけているブライアン・ベクトールド氏に出会い、社交的で知能も高い彼に個人的な興味をもったことで、彼自身や他の関係者への聞き取りなどをもとに彼の半生を調査することになる。
本書の特徴として、犯罪に至るまでの経緯に重きを置く一般的な犯罪ノンフィクション作品との違いとして、「その後」にフォーカスした内容であることを強調する。とはいえ、ブライアンの犯罪の動機となる家庭環境や犯罪発生時の様子をおざなりにするではなく、本書の第5章までの約四分の一は他の作品のように犯罪までの過程や原因にフォーカスする。
ブライアンの育った家庭は悲惨なものであり、育児を半ば放棄した両親に育てられるネグレクトといえる状況のなか育った。ブライアンは五人兄弟のなかで遅れて生まれてきた末子であり、冷酷な父親の影響で母親も育児に関心をもたない家庭にあって、彼の面倒を見るのは主に姉たちの役目だった。しかし都市が離れていることや両親の仕打ちに耐えられなくなった姉と兄たちは次々と家を離れ、ブライアンだけが冷酷な両親のもとに取り残される。その後の紆余曲折を経て、1992年2月に、妄想型統合失調症を患っていた23歳のブライアンは、両親を殺害してしまう。
ブライアンの姉と兄たちも被害者であったベクトールド家の悲惨な家庭環境とブライアンを含む子どもたちへの態度を見るにつけ、殺害という最悪の行為とはいえどブライアンを一方的に責める気持は起きない。元凶は妻も含めて一家の全員に対して冷酷な態度を取りつづけた父にあると言えるが、その父の子供時代も家庭的に恵まれてはおらず、本件に限らず散見される虐待の負の連鎖の一例がここにも見受けられる。
その後、ブライアンが自首したあとの鑑定結果によって司法精神病院に収容される。この点が分岐点であり、著者が本書で前提とする重要な問いのひとつが、「刑務所ではなく司法精神病院に収容されることは当事者にとってプラスなのか?」ということにある。刑事責任能力なしの鑑定は罪を免れることによって、無関係な人々にとっては「ズルい」というような感想を抱かれることも一般的な感情として理解はできる。ただ、本書がメインに描くブライアンの「その後」を見れば、必ずしもそうとは言えないのではないかというのが著者の訴えるところである。
先の通り、本書の大部分は司法精神病院収容後のブライアンの二十数年を描くことに費やされる。著者の弁では、「統計によると両親を殺した子どもが再び殺人を犯すことはほとんどない。彼らの恐怖や怒りの対象はもう死んだからだ」として、ブライアンという人物の危険性の低さを客観的に提示する。そのうえで、ブライアンと同様の犯罪や、さらに重い罪を犯した被収容者でも解放されていくことは決して珍しいことではなく、場合によってはブライアンは自分の入所時には生まれてもいなかった被収容者が社会に復帰していくのを目の当たりにし、ときには焦り、そして絶望を深くしていくことによって、ブライアンのその後を大きく変える決断にも迫られる。
ブライアンの収容体験から見えてくる司法精神病院の実態は決して健全なものとはいえない。すべてのスタッフではないものの、医師、看護師や警備員といった多くの関係者の士気は概ね高いとはいえず、稀に良心的な医師に出会ったとしても担当がつづくかは運に大きく左右される。それどころか、被収容者に対してマウントを取って非道な行動を働いたり、あるいは被収容者への恐れや偏見からくる過度な投薬や監視はあとを絶たず、長い収容期間のあいだブライアンがそのような状況に苦しめられる場面が幾度となく描かれる。とくに、患者の状態にたいして無理解な医師による画一的な投薬の方針には、憤りを感じさせられる場面がとくに多い。また、このような収容生活で自身の主体性を大きく毀損されることにより、精神病院よりも犯罪者として刑務所に収容されたいというブライアンの希望については、人間にとっての主体性の大切さを改めて感じさせられる。
本書の描く司法精神病院の状況をみるにつれ、いくつかの問題点を突き付けられる。ひとつは慢性的な人員不足によるスタッフの余裕のなさが環境の悪化につながっているであろう点。次に、精神病院でありながらも、精神病、本書ではとくに妄想型統合失調症にたいするスタッフの偏見や恐れの根強さ。最後に、病院のスタッフ、ならびに判事をはじめとする司法の事なかれ主義である。ブライアンが苦しむ要因は常にこれらのいずれかによって引き起こされているようにみえる。
基本的に著者のブライアンに対する同情的な心証が本書に大きく影響しているため、読み手としても勢い彼に同情する気持ちにさせられる。ただし、ブライアンの社会復帰が叶わない理由としては、スタッフからの扱いと退所できない焦りによって追いつめられた彼が起こした、主に二つの行動が大きな禍根となっていると考えられる。この点に照らし合わせると、普通に考えれば人当りもよく理路整然とコミュニケーションを取ることができる彼の退所について、病院のスタッフや判事が二の足を踏む心情も理解はできる。ブライアンの立場からすれば冷淡な事なかれ主義に過ぎないのだが、彼の退所後に問題があった場合、自分たちが糾弾されることを考えれば、現状通りを選択したくなるのは、第三者の立場としては必然的であるとはいえる。
ブライアンという一人の男性の半生をたどることで、司法精神病院のあり方の見直しを迫る著書だった。その根本には、刑務所と同じく犯罪者を収容する本当の目的が何なのかという本質的な問題が横たわっているように思える。刑務所にしても、司法精神病院にしても、本来の目的は基本的に(少なくとも建前上は、)被収容者の社会復帰が目的のはずだが、実情としては危険と判断した人々を分断して閉じ込める施設としての側面の強さは否めないようだ。ブライアン側と病院・司法側のそれぞれの主張に根拠が認められることを考えれば、司法精神病院を中心とした構造的な問題が解決しないかぎり、今後もブライアンのような入所者が生まれる可能性は避けれなさそうだ。続きを読む投稿日:2022.08.07
刑期なき殺人犯――司法精神病院の「塀の中」で。ミキータ・ブロットマン先生の著書。精神疾患や精神病と凶悪犯罪の問題はとても難しい。精神疾患や精神病と凶悪犯罪の問題はとても難しいのは日本だけではなくて外国…でも同じこと。精神疾患や精神病の状態で凶悪犯罪を犯して刑事責任能力なしと判断されてもそれで万事解決というわけではない。司法精神病院へ措置入院。それからも精神疾患や精神病の状態で凶悪犯罪を犯した本人の人生は続くし周りの支援も必要。精神疾患や精神病の患者さんをサポートする制度を整えないと問題は解決しない。続きを読む
投稿日:2022.10.08
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