おしゃべりな脳の研究――内言・聴声・対話的思考
チャールズ・ファニーハフ(著)
,柳沢圭子(訳)
/みすず書房
作品情報
あなたの頭の中の声は、どんなスピードで語りますか? 脳内の語りをつねに使って思考しているのに、私たちはこんな素朴な問いにさえ答えられない。本書は、内なる声(内言)や聴声(幻聴)の本質を探り、それらと思考や意識との関係を捉えなおす試みだ。読めば、内言や聴声の経験の想像を超える多様さに、まず驚かされる。脳内の「声」は当人の声に似ているか、完全な文章で語るかといった一般的性質はもちろん、スポーツ選手のセルフトーク、ろう者の場合、小説家が登場人物の台詞を綴る場合、黙読、fMRIで捉えた特徴など、内言や聴声があらゆる方向から調べられている。「声」の経験の圧倒的な多様性の前では、日常的に感覚している脳内の語りと、「病的」とされてきた聴声の間の線引きも色褪せはじめる。「多くの人の内言には、ほかの声が満ちあふれているのである。」「私たちは聴声経験の聴覚的性質にこだわるのをやめて、見過ごされてきた事実に目を向けるべきである。まず、声は交流できる存在だということ。」これらは、「対話的思考」と呼ぶべき本性への手がかりであると著者は言う。ピアジェ、ヴィゴツキーといった偉大な心理学者たちも、内言や聴声を意識の本性についての大きな手がかりとした。読み進めるほどに心を奪われる、ユニークな探究の書。
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この作品のレビュー
平均 3.4 (9件のレビュー)
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豊穣な対話なのか、病的症状なのか
"外言"が"他者とのおしゃべり"だとすれば、"内言"は"心のおしゃべり"、"セルフトーク"あるいは"無音の独り言"のことで、漫画であれば、あの点線で囲われた吹き出しで表される。
一方で、自らが生み出…したという自覚もなければ、鳴き声など言語ですらない幻聴もある。
本書の表紙になぜ鳩の絵があるかと言えば、神の声を鳩の囀りとして聞いたことに由来しているのだろう。
追い払いたくても追い払えず、常につきまとい続ける声もあれば、啓示を与え、叱咤・激励し、創造性の源にもなる脳内の言葉。
これは、いったいどのように生まれるのだろうか?
本書の冒頭、コートで自分としゃべるテニス選手の例が紹介されている。
プロ野球であれば、かつて巨人の桑田選手もマウンド上でボールに向かってつぶやいていたが、あたかも脳内にいるコーチと会話するがごとく、そこで助言や叱咤を授けられる。
このように内言は、自己制御の機能を持ち合わせていて、プロ選手はパフォーマンスの向上に役立てている。
しかし我々はセルフトークを、誰に教わるでもなく、2歳になる幼児からすでに実践しはじめている。
言葉を覚え、他者との意思疎通を始めるとほどなく、その対話が自己にも向けられ、内言の基盤が築かれるのだ。
ここに、内言がなぜ対話の性質を伴っているのかの答えがある。
子どもが他者と交わす会話が「地下に潜る」ことで、 つまり内在化されることで、 外的なやりとりの無音版を形成し、内言が現れる。
さらに発話がこのように内在化する過程では、内言を徐々に変容もさせていく。
「内言は通常の発話の約10倍速く心をよぎる」と言われるように、短縮や省略、凝縮されることで、聞き手である自分以外には理解されないものに変わっていく。
そういう意味で、登場人物の心の言葉を表現する、漫画のあの点線で囲われた吹き出しは偽りで、実態は解読不能の暗号に近い。
藤井聡太7冠の深すぎる読み筋も、もし心の声が言葉になって聞こえたとしても、実際には彼にしか解読できないか、そもそもスピードに追いつけないだろう。
じゃあ、この内言をどうやって研究するのか?
内観は経験そのものではなく、常にある意味で経験の記憶であり、観察という行為自体によってそれも変質させられてしまうと言われるのに、かなり難しい対象であることに違いない。
筆者らは、記述的経験サンプリング(DES)という手法を用い、日常生活において被験者に、ランダムでブザー音が鳴る小型装置を身につけさせ、その合図の瞬間の経験を書き取らせている。
その経験とは、視覚的イメージや身体的感覚、そして内言だ。
間を置かず、鮮度の高い状態で意識経験を記述することで、変質を防止している。
しかしこの手法は、批判が多い。
まず意識の瞬間を捉えたと言っても、記憶によって事後に再構築されるのを排除したわけではなく、不完全なものにすぎないという点。
それともっと手厳しいのは、全体に信頼性が低く、あまりにも非科学的過ぎるという批判も。
ただ、主観的経験を一顧だにしない心の科学などありえないし、それこそ空虚で無意味だろう。
脳画像研究のように、実験室で人為的に外部から刺激を与え、どの脳の領域や神経が活性化したかをモニタリングするだけでは、それも限界がある。
そもそも我々の経験は、そうした計器パネルの針の触れやパターンに還元されるものではないはずだ。
内言は、日常生活の発話が省略され、縮約された形となることが多く、しかも自分自身の声や訛りが反映されることも。
もう一つ、関連して黙読の話も面白い。
「黙読という営みが、個人的な思考、つまり自立した思考をもたらした」と言われるほど、これが文化的に果した役割は大きい。
小説を読む醍醐味は、頭の中が登場人物たちの声でいっぱいになることで、作家のなかには、この内言を最高の建築材料として用いる者もいる。
「ジョイスの文章の中では、内と外の境界が透過性になっている。世界が心の中に取り込まれ、思考が世界へ広がっている」
「小説家は架空の声を巧みに操ることで、私たちをコントロールされた自己消滅へ導き、その後、もとの自分へ無事に帰してくれる」
「小説を読むことは、ほかの心との最高に親密な関わり合いになる」
それだけ感情移入が強烈なためか、しばしば愛読書の映画化は、キャラの声がイメージと違うなどの不満につながることも。
あるいは「名前はボンド。ジェームズ・ボンド」という一文を読んだだけで、ショーン・コネリーやダニエル・クレイグの声が聞こえてしまったり、中には手紙を読むとき、手紙の書き手の話し声が聞こえるという人も。続きを読む投稿日:2023.06.03
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軸となる明確な結論が出るわけではないが、内言について、精神病に閉じないフラットな視点から様々な論点を提示している。
個人的な体験としては、内言→幻聴は統合失調症と直結して捉えられることが多かった記憶が…あるので、その認識を改める良い機会だった。雑に統合失調症にまとめられて生活苦しい方が日本には多そうだなと思った。
自分の思考についても考えさせられた。対話はあまりピンとこず、自身とは異なる別人格が話しかけてきたこともないが、黙読したり思考が流れているこの状況はなんなんだろう、と客観的に認知してみると面白い。続きを読む投稿日:2024.01.31
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