タラント
角田光代(著)
/中央公論新社
作品情報
あきらめた人生の、その先へ――
片足の祖父、学校に行けなくなった甥、〝正義感〟で過ちを犯したみのり。小さな手にも使命が灯る、慟哭の長篇小説。
「今、だれもがスタートを待っている」
周囲の人々が〝意義ある仕事〟に邁進する中、心に深傷を負い、無気力な中年になったみのり。実家に届く不審な手紙、不登校になった甥の手で、祖父の過去が紐解かれるとき、みのりの心は、予想外の道へと走りはじめる。
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この作品のレビュー
平均 3.9 (145件のレビュー)
-
「再生」の物語。心を震わす傑作。
読み終えて装画をじっくりと味わう。嗚呼この色しかない。どこまでも澄んだ青さ。雲一つない青空。
胸に抱いた夢、向こう見ずな青い情熱を、いつか…何処かに捨ててしまった経験は誰にもあると思う。
その理由は様々で、その度に勇気も失われてしまったのではないだろうか。
それが歳を取り大人になることだと諦めてしまうのは簡単でも、そうじゃないんだよと語りかける。
後半は涙腺がほぼ崩壊していたが、じいちゃんの独白の正体(?)が分かったときは驚きと嬉しさで…。
長編でエピソードは多岐に渡り登場人物も多いのですが、是非!読んでいただきたいです。続きを読む投稿日:2023.12.07
このレビューはネタバレを含みます
『文学キョーダイ!』でおすすめされていた一冊。
レビューの続きを読む
面白かった!
映画化だと削られてしまうし、朝ドラで実在する人物以外を題材にしたものもあるので本作映像化しないだろうか。。
パラリンピックの歴史も知らなか…ったので巻末の参考文献が有難い。かつての戦争や、現代の戦争についても。
『日本のパラリンピックを創った男 中村裕』
『アナザー1964 パラリンピック序章』
これは今年中に読みたい。
核となるのは大学進学で状況した女性とその祖父。
女性はこれから踏み出すだろうが、祖父の人生は分岐点が悲しい。。40歳で動いていたらどんな人生だっただろうか。けれどそうすると女の子と会わないわけで。。
最後の独白が嬉しくもあり切なくもあり。
2020年7月18日から2021年7月23日まで、読売新聞でリアルタイムで読んでいた読者はどんな気持ちだったのだろう。
これから2020東京オリンピックの物語を読むときのコロナ禍での切なさを後世の人はどう感じるのだろう。
2021年出場選手の再予選あった種目もあるし。
かつてやる気と行動に満ち溢れていた女性が現代のように生きるようになった理由を「これか?このことが原因か?」と読み進めていく。
現代と過去と祖父の独白と、本当に引き込まれる。
分厚いのに、残りぺージが少なくなるのが惜しくなる。
3.11もあり、テロもあり、データが揃っているのもあるけれど、現代は事件が多いように感じる。
本作がもし映像化したとしたら(ボリューム的に難しいかな。。)見終わった後、暫く引きずられそう。
三部作も良いけれど、映画を一本見終わった後のあの感覚はインプットとしてとても好きな時間。
『でも、それまでは見えなかったものを見て、それまでは知らなかったことを知って、それまでは考えなかったことを考えて、それまではやろうとしなかったことをやっている、という実感が…世界が開いていく感覚があった。その実感が錯覚かもしれないなどとは、そのときは疑わなかった。…自分にもできることがある、と信じることができた。』
『何になりたいと言えるのは学校に通っている間だけで、あとはもう、何にならなくても自分に出来ることをするしかない。…そんなのことを十四歳…に言うつもりはない。』
『人は、善意にはぜったいに善意を返すものだと、意識する事もないくらい強く信じていたのだ。それが世界共通のルールだと信じていた。…寄付や支援物資を沢山持って…いけば、とうぜん、笑顔とお礼が返ってくるはずであり…ツアーでまわる場所にお金を要求する人がいてはいけないのだった。笑顔と感謝があふれていなければならないのだった。…そう信じていたから…あんなにも動揺したのだと…気づく。恥ずかしかったのは、お金を要求されたことではなくて、のんきに勝手なルールを信じていたことだ。』
『ものすごいパワーであたらしい境地を切り開いていく人って、どうやってそうなるのかなって、…もともと自部にそういう力があってそれを二百パーセント発揮させたのか、それとも、何かから選ばれて、…意思をはべつに特殊な使命を帯びてるんじゃないかって…
本当は静かに平凡に生きたいのに、何かこう、やらないきゃなんないみたいなことになって…』
『(選ばれし何者かと、そうでない大勢ともちろん後者がいい)子どもの時は違ったけど。じつはとてつもない才能があって …空想したりしてたけど。』
『でも本当の意味で世界を変えていくのは、選ばれし人じゃなく、その他大勢だよな。ひとりが使命をまっとうしても、大勢が何も変わらなかったら変わらないままだから。』
『心配よりも恐怖が勝り、今まで感じたことのないその恐怖は、いつのまにか…の内で怒りと区別がつかなくなっていた。』
『やりたいことがたくさんあって、そのたくさんをこの先やれたはずの人間が、なぜいなくならねばならないのか…神様はなぜわざわざそんな有望な人間を選ぶのか』
『私達とは違う世界の、弱ってる人は、弱々しくいてほしいって…違う遠い世界の人のはずだって思い込み』
『この子たちは困難な立場にいるというだけで、私と隔たった異世界にいるのではない。
かっこもつけたいし、写真にはきれいに映りたい。学校に行きたいのは勉強したいからではなくてサッカーがしたいからだし、…起きるのもいやんなるよ、という男の子の言葉に「わかるよ」と応えそうになった』
『そうやってつらさ比べをしていたら、この子たちの困難は他人事になり、この子の暮らす世界は異世界になる。…朝起きるのがいやになる、という小さな絶望が、わかるか、わからないか、だいじなのはそこだ。あるいは想像できるか、できないか。比べたらだめだ…大小を比べた途端に、わたしたちは想像を放棄する、そして断絶してしまう。…彼ら彼女たちのつらさは特殊ではない、』続きを読む投稿日:2024.04.09
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