なりすまし――正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験
スザンナ・キャハラン(著)
,宮﨑真紀(訳)
/亜紀書房
作品情報
「病院に入りたいなら、頭がおかしいふりをしなくちゃ」
脳炎を精神病と誤診された過去を持つジャーナリストは、かつて全米医学会を大きく揺るがした心理学実験――精神病患者になりすまして病棟に潜入する「ローゼンハン実験」の調査・取材を開始する。やがて、実験に隠されたある奇妙な点に気が付く。次第に明らかになる衝撃の真実とは...!?
「これは患者5213号の初入院の模様である。名前はデヴィッド・ルーリー。39歳のコピーライターで、子どもが2人いる。頭の中で声が聞こえるという。しかしそこには問題があった。彼はコピーライターでもないし、ルーリーという名字でもない。じつはそんな人物は存在しないのだ。実在しない『デヴィッド・ルーリー』は偽患者だった。約50年前、医師が精神病患者とそうでない人を区別できるのかどうか確かめるために、精神科施設にみずから入院した8人の健常者のうちの最初の1人なのである」(本書より)
「調査報道の偉業。探偵小説のような説得力」(「エコノミスト」誌)
【目次】
■ はじめに
第1部
第1章 鏡像
第2章 ネリー・ブライ
第3章 狂気の存在する場所
第4章 狂気の場所で正気でいること
第5章 謎が謎に包まれている謎の男
第2部
第6章 デヴィッドの本質
第7章 「ゆっくり進め、場合によっては足踏みのままでもいい」
第8章 「わたしなら、正体を隠しとおせるかもしれない」
第9章 入院許可
第10章 マッドハウスで過ごした九日間
第3部
第11章 潜入する
第12章 ……結局、人が正気かどうかわかるのは正気でない人だけだ
第13章 W・アンダーウッド
第14章 クレイジーエイト
第15章 第一一病棟
第16章 氷の上の魂
第17章 ローズマリー・ケネディ
第4部
第18章 真実の追求者
第19章 「ほかの疑問はすべてここから生まれる」
第20章 標準化
第21章 SCID
第5部
第22章 脚注
第23章 「すべては君の頭の中に」
第24章 影の精神衛生ケアシステム
第25章 決定打
第26章 疫病
第27章 木星の月
■ エピローグ
■ 謝辞
■ 訳者あとがき
■ 原注
■ 図版・資料許諾
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商品情報
- 著者
- スザンナ・キャハラン, 宮﨑真紀
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 亜紀書房
- 書籍発売日
- 2021.04.21
- Reader Store発売日
- 2021.10.15
- ファイルサイズ
- 3.8MB
- ページ数
- 466ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (10件のレビュー)
-
著者には脳炎を精神病と誤診された過去がある。危うく精神病棟に移送されかけたが、別の医師が脳炎を見抜き、事なきを得た。なぜ簡単に誤診が起きてしまうのか? 精神病とはいったい何なのか? 著者は自身の体験…から、こう問い続けた。脳疾患と精神疾患の境目について調べていく内に、著者がたどり着いたのは「ローゼンハン実験」だった。
ローゼンハンと実験協力者は、統合失調症の症状を偽って訴え、精神病棟への入院を果たした。入院後、自分たちの症状が「回復」するまでの経緯と精神病棟の現場における実態を詳細に記録した。研究成果は「狂気の場所で正気でいること」という論文に結実し、権威ある学術誌である『サイエンス』誌に掲載された。
1つの重要な事実はローゼンハンたちが偽患者として入院を易々と果たしたことで、ローゼンハン実験は「正常」と「異常」の区別が付かないことを端的に示したのだった。科学的な診断基準が確立していない精神医学はその他の医学領域と大きく異なる。正確な判断が付かないならば、誤診が蔓延するのもむしろ当然といえる。
ローゼンハン実験は著者が探し求めていた答えを与えてくれるものだ。この実験を知り、著者はきっと快哉を叫んだことだろう。
精神医学の闇を白日の下に晒したのはローゼンハンの功績と言える。その一方で著者は、ローゼンハン実験の罪を弾劾する。ローゼンハン実験以後、社会全体が精神医学を敵視する傾向が強まり、精神衛生システムに予算をまわすのをためらいがちになった。結果、精神科医や病院が減った。「入院のためには演技が必要で、入院したければ、自分が危険な存在だということを提示するか、著しく心身の機能が損なわれている状態が必要とされる」(327ページ)状況が実現するに至った。ローゼンハンたちが入院のために演技を必要としたことを思えば何とも皮肉な結果である。「病人の行き着く先は病院でなく刑務所」となった。
著者の議論にはうなずける所も多いが、この「罪の告発」はいささか大げさであるようにも思う。ローゼンハン以前から精神医学に対する不信感は社会に根強く、ローゼンハン実験はいわば最後の藁に過ぎないように感じられる。『サイエンス』の権威が絶大とはいえ、1本の論文が社会をまったく変えてしまうとは、私には考えられない。
ところで、本書のドラマは上記とは別の所にある。
著者はローゼンハン実験に感銘を受け、実験の詳細を知りたくなった。そして、実験について詳しく調べていく内に、衝撃的な事実が明らかとなっていく。ローゼンハン実験にはデータの捏造があり、それどころか、論文中で言及されている偽患者のほとんどについて、その実在が確認できないのだった。ローゼンハン実験から30年以上も経つので、確認しようがない情報も多い。それでも、隠された証拠から真実に迫っていく本書には、どこか推理小説のような趣がある。続きを読む投稿日:2022.09.21
このレビューはネタバレを含みます
面白かった!アメリカを始めとした精神医学の歴史がわかって興味深かった。
レビューの続きを読む
・戦争のPTSDを発端とする精神医学と治療の必要性の高まり(DSMの始まり)
・フロイトを始めとする精神分析とアサイラムの広が…り
・ローゼンハンの論文(精神障害の定義の不明瞭性と不当な精神病院への収監、非人道的な治療法への批判)1973年
・症状別の詳細な病名の定義(DSMⅢ 1980年スピッツァー)と対処療法の確立→診療の標準化を果たす一方で、根本的な病因の究明の視点の欠如(治癒の有効性への疑問)、一人間としての包括的な診療の妨げ、製薬企業との癒着といった問題も
・公的支援の不足による精神病院の閉鎖、地域福祉に包括されることなく刑務所へ回収される精神障害者たち
・遺伝子学・免疫システムの観点・技術の進歩により解明されてきた精神障害の要因、精神病院の復活(コミュニティ形成、治療者との対話による信頼のプラシーボ効果、症状に対する文化判断による悪化を防ぐ効果のあるオープンダイアローグ)などの今後の希望
...という理解!
精神医学、正常と異常の区別が歴史上終始曖昧すぎてちょっと唖然とした。
個人的に面白かったのは、
・電気ショック療法を好んでやりたがる通称「火花先生」(“誰にでもやりました、そのチャンスさえあれば。ええ、職員も含めて”)←職員にもはもはや趣味すぎて笑える
・電気ショック療法の創始者(“ローマのと畜場を訪れたときに、突き棒で電気ショックを受けると豚がおとなしく従うのを見たと聞き、考案した。どうしてそういう発想に至ったのかは、分からない”)←本当に分からなすぎてうける
・フェミニストの妻を精神病院に厄介払いするも、妻が作家で有名人なためすぐ退院され糾弾された作家←厄介払いで入れられるの怖すぎるけど妻が強くて面白い
・ローゼンハンとスピッツァーの仲の悪さ(外交的で魅力的、主張は的を射ているけど細部は適当なローゼンハンと、データ分類が好きできっちり仕事するスピッツァー。表向きは丁寧に文通しているけどお互い慇懃無礼に批判しあっている)←研究者っぽい面倒くささ。これが現代の診療基準の根幹になっていると思うと興味深い。(あとスピッツァー、子供の頃に女の子の色気評価尺度作ってるの割と気持ち悪くて面白い)
・DSMⅢ策定は合議制で誰もが相手に被せるように話していてスピッツァーがタイプするのに精一杯だったこと←スピッツァー偉そうな割に1番面倒くさい所を担ってるし、きっちり分類してる割に肝心の根拠が曖昧で笑える。自分もこういう仕事しがち。
ケネディ家のローズマリーの話は可哀想すぎたしぞっとした。完全なる人権侵害なのにわりと最近まで行われていたのが怖かった。
それらを読んだ上で、はたから見たらだいぶおかしい側面もあるけど、それら全て含めて、精神医学はこれだけ曖昧なものに立ち向かい解決するために戦い続けてきたんだと思ったらホロリとした。
日本でも、精神障害の診断を下される人が増えている一方で嘘と言われやすかったり、発達障害がスペクトラム(連続体)であるという概念が広まったりしているなと思っていたけど、そもそもの診断基準がこんなに曖昧(議論を繰り返し更新していくもの)なのかと分かった。
定義を広くして助けを必要としている人を取りこぼさないようにするのか、定義を狭くして重症の人々へのケアを手厚くするのか、考え方の問題でも変わっていくことも分かった。
精神障害者のケアをどこが担うかという話も、精神病院への収容と拘束が問題になる一方で、仕事で関わる人の話を聞くと、やっぱり暴力的であったりコミュニケーションが難しい人を家族が軸となって世話したり周りに迷惑をかけずに自立して地域で暮らしていくのは限界があるという意見があったりするし、軽度の障害が生活を最もやりにくくさせる、そういう人が結局刑務所に行き着いてしまうという話も聞くから、社会問題として現実につながっている話だと思った。
続きを読む投稿日:2023.01.10
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