有栖川有栖選 必読! Selection9 後ろ姿の聖像 もしもお前が振り向いたら
笹沢左保(著)
/徳間文庫 トクマの特選!
作品情報
真夏の工場駐車場で絞殺された元女性歌手。発表前の歌謡曲「そのとき」の盗作を巡る八年前の殺人事件の目撃者であったことから、出所したばかりの犯人・沖圭一郎に容疑が。しかし沖は、鉄壁のアリバイを隠し、あえて脆弱な嘘で自らを冤罪を課そうとする。登場人物の奇妙な行動の謎がすべて一曲の歌詞へと収束していく、逆説的な二重アリバイの離れ業。作家生活二十年目の野心作! ドキュメント風の冒頭部から、落涙必至の結末まで、謎と不運に翻弄されながら一つの信念を貫く魂の遍歴。超技巧のミステリ。(トクマの特選!)
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商品情報
- シリーズ
- 有栖川有栖選 必読! Selection
- 著者
- 笹沢左保
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 徳間書店
- 掲載誌・レーベル
- 徳間文庫 トクマの特選!
- 書籍発売日
- 2023.02.08
- Reader Store発売日
- 2023.02.08
- ファイルサイズ
- 3.6MB
- ページ数
- 306ページ
- シリーズ情報
- 既刊12巻
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この作品のレビュー
平均 3.0 (3件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
物語の幕が上がるなり、製パン工場の駐車場で他殺死体が発見される。被害者はバーを経営する女性、十津川英子
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荒巻という部長刑事が、自分より若いが階級が上の御影警部補とコンビを組み、容疑者が主張するアリバイの打破に挑むのが前章。荒巻は、8年前に有名な作曲家、船田元を殺しで服役していた、沖圭一郎が出所していることから、沖が復讐のために十津川英子を殺害したと考え、捜査を進める。
御影は、50万円が当たっていた宝くじをなくしてしまい、気になっているという描写がある。これはちょっとした伏線である。
十津川英子は、かつて岬恵子という名の歌手だったが、30歳でオスカル・ロメロというブラジル人と結婚し、日本を去る。その後、離婚をし、帰国。日本でバーを経営していた。英子は電話魔であったという。この点も伏線となっている。
バーの共同経営者である砂川多喜夫、愛人である大出次彦が容疑者であったが、荒巻は、沖を疑う。沖は伊吹マリ(中丸大樹という議員と結婚し、中丸マリとなっている。)という女優のマネージャーだったが、十津川英子の通報と証言で、船戸殺害事件の容疑で逮捕され、服役していた。
荒巻は見事な聞き込みで、英子の家政婦の清水初江から、英子が殺害される直前の電話が、「沖さん」から掛かってきたものだということを聞き出す。
ここからはアリバイ崩し。沖は九州にいて、猫と犬の喧嘩が人間同士の喧嘩になり、警官が仲裁に入るという事件を目撃したという。今ならネットなどでこういった情報が得れるが、当時だと、こんな珍事件を知りようがない。しかし、荒巻は、九州に行き、聞き込みにより、沖が電話で知人から、この事件のこと聞いていたことを知り、アリバイを崩す。
荒巻が、沖にアリバイを崩したことを伝えると、改めて、かつて、沖がマネージャーをしていた、元女優で、現在は議員婦人である中丸マリと会っていたというアリバイを主張。しかし、中丸マリは、沖と会っていたことを否定。このことを知った沖は、踏切に飛び込み自殺
沖には、英子を殺害する動機があり、殺害前に沖が英子を呼び出した電話を掛けていた可能性が高い。そして、アリバイの偽装をし、アリバイが崩れると自殺。沖が英子殺しの犯人であることは間違いないように見えた。
しかし、この後、沖は北海道で北都音楽学院の理事長に会っていたというアリバイがあることが分かる。
沖にはアリバイがあり、犯人ではなかった。なぜ、沖は、アリバイを主張せずに自殺したのか?ここで前章が終わる。
中章として、再捜査が始まる。普通に考えれば、沖が誰かを庇っていたと考えるのが自然ではある。
再捜査では、まず、共同出資者で容疑者である砂川多喜夫のアリバイが成立する。
ここで、荒巻と一緒に捜査をしていた御影が、電話魔である英子が、殺害時に、電話番号の記入帳を持っていなかったことに違和感を覚える。犯人は、電話番号の記入帳を持ち去ったのではないか。
もう一人の容疑者である大出次彦は、アリバイとして、自身が秘書として勤める小早川という議員と、中丸マリの夫である中丸大樹が密会する場にいたと主張。大出のアリバイが成立する。
また、沖のアリバイが成立した経緯の中で、沖は、誰かと結婚するつもりであったことが分かる。沖は誰と結婚するつもりだったのか。沖の弟から、沖は、かつて、中丸マリの姉である高原アキと愛し合っていたし、沖がほかの女性と結婚することは考えられないという。
荒巻の娘は、芸能界に入りたかったが、荒巻が反対したことを理由に自殺した。沖が犯人だと決めつけて捜査をしていたのは、沖がかつて芸能界でプロデューサーに近い仕事をしていたことに対する私怨もあり、自殺に追い込んだと考え、落ち込んでいる。
しかし、御影は、沖は荒巻に自殺に追い込まれたのではなく、自殺する理由があったと考える。それは、出所後、結婚しようとしていた中丸マリに裏切られた絶望感からではないか。
終章。沖は、中丸マリと結婚できると考えていたが裏切られたが、信じきれない。そこで、自分が殺人事件の容疑者になっているということを利用し、中丸マリを試した。そう推理するも、何かが足りない。そんなことをしても、中丸マリが嘘の証言をする訳がない。
ここから、様々なことが分かっていく。まず、中丸マリはかつて、姉の遺言により、沖と結婚する約束をしていた。英子が、かつて、ブラジルに行く際に、自身の母親の世話を頼んだ親戚に600万円を渡していた。この金は、「ボーイフレンド」からもらったと言っていた。この金を沖からもらったとしたら?
ここで、50万円の宝くじの伏線が回収される。御影は50万円をイソ万円と言い換えることに気付く。これが、英子が殺害前に呼び出された電話で、「沖さん」といっていた部分につながる。「沖さん」ではなく、「おおきさん」ではないか。おおきさん→大樹。ここで、英子と中丸大樹がつながる。
沖は、船田殺しで8年間服役していたが、船田殺しの真犯人は、マリだった。沖は、マリを庇って8年の服役をしたが、マリに裏切られていた。
マリはそのことを中丸に相談していた。英子は、中丸からマリが殺人犯だという真相により恐喝できると考えたが、中丸に殺害される。マリは、中丸が英子を殺害したことを知っていた。そのため、沖から、十津川殺しの容疑者である。アリバイを偽装してほしいと電話で聞いたとき、英子が殺害されているということを知っている者としての対応をしてしまった。
英子は、マリが殺人犯であることを告げ、中丸大樹に5億円の金を要求したという。しかし、中丸は、マリを責めず、マリの罪まで愛しているといって、英子を殺害した。マリは、沖が自殺したことについて全く後悔をしていないという。
最後、御影の宝クジが見つかる。下一桁が3と8の違いで当たっていなかったというオチ
毎度毎度のことながら、笹沢佐保の作品らしく、冷淡な女性が出てくる。自分の殺人の罪を庇って8年服役した男を裏切る女、中丸マリである。沖が自殺をしても、全く後悔していない現実的な女性。笹沢作品に登場する女性は、こういう自己中心的な女性が多い。
最後の解説にもあるが、この作品は、作中で捜査陣に対するトリックと、読者に対するトリックが仕掛けられている。作中で捜査陣に対してしかけられたアリバイトリックは、陳腐すぎる。電話で聞いた珍事件の証言というトリックともいえないようなもの。
読者に対するトリックは、船戸殺しの犯人が沖ではなく、中丸マリという点。沖は、自殺しようとしていたから、殺人の容疑が掛けられても関係がない。だから、ウソのアリバイを騙り、中丸マリが、最後には自分のためにウソをつくと信じ、賭けた。中丸マリが、自分を庇い、8年の服役をし、自分を信じている男を裏切る。嘘をつかず、むしろ、夫である中丸大樹のために、英子殺しの犯人にしたてあげようとしている。
この冷淡で現実的な女性感が笹沢佐保作品らしさでもある。
ミステリとしてはどうか。有栖川有栖は、予告されて身構えた読者を騙した作品。捜査陣も読者も翻弄した、トリックを何度も屈折さえて不思議な絵を描いたようなミステリと評しているが、そこまでとは感じない。
確実なアリバイがある沖圭一郎は、なぜ、アリバイを主張せず、わざわざ偽のアリバイを主張し、自殺したのか。これはそれなりに魅力的な謎である。
真相は、沖が庇い、代わりに8年の服役をした、船戸殺しの真犯人である中丸マリに裏切られていたが、それでも中丸マリをどこかで信じており、最後に命を賭して、賭けをしていた。しかし、マリはその賭けを冷淡に裏切ったというもの。これが、意外性とは感じなかった。
そういう話であり、これしか真相がない。筋は通っているが、ミスディレクションとなる真相がなく、意外性に感じようがない。
物語としては、中丸マリの存在感があり、最後まで読ませるがミステリとしてはそこまでの意外性はないので…★3で。
● サプライズ ★☆☆☆☆
沖が真犯人でないのは当然。沖が庇うならそれは中丸マリ。筋は通っているが、意外性は全くない。
● 熱中度 ★★★☆☆
笹沢佐保は小説が上手い。話のもって生き方、興味の引き方が上手い。ページをめくる手が止まらない…というほどの熱中度はないが、最後まで読ませる読みやすさ。
● 納得度 ★★★★☆
意外性が薄い分、納得度はある。宝くじの伏線は余計だが、電話魔の伏線から中丸大樹につながるのは納得度が高いよい伏線。中丸マリが、自分のために8年服役した恩人で姉の恋人でもあった沖圭一郎をあっさり裏切り、愛する夫である中丸大樹のために、むしろ、英子殺しの犯人に仕立てあげたという点に、全く後悔をしていないという描写にも、それなりの説得力があり、納得度を感じてしまう。
● 読後感 ★☆☆☆☆
沖圭一郎目線でみると、なんともやるせない話である。
● インパクト ★☆☆☆☆
珍事件の存在でアリバイを主張しようとした前半部分はちょっとバカミスっぽい。とはいえ、有栖川有栖が評価する読者へのトリックはさっぱり感じず。中丸マリの冷淡さも、むしろ、こういう女性っているな、という納得度で、あまりインパクトはない。
● 偏愛度 ★☆☆☆☆
沖圭一郎目線で読んだのでやるせない。笹沢佐保が描く女性は、現実的だと感じるが、それだけに、好きになれない。投稿日:2023.05.16
完璧なアリバイを隠して、犯人扱いされながら自死を選んだ男。アリバイ崩しから、彼の不可解な行動の理由を探るホワイダニットに物語のベクトルが途中で大きく変わるのがミソか。事の真相はドラマ的にこういうことし…かなさそうで、ミステリ的なロジックとは無関係に見当が付いてしまうのだが、それが疵というわけでもないだろう。ホントに読ませる。続きを読む
投稿日:2023.06.04
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