格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉
石井光太(著)
/日本実業出版社
作品情報
所得格差、職業格差、男女格差、家庭格差、国籍格差、福祉格差、世代格差……、いま日本社会は「格差」という地雷に埋めつくされています。
著者は、世界と日本の貧困、格差の取材を重ねているノンフィクション作家。これまで、10代から20代前半の学生を対象に、講演を通して「日本における格差」について伝える活動もしています。
その理由は、これ以上格差が大きくなれば、日本社会が取り返しのつかない状況に陥るから。格差は「分断」へ行きつくといいます。
たとえばアメリカでは、「白人/マイノリティー」に留まらず、「都市/地方」「高所得/低所得」といった多数の分断を引き起こしました。選挙が近づくと、国内で双方がお互いを罵ののしりあう姿が見られ、それが衝突にまでつながることもあります。
格差が拡大し、階層の断絶が深まっているからこそ、私たちはいま、「自分とは違う階層」の現実を知る必要があるのです。
そこで本書では、7つの格差構造と、ひき起こされつつある分断を具体的に紹介。
「知っている」と思っている人ほど知らない「日本社会の問題点」と、我々がいま何をすべきかが見えてきます。
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商品情報
- シリーズ
- 格差と分断の社会地図
- 著者
- 石井光太
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 日本実業出版社
- 書籍発売日
- 2021.09.01
- Reader Store発売日
- 2021.08.28
- ファイルサイズ
- 13MB
- ページ数
- 352ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (37件のレビュー)
-
私は何も知らなかった―――
ということが分かり、落ち込む。
いやいや、想像以上に何も知らないんだわ、自分。
今、この日本で、何が起こっているのか。
数々のノンフィクションを書き、「日本で屈指の進学…校の生徒、一流企業の創始者、国会議員に会う一方で、ひきこもり、外国人ギャング、暴力団構成員と膝をつき合わせて話を聞いてきた」石井光太さん。
彼がつくづく感じるのは「大半の人は自分が生きてきた世界、あるいはそれに近い世界しか知らず、それ以外は想像できない」ということだそうだ。
「子供達は同じようなタイプで集まり、そのまま大人になってひとつの階層を形成していく。」
そしてそれが極まると「分断」による「無理解」そして「衝突」だ―――と書く。
本書は豊富なデータと図で今現代の日本の「社会地図」を示し、事例も出しつつ、問題点をあぶり出す。
金持ちと貧困、正規と非正規、男と女、夜の町と昼の町、日本人と在留外国人、健常者と障害者、若者と高齢者など、ともすれば対立関係に陥りがちな「分断」。
それはお互い事情を知らない、ということが大きいのかもしれない。
16歳からの〈日本のリアル〉という副題がある通り、石井さんは未来ある若者に呼びかけるように書いているのだが、自分の世界を広げたい大人の方にも読んでほしい。続きを読む投稿日:2022.06.10
"両者は、同じ地域に住みながら乗っているレールがまったく違うので、接点がないに等しい。だから相手のことを理解することができず、何かあれば「貧しいのは努力していないからだ」とか「金持ちは不当に富を独占し…ている」と自分の想像だけで相手のイメージをつくり上げるので、距離は開くばかりになる。
無理解の先にあるのは、衝突だ。 (p.10)"
本書は、5552さんのレビューで知った。
決して誇張ではなく、読んでいてくらくらと眩暈がしてくるような、衝撃的な内容の本だった。
筆者は国内外の貧困、児童問題、事件、歴史などの社会問題を長年取材されてきたノンフィクション作家。本書では「16歳からの〈日本のリアル〉」として、主に中高生の読者に向けて日本にある格差の現状を示すとともに、この問題を解決するため何ができるのか考えるように促す。
「格差」と聞いて多くの人がまず思い浮かべるであろう「所得格差」について、日本の相対的貧困率が15.4%(2021年度)であることをご存じだろうか? これは先進国中最高レベルの数値である。格差・分断は、今や日本社会の至るところ、その奥深くまで蝕む病魔となっている。社会の「分断」が最初に生じる原因は不景気だったり社会通念だったり様々だと思うが、分断の最も救いようがないところは、それが再生産されるという事実にあると感じた。
”貧困の連鎖の悲劇は、いったんそのループに入ると、なかなか脱出できなくなることだ。そのため、何世代にもわたって貧困がつづくことになる。
ただし、貧しい家庭に生まれ育った人全員が、そこから抜け出せないわけじゃない。中には努力を重ねて人生を一発逆転させる人たちもいる。
そうしたことから、大人の中にはこんなことを言う人がいる。
「貧しさをバネに成功した人はいくらだっている。がんばれば、なんでも成し遂げることができるんだ」
この意見は間違いではない。でも、誰もが逆境を跳ね返して成功を成し遂げられるわけじゃない。
なぜかわかるだろうか。それは下流の人たちが、上流の人たちと比べて、ある体験をつみ重ねやすいからだ。それが当事者が生きる上での大きな障壁となる。
その体験とは、挫折体験だ。(p.55)”
チャンスは皆に平等に与えられているわけではない。ある人がアクセスできる資源は、明らかに彼の属する階層に依存するからだ。そして格差は、遂には人々の心まで侵す。一度分断が深まると、ある階層の人間は他の階層の人間との交わりが断たれ、無理解が広まる。すると、階層間の差異(格差)から敵意が芽生え、分断が一層拡大する。
”ホストは若いからコロナになっても死なないつって平気で店をやってコロナをバラまいている。政府はさっさと歌舞伎町のホストクラブを全部ぶっ潰して追い出せ! どうせ税金も払ってねえようなヤツらに好き勝手やらせるなんてないし、あいつらに医療費をかけるだけムダ(インターネット上の書き込み、p.153)”
”(ホストは)ほとんどが10代で社会からドロップアウトした人間ばかり。そんな人間にまともな仕事なんて用意されていない。だから、歌舞伎町に来てなんとか金を手に入れて、まともな暮らしをしようとしている。ホストには賞味期限があるのをわかっているから、みんな若いうちに1日でも長く働いて稼ぐことに必死だ。
そんな連中に対して、国がコロナが流行っているから店を閉めましょうと言ったところで、『はい』ってなるわけがないよね。(略)これまでホストは国を頼りにしてこなかったし、国だって見捨ててきた。だから、コロナに関係なく、自分たちは生きていく道を自分たちで決めていくってことだ。(ホストクラブのオーナーの話、p.155)”
(社会問題に限らず)過激なことを言いたがる人は世の中にごまんと居るが、彼らは結局、その言及対象のことをよく知らないまま放言しているに過ぎないのではないかと思う。対象のことを少しでも知れば、切って捨てるような発言はできないはずだと信じているからだ。無理解の上には、何の解決策も立ち上がらない。
逆に言えば、現状を打開するための第一歩は、問題を直視することなのだ。
”未来を担う君たちがすべきことは、大きく2つある。
1つ目が、日本社会の足元で起きている格差や分断の問題にきちんと目を向け、何が原因でどういうことが起きているのかを学び、それを改善していくこと。
2つ目が、君たち自身が地に足をつけて生きることで新しい価値観を示すことだ。(p.343)”
本書の内容が強く心に訴えかけてくるのは、筆者が取材によって得た、生の「現実」の重みゆえに違いない。思わず目を覆いたくなる痛ましいエピソードは、自分がこうしてそれほど不自由なく暮らせていることの有難みについて省みることを促す(少々皮肉だが、この本を読む機会があるかないかということに既に格差が顔を覗かせている)。自分のことで恐縮だが、高校から大学に進学して付き合う人間の幅が広がったとき、世の中には色々な人がいること、いかに自分が一つの階層の中に居たかを思い知らされたことを思い出した。自分が今生きている世界のすぐ隣には自分の知らない世界が広がっていて、(とてもじゃないが話が通じなさそうに見えても)そこに生きる彼らの言い分に飽くまでも寄り添おうとすること。これは非常に困難で、しかも「損」な役回りを担うことになるが、全てはそこから始まるのだ。
1 日本の格差はいかにつくられるか――所得格差
2 弱者を食い物にする社会――職業格差
3 男と女の不平等史――男女格差
4 格差と分断の爆心地「夜の街」――家庭格差
5 移民はなぜギャングになるのか――国籍格差
6 障害者が支援をはずされるとき――福祉格差
7 高齢者への「報復」は何を生み出すのか――世代格差続きを読む投稿日:2024.03.09
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