戦後経済学史の群像:日本資本主義はいかに捉えられたか
野原慎司(著)
/白水社
作品情報
「近代化」と「豊かさ」をめぐる思索
「日本資本主義」という〈問題〉がかつて存在した―。
明治以降の日本社会は、マルクスが捉えた資本主義の発展図式と異なるのではないか。もしそうだとしたら、日本社会はどのような資本主義社会であり、現状、どの段階にあるのか。
こうした論点をめぐり1920年代から30年代にかけて「日本資本主義論争」が起こる。さらにこの論争は、封建社会から資本主義社会への移行の問題として「大塚史学」に引き継がれる。
そして戦後社会科学は、この日本資本主義論争と大塚史学を揺籃に歩み始める。
そこで追求されたのは、日本資本主義の構造把握を通じた「近代化」と「豊かさ」の実現である。もちろん、どちらも戦時下の「生産力」の増強という要請の変奏曲でもある。
本書では、内田義彦、大河内一男、高島善哉、小林昇、水田洋、伊東光晴という戦後経済学の巨人に即して、日本資本主義がいかに捉えられたかを解明する試みである。
それは同時に「戦後」とはどんな時代だったかを明らかにすることでもある。日本資本主義が問われなくなったとき、戦後が終わったとも言いうるからだ。社会科学が輝いた時代へ赴く、渾身の書下ろし。
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この作品のレビュー
平均 3.0 (2件のレビュー)
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本書は、戦後の経済学史家6名を取り上げて、日本資本主義がいかに捉えられたかを論じている。取り上げられた学史家は内田義彦(1913−89)、大河内一男(1905-84)、高島善哉(1904-90)、小林…昇(1916-2010)、水田洋(1919- )、伊東光晴(1927- )。最後の伊東光晴を除いて、我々世代の先生の先生というくらいの世代が中心で、戦後の学史家といっても戦前に研究を開始した世代の方々である。
本書はこの6人が日本資本主義をいかに捉えられてきたかを中心に辿りながら、今なお考えられるべき問題(「近代化」の問題、豊かさとは何かなど)に対してどのように向き合うべきかを示唆している。
もちろん、日本資本主義どう捉えるかについては、1930年代の日本資本主義論争に典型的に現れているように、マルクス主義的な観点からの分析の成果がある。この6人は論争の当事者ではないが、かなり影響を受けて来た世代である。その意味でマルクスによる歴史把握をそのままテーゼとして受け入れるかそうでないかは別としてもその距離感を確認しておくことは重要であり、本書でも叙述されている。
また、歴史認識に関していえば、日本資本主義論争そのものよりも大塚史学的な把握が(伊東光晴は別として)、強弱はあるものの基本にはあるように思われる。大塚久雄は学史家でないという解釈だろうから本書では取り上げられていないが、マルクスとウェーバーの研究から導き出された大塚史学の方法は戦後の経済学史を考える上でもはずせないだろう(もちろん本書でも各所に大塚は登場するのだが)。その意味で本書は隔靴掻痒の感を否めない部分もある。
また経済学史的な視角以外に経済思想史的視角を入れると、日本の経済思想史研究も日本資本主義をどう考えるのかという点で欠かせないように思う。たとえば、石田梅岩、三浦梅園、山片蟠桃などなどの研究成果はスミスやリスト、マルクスばかりではない日本の経済学史研究の奥行きを浮かび上がらせるのではないだろうか。ないものねだり的な感想になって恐縮だが、その分野のパイオニア的な存在であった杉原四郎先生くらいは入れても良かったのではなかろうか。続きを読む投稿日:2021.02.25
戦後日本の経済学史が、内田義彦、大河内一男、高島善哉、小林昇、水田洋、伊東光晴をとりあげることによって、論じられていた。
大塚史学や日本資本主義論争の影響が大きい模様。それぞれの経済学者が、西洋の経…済学を日本の状況に照らして、どう考えようとしたのかの思考の軌跡が描かれていた。
「あとがき」では、(他の社会科学と同様に)経済学が細分化したこと、(マルクスのような資本主義に関する)批判の共有言語がなくなったことによって、資本主義の全体像をつかめなくなっていることが指摘されていた。その点が戦前生まれの経済学者と戦後生まれの経済学者を取り巻く状況の違いとのこと。
資本主義の全体像をつかむことは難しいけど考えていきたいと思った。あと、平等で自立した個人からなる市民社会についても考えていきたいとも思った。続きを読む投稿日:2021.03.15
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