フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔
高橋昌一郎(著)
/講談社現代新書
作品情報
21世紀の現代の善と悪の原点こそ、フォン・ノイマンである。彼の破天荒な生涯と哲学を知れば、今の便利な生活やAIの源流がよくわかる!
「科学的に可能だとわかっていることは、やり遂げなければならない。それがどんなに恐ろしいことにしてもだ」
彼は、理想に邁進するためには、いかなる犠牲もやむを得ないと「人間性」を切り捨てた。
<本書の主な内容>
第1章 数学の天才
――ママ、何を計算しているの?
第2章 ヒルベルト学派の旗手
――君も僕もワインが好きだ。さて、結婚しようか!
第3章 プリンストン高等研究所
――朝食前にバスローブを着たまま、五ページの論文で証明したのです!
第4章 私生活
――そのうち将軍になるかもしれない!
第5章 第二次大戦と原子爆弾
――我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない!
第6章 コンピュータの父
――ようやく私の次に計算の早い機械ができた!
第7章 フォン・ノイマン委員会
――彼は、人間よりも進化した生物ではないか?
********
ノイマンがいかに世界を認識し、どのような価値を重視し、いかなる道徳基準にしたがって行動していたのかについては、必ずしも明らかにされているわけではない。さまざまな専門分野の枠組みの内部において断片的に議論されることはあっても、総合的な「フォン・ノイマンの哲学」については、先行研究もほとんど皆無に等しい状況である。
そこで、ノイマンの生涯と思想を改めて振り返り、「フォン・ノイマンの哲学」に迫るのが、本書の目的である。それも、単に「生涯」を紹介するだけではなく、彼の追究した「学問」と、彼と関係の深かった「人物」に触れながら、時代背景も浮かび上がるように工夫して書き進めていくつもりである。
――「はじめに」より
********
ノイマンの思想の根底にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義」、そして、この世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の「虚無主義」である。
ノイマンは、表面的には柔和で人当たりのよい天才科学者でありながら、内面の彼を貫いているのは「人間のフリをした悪魔」そのものの哲学といえる。とはいえ、そのノイマンが、その夜に限っては、ひどく狼狽(うろた)えていたというのである。クララは、彼に睡眠薬とアルコールを勧めた。
――第5章「第二次大戦と原子爆弾」より
********
人類史上 最恐の頭脳!
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商品情報
- 著者
- 高橋昌一郎
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社現代新書
- 書籍発売日
- 2021.02.17
- Reader Store発売日
- 2021.02.17
- ファイルサイズ
- 7.3MB
- ページ数
- 272ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (64件のレビュー)
-
【感想】
フォン・ノイマンの名前は、マンハッタン計画に従事した原爆開発の第一人者として、そして「コンピュータの父」として、多くの日本人に知られていると思う。
彼は「20世紀最高の頭脳」と呼ばれるほどの…超天才であり、論理学、量子力学、気象学、ゲーム理論、コンピュータ開発、原爆開発など、功績を残した分野は多岐に渡る。
そんな彼の生涯を、幼少期から晩年まで辿ったのが本書だ。
一章から四章まではノイマンの生い立ちや実績、私生活について記載されているが、タイトルにもなっている「人間のフリをした悪魔」の詳細については、第二次世界大戦と原子爆弾について書かれた五章以降に説明がある。
ノイマンの思想の根底にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」であった。そして、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道的主義」も掲げている。
第一次世界大戦で使われた「毒ガス兵器」を開発したフリッツ・ハーバーは、こんな言葉を残している。「毒ガスで戦争を早く終わらせる事で、無数の人命を救う事ができる」。ノイマンは、このフリッツ・ハーバーの思想に影響を受けた可能性があると語られており、彼が科学の発展を、道徳や人命よりも上位に置いていたことは疑うべくもない。
ただ私は、ノイマンは「人間のフリをした悪魔」などではなく、むしろ使命感に燃えていた常識的な科学者であったという印象を受けた。
戦争という動乱期を経験すれば、思想が多少なりとも過激になることは致し方ないと思う。事実、ノイマンは原爆に賛成しながらも、戦争行為自体には嫌悪感を見せている。軍に協力したのは、アメリカの戦略に寄与することで早く戦争を終わらせるためであり、一種の合理的な決断であった。
日本は原爆による直接の被害者であることから、ノイマンへの評価は「人間性が無い」という、多少辛辣なものになるかもしれないが、本書で述べられている部分を読んだだけでは、そうした印象は見受けられなかった。(どちらかというと、WW2へのアメリカ参戦に喜び、原爆投下の片棒を担いだチャーチルのほうが「悪魔」という印象がした)
また、ノイマンは周囲の人間に気を配り、ジョークで場を和ませる明るい人物だったと言われている。偏屈な人間が多い界隈の中では、相当に人間が出来た人だったのではないかと思う。
いずれにせよ、ノイマンという人物がいかに優れた頭脳を持ち、現代の基礎技術に貢献しているかを知れる一冊であった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【本書のまとめ】
1 ノイマンの生い立ちと哲学(まとめ)
ノイマンは22歳にして、大学を卒業すると同時に大学院博士課程を修了し、博士論文も完成させて、前代未聞の「学士・博士」になった。この論文によって、天才数学者ノイマンの名声は、ヨーロッパの数学界に響き渡った。
ノイマンは、量子力学であろうと数理経済学であろうと、いかなる分野であろうと、既存の概念や偏見に左右されずに、新たな視点から数理モデルを定式化して、効率的な成果を導くための筋道を切り開き、長年の未解決問題でさえ、あっさりと解いてしまうという離れ業を得意にしていた。
ノイマンの思想の根底にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道的主義」、そして、この世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の「虚無主義」である。彼はまさに人間のフリをした悪魔だったのだ。
「我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない」と言い放ったノイマンは、犠牲者に対する人道的感情とは無縁だった。
2 第二次世界大戦と原子爆弾
1939年9月に、「核分裂のメカニズム」が掲載される。当時はドイツがヨーロッパ侵略を企てている最中であり、原爆のメカニズムの公表はドイツに開発の契機を与えてしまうのではないか、と懸念されていたが、「科学的事実は世界の科学者で共有すべきだ」というボーアの理念に基づき、リーゼ・マイトナーの発見した「核分裂」以降に発見された理論や情報が、すべて記載されていた。
その後、ドイツ陸軍省が早い時期から原爆開発を命じていたことが明らかになると、アメリカがドイツよりも先に原爆を開発すべきであることを、アインシュタインの署名で合衆国大統領に直訴している。
普段は感情を荒立てないノイマンが、ナチスに対しては「尽きることがないほど強い憎悪」を抱いていた。また、ヒトラーに対する自由主義陣営の「宥和政策」にも腹を立てていた。
1940年9月、ノイマンは、陸軍兵器局弾道学研究所の諮問委員に就任した。
アメリカの参戦後には、戦争省から「科学研究開発庁」の公式調査官に任命され、爆発研究の科学技術面の最高責任者となった。
当時のノイマンはあらゆる軍事プロジェクトから引っ張りだこであった。海軍兵器局と陸軍兵器局、戦争省、科学研究開発庁からも相談を受け、マンハッタン計画の主軸を担う「プロジェクトY」からも出頭要請が届いた。
ロスアラモスの科学者は、自分たちが「大量殺戮兵器」の製造に加担していることを認識し、内心に強い罪悪感を抱いている者も少なくなかった。しかし、ノイマンは「我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない」という考えであった。
1945年の春、普段は冷静なノイマンが自宅に戻り、狼狽えた様子で述べた。
「我々が今作っているのは怪物で、それは歴史を変える力を持っている!…それでも私は、やり遂げなければならない。軍事的な理由だけでもだが、科学者として科学的に可能だとわかっていることは、やり遂げなければならない。それがどんなに恐ろしいことだとしてもだ。これは始まりにすぎない」
戦争を終わらせるためなら、どんな非人道的兵器も許される。そう考えていたであろうノイマンが、初めて自分の作った兵器に恐怖した瞬間だった。
3 コンピュータ開発
アナログの「微分解析機」では、一発の弾道を計算するために丸一日が費やされる。そこでノイマンが陸軍を説得して開発を急がせたのが、現代にも通ずる「コンピュータ」の原型であった。
原爆投下を目前にして、ロスアラモスの業務に忙殺されていたノイマンは、仕事の合間にコンピュータの「論理構造」を考察し続け、手書きメモによりコンピュータの計算能力を飛躍的に向上させた。
ノイマンは現代のコンピュータの根本となる「ノイマン型アーキテクチャ」を設計している。例えば現代のスマートフォンは、1台の機械に時計、メール、カレンダー、カメラなど数多くのソフトが組み込まれている。「同じハードを使いながら、ソフトを多種に変換させる」という「プログラム内蔵方式」の概念を、史上最初に明確に定式化したのがノイマンだったのだ。
また、ノイマン型アーキテクチャの草稿を書く間、彼はゲーム理論を発展させ、経済学における分析方法を根底から変えてしまった。
ノイマンは、「数学はあくまで人間の経験と切り離せない」という「数学的経験論」を主張している。彼は「純粋数学」の限界を見極めて、応用数学の重要性に目を向けるべきだと主張した。「経験的な起源から遠く離れて『抽象的』な近親交配が長く続けば続くほど、数学という学問分野は堕落する危険性がある」というのが、ノイマンが未来の数学に強く抱いていた危機感だったのである。
4 ノイマンはマッドサイエンティストか?
戦後、第二次世界大戦で疲弊しているソ連に対し、原爆を持つアメリカが「予防戦争」を仕掛けるべきだという意見が挙がる。これが正式に表明されたのは、第二次世界大戦が集結したばかりの1945年10月。提唱者はイギリスの哲学者バートランド・ラッセルであった。
ノイマンもこれに同調する。「ソ連を攻撃すべきか否かは、もはや問題ではありません。問題は、いつ攻撃するか、ということです」「明日爆撃すると言うなら、なぜ今日ではないのかと私は言いたい」。この言葉から、ノイマンはマッドサイエンティストであるというイメージがついた。
予防戦争論は、ソ連がアメリカと同じぐらい早く原爆を開発できるわけがないという見込みによるものだった。しかし、1949年8月、ソ連が核実験に成功したというニュースが世界を驚愕させる。
なぜそこまで早く開発できたのか。それは、ノイマンと一緒に原爆を製造し、共著で機密書類をまとめていた同僚のフックスが、実はソ連のスパイであり、機密情報をソ連に流し続けていたことが原因であった。
これを受け、アメリカは原爆よりも強力な水爆の開発に向かう。水爆はその威力から、原爆に賛成していた科学者にも開発を反対されたが、ノイマンは賛成していた。道徳的批判に対しては、「いっさい躊躇してはならない」と平然と述べている。続きを読む投稿日:2021.06.22
Audibleで読了。フォン・ノイマンの人生を辿りながら、周りの天才科学者にも都度フォーカスしつつクライマックスとも言える原水爆の話へと繫がっていく。
投稿日:2024.03.30
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