同意
ヴァネッサ・スプリンゴラ(著)
,内山奈緒美(訳)
/中央公論新社
作品情報
14歳の少女は、36歳も年上の有名作家になぜ「同意」したのか?
そして二人の関係を蝕む「毒」とは何か?
デュラス『愛人』にも負けない、燃え上がるような真実の力に圧倒される。
フランス社会を震撼させたこの衝撃を体験せよ!
――野崎歓
名簿に名前は載っているのにいつも不在の幽霊会員のような父親。読書に対する際立った嗜好。性に対するかなりの早熟さ。そしてとりわけ、見守られたいという途方もない欲求。ここにすべての条件が整った。――本書より
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商品情報
- シリーズ
- 同意
- 著者
- ヴァネッサ・スプリンゴラ, 内山奈緒美
- 出版社
- 中央公論新社
- 書籍発売日
- 2020.11.25
- Reader Store発売日
- 2020.12.28
- ファイルサイズ
- 0.8MB
- ページ数
- 224ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (9件のレビュー)
-
フランスの文学界が激震。14歳の時に当時50歳だった流行作家ガブリエル・マツネフ氏から1年間に渡る性的虐待にあったヴァネッサ・スプリンゴラ氏が出版した『同意』。その邦訳が本著。
様々な考えがあるが、…社会的コンセンサスとしても、小児性愛は刑事罰を伴うものである。LGBTQでは性的指向の多様性に理解を示す中で、この境界線は対象年齢だ。子供の〝合意“は無効。これは、その他の契約事項にも準ずる考えで合理的な考え方だ。
この問題を理解するポイントは後二つあると思う。一つは思春期における自己暗示や自我の形成に要する自己否定。もう一つは、男女の性の力関係の差異。つまり、年齢による社会責任、人格未形成時における誤った意思決定、強制性。誤った意思決定とはつまり、これが同年齢の間の性的体験の失敗談ならば腐る程あるのが当たり前で、片方が成人であるかに関わらず、その歪さこそが青春だからだ。
だからこそ未成年の『同意』は社会的に許容されないとする考えが妥当なのだろう。青春は若年層同士で迎えるのが望ましい。言わずもがな、生理的にも、本能的にも、分かる気はするが。続きを読む投稿日:2023.07.09
このレビューはネタバレを含みます
14歳の少女が50歳の著名な小説家の愛人として過ごした時間と関係を終わらせてからの長く続いた苦しみを著者が30年後に初めてまとめて発表したものである。
レビューの続きを読む
タイトルの「同意」は、そのまま、未成年が性的な…関係を結ぶとき、そこに「同意」はあるのか?という意味だ。そんなものはない、というのが著者の至った答えである。著者は自分の人生を記すことで、犠牲者としての少女だった自分や、同じような境遇にあった(または今現在ある)少女や少年たちの心を代弁した。小説家に奪われた自分というものを同じように筆をもって新しく築き上げたのだ。
人間の場合、数年前までほんの子供だったものががいきなり大人になるわけではなく、そのあいだには10年あまりの成熟期間が必要である。これが少女とか少年とか言われている時期(思春期)である。私も、自分自身がどうだったかは覚えていないが、この変容の過程は自分の子供たちが成長する様子を見ているとわかる。14歳は子供の大人の中間で、このあいだに自分自身が親と離れていくという感覚が芽生え、自分の体と精神がつながっていく。つまり人格(私らしさ、というようなもの)が確立していく。
こういう時期に「自分のことは自分で決める」というのは、実質的に不可能である。なぜならそういうことをできるほど、自分自身が確立していないから。大人じゃないんだから当たり前のことだ。
自分から選んだこと、嫌なら嫌と言えたはず、自分も楽しんだはず・・・というのは、ある程度成長した大人ならまだ言えることかもしれないが、14歳の少女はそもそも成熟した大人ではないので、「性関係を結ぶことに同意した」という論理は成立しない。それでも14、5歳で同じ年代の少年少女と性関係を結ぶ場合もあるので(恋愛の延長上が多いと思う)それはそれでいい。相手も未成熟なのだから。が、問題になるのは相手が大人の場合である。歴然とした力の差があるときに、「同意」ということばを使っていいのかということだ。
主人公のVの父親は幼少期から彼女を省みることはなく、離婚してからは彼女の人生にほとんど登場しなかった。母親はまだ若く、シングルマザーの生活と自分の人生を楽しむことが優先的であり(でも娘のことを愛してはいる)、Vのそばに寄り添うことはなかった。そんな寂しい気持ちと、思春期特有の自信のなさがきっとオーラのように漂っていたのだろう。あるとき、母親に連れて行かれたパーティで、50歳の著名な作家に目をつけられ、その熱心なアプローチを「愛されている」と思い込み、あっという間にその手の中に落ちてしまった。作家のGの老獪ぶりが恐ろしい。Gは小児愛好家で、その経験を反映させた小説や、「未成年の性の開放の必要性」を論じる作家であった。そしてその作品や人となりは文壇ではいつも肯定的、好意的に迎えられていた。Vは文壇で重要な位置を占める男にすっかり夢中になってしまった。性的に欲情されること、セックスを求められることが愛だと信じこまされてしまった。
Vの不幸は、セックス(14歳の体そのもの)を差し出すように仕向けられただけではなく、知的な面までも奪われようとしたところだろう。大の作家が少女の学校のレポートを書いてやるシーンがある。「作家の俺が書いてやれば、いい点数が取れるに決まっている」と、親切だと思わせるような態度で。当然、教師からは素晴らしい評価を得るが、本当はそんなことは望んでいなかったVは傷ついた。だが、なす術がない。これは文章を教えてあげたいという親切心ではなく、「俺がいるからお前の存在は認められるんだ」という「お前は俺のもの」宣言である。こうしてGは14歳の少女を完全支配した。
GはVを性的欲求の対象として支配するだけではなく、Vとの経験をもとに小説や日記を書いて、それを発表した。Vを「俺の物語」の単なる登場人物にしてしまったのだ。生身の体から自分がいなくなり、小説の登場人物としての少女Vが永遠に紙の上で生き続けることになった。このせいで、著者はGと別れた後も、本当の自分はどこにもいない、という苦しみに苛まれることになった。
Gは別れた後も未練がましく手紙を書き続け(別れてから30年間も!)、同時に日記や彼女の少女時代の写真を無断で発表したりと、ストーカーに近い思い込みで尊厳を傷つけ続ける。あんまりもひどいので、著者はこの自伝の発表に至ったわけだ。別に喜んで復讐したわけでもなんでもなく、本当だったら自分以外の誰かにやってもらいたかった・・・という記述があった。
VはGに一度だけ、彼自身が体験した最初の手ほどき(「Initiation」)はいつだったのか、ときいたことがある。驚くことに、それはGが13歳のときだった。そんなことはたいしたことではない、というようにさらりと言ってのけたGだが、ここに未成年への性的な暴力、支配の深い闇、連鎖性を感じる。もしかして、彼自身が、長いこと、自分自身がなんであるかをわからないままに、13歳の自分と同じ年頃の少年少女たちの生き血を吸い続けていたのかもしれない。
続きを読む投稿日:2023.05.16
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