アウステルリッツ
W・G・ゼーバルト(著)
,鈴木仁子(訳)
/白水社
作品情報
ウェールズの建築史家アウステルリッツは、帝国主義の遺物である駅舎、裁判所、要塞、病院、監獄の建物に興味をひかれ、ヨーロッパ諸都市を巡っている。そして、彼の話の聞き手であり、本書の語り手である〈私〉にむかって、博識を開陳する。それは近代における暴力と権力の歴史とも重なり合っていく。
歴史との対峙は、まぎれもなくアウステルリッツ自身の身にも起こっていた。彼は自分でもしかとわからない理由から、どこにいても、だれといても心の安らぎを得られなかった。彼も実は、戦禍により幼くして名前と故郷と言語を喪失した存在なのだ。自らの過去を探す旅を続けるアウステルリッツ。建物や風景を目にした瞬間に、フラッシュバックのようによみがえる、封印され、忘却された記憶……それは個人と歴史の深みへと降りていく旅だった……。
多くの写真を挿み、小説とも、エッセイとも、旅行記とも、回想録ともつかない、独自の世界が創造される。全米批評家協会賞、ハイネ賞、ブレーメン文学賞など多数受賞、「二十世紀が遺した最後の偉大な作家」による最高傑作。
多和田葉子氏の解説「異言語のメランコリー」を巻末に収録。
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この作品のレビュー
平均 5.0 (3件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
私(語り手)はアントワープの中央駅待合室で建築家のアウステルリッツにふと声をかける。彼は駅の歴史から始まってつらつらと様々な建築の歴史を、果ては自分の生い立ち、イギリスでの学校での出来事、蘇った記憶、ユダヤ人としての出自、両親との別離と捜索、人との出会いと別れを、私(語り手)に会うたびにとめどなく語っていく。
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アウステルリッツの語りはあちらこちらへと移り、思考は分岐する河のように流れ、イラストではなく写真が載せられていることもあり、実在人物から話を聞いているように読みました。
意外な写真の効果を再認識しました。真実と思わせる力。いやーすごい。投稿日:2021.06.10
①文体★★★★★
②読後余韻★★★★★
アウステルリッツというタイトルは三帝会戦を思わせますが、登場人物の名前です。アウステルリッツは建築史の研究者として、駅舎や裁判所、要塞都市、病院や監獄などに…興味をひかれ、文献をあたり、また実際にその場を訪れ記録をする人物です。語り手である「私」は、そんな彼と出会い、彼の聞き手として、文章を綴ります。
アウステルリッツはおのれの出自をたどろうと、ヨーロッパの諸都市を旅します。それはユダヤ人として迫害を受けた両親をたどるまでにつながり、暴力、そして権力による歴史を目の当たりにすることになります。
彼が訪れた様々な建築物、聴こえない声に耳をすませるアウステルリッツの博識から語られる歴史、そして彼自身の過去を支える文章は、抑制のある静謐なものです。それらの記憶が都市や建造物、廃墟に寄せられ、内部へと反響するかのように感じます。
段落も章分けもない語り口。文章とあわせところどころ挟みこまれたモノクロの写真。膨大な知識と思索がぎっしり詰め込まれた密度の高い文章には「~とアウステルリッツは語った」というフレーズが不自然なまでに挿入され、読み手にあるひっかかりを与えながら過去から現在に私たち読者を引き戻します。
いったいどこまでが本当のことで、どこからがフィクションか曖昧で、小説なのか、それとも散文としてとらえていいのかよくわかりません。そしていったいなんのことであるのであろうか、と思わせるほど、読んだ片端から文字が流水で洗われるかのようにかき消えていく感覚にもなります。それがこの本を幾度も手にする理由になっています。続きを読む投稿日:2022.10.29
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