〈賄賂〉のある暮らし :市場経済化後のカザフスタン
岡奈津子(著)
/白水社
作品情報
1991年のソ連崩壊後、ユーラシア大陸の中央に位置するカザフスタンは、独立国家の建設、計画経済から市場経済への移行という、大きな変化を潜り抜けてきた。その過程で、国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げてきたのだろうか。
豊富な資源をもとに経済発展を続けるカザフスタンは、いまや新興国のなかでも優等生の一国に数えられる。
独立前からカザフ人のあいだにみられる特徴のひとつに「コネ」がある。そして、市場経済移行後に生活のなかに蔓延しているのが、このコネクションを活用して流れる「賄賂」である。経済発展がこれまでの人びとの関係性を変え、社会に大きなひずみが生じているのだ。
本書は、市場経済下、警察、教育、医療、ビジネス活動など、あらゆる側面に浸透している「賄賂」を切り口に現在のカザフスタンをみていく。賄賂は多かれ少なかれ世界中の国々でみられる現象だが、独立後のカザフスタンは、それが深刻な社会問題を生み出している典型的な国のひとつである。
ここから見えてくるのは、人びとの価値観の変容だけでなく、ほんとうの「豊かさ」を支える社会経済システムとはどのようなものかという問題だ。豊かさを追い求めた、この30年の軌跡。
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この作品のレビュー
平均 4.2 (6件のレビュー)
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日本よりむしろアメリカに近いのではと思った。
特に医療制度。
商品という名称がついてないだけで、市場化によって実質的に公的なポスト、公的なサービスが商品化されてる。
ある事象が商品になるというのは…、それがお金によってしかアクセスできないということだから。
市場で売るために生産されるものが商品という意味では、公的なサービス、ポスト、生産される様々な書類や許認可が実質的に売られるために生み出されているような気がしてくる。
さらに、値引きのためにはコネが必要とか、サービスを受けてもメチャクチャ成績を良くすることはできないとか。
コネと賄賂を使ってもそこまではできないというラインはあるらしい、それはソーシャルゲームの課金みたいなものと似ている気がする。
全くのプレイ時間ゼロはさすがにどうにもならないけどある程度のラインから上をより上にするのは可能とか、あくまでサポートが強化されるというところに線引きがあるというか。
目に見えない、公にされていない何らかのルールやコードのような物が張り巡らされた社会という意味では、日本とカザフスタンの間にある差というのは、グラデーションのどこに位置するかに過ぎないのではないかとも思った。
続きを読む投稿日:2023.10.29
カザフスタンにおける〈賄賂〉の有り様を描いた一冊。
カッコ付きの〈賄賂〉なのは、金銭の授受だけでなくコネもあるから。「非公式な問題解決」というワードがより正確なのだが、それでは伝わりにくいだろうし。
…
生活のありとあらゆる面に〈賄賂〉がある。警察、検察、裁判所、徴兵(忌避)、公職売買、事業を行う上での許認可や手続・規制(衛生)、税関、公共住宅、学校の成績、試験の点数、入学の権利、学位論文、医療……
それらに対する市民の反応もさまざま。約150人へのインタビューを行ったというが、あっけらかんと〈賄賂〉について話す人もいれば、怒りだす人もいる。
カザフスタンを主な対象としつつ、近隣の中央アジアでも似たり寄ったりであることが示唆されている。
カザフスタンにおいて、〈賄賂〉が常態化したシステムになったのはソ連崩壊がきっかけである。
民主化の名の下に、それまで国の資源だったものが一部の者(オルガルヒ的な)の手に渡ったり、外国企業に売られたりしたことで高福祉政策が崩壊し、警察官も公務員も医師も低賃金となり、〈賄賂〉を包含した「システム」が成立することになったことが伺える。
そのように〈賄賂〉ありきの「システム」が成り立つと、それを突き崩すのは困難なのだろう。賄賂がなくては生活が成り立たない人々が数多くいるし、正規の給料を上げることで賄賂を撲滅しようとしても「非公式な問題解決」ルートにお金が流れているのであれば公式ルート(税金とか社会保険とか)にお金は流れてこないのだろうし。
日本からみればカザフスタンの状況は異世界の話に見えるが、それを分かつ壁は意外と薄いものなのだろう。
貧すれば鈍する。ひとたびどこかが決壊したらあっという間なのだろう。ソ連崩壊であっという間に社会が変わった話を読んでそれを思った。続きを読む投稿日:2023.07.14
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