ウォークス 歩くことの精神史
レベッカ・ソルニット(著)
,東辻賢治郎(訳者)
/左右社
作品情報
アリストテレスは歩きながら哲学し、彼の弟子たちは逍遥学派と呼ばれた。
活動家たちはワシントンを行進し、不正と抑圧を告発した。
彼岸への祈りを込めて、聖地を目指した歩みが、世界各地で連綿と続く巡礼となった。
歴史上の出来事に、科学や文学などの文化に、なによりもわたしたち自身の自己認識に、
歩くことがどのように影を落しているのか、自在な語り口でソルニットは語る。
人類学、宗教、哲学、文学、芸術、政治、社会、
レジャー、エコロジー、フェミニズム、アメリカ、都市へ。
歩くことがもたらしたものを語った歴史的傑作。
歩きながら『人間不平等起源論』を書いたルソー。
被害妄想になりながらも街歩きだけはやめないキェルケゴール。
病と闘う知人のためにミュンヘンからパリまで歩き通したヘルツォーク。
ロマン主義的な山歩きの始祖・ワーズワース。
釈放されるとその足でベリー摘みに向かったソロー。
インク瓶付きの杖を持っていたトマス・ホッブス。
ラッセルの部屋を動物園の虎のように歩くウィトゲンシュタイン。
刑務所のなかで空想の世界旅行をした建築家アルベルト・シュペーア。
ヒロインに決然とひとり歩きさせたジェーン・オースティン。
その小説同様に大都市ロンドン中を歩きまわったディケンズ。
故郷ベルリンを描きながらも筆はいつもパリへとさまようベンヤミン。
…
歩くことはいつだって決然とした勇気の表明であり、
不安な心をなぐさめる癒しだった。
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商品情報
- シリーズ
- ウォークス 歩くことの精神史
- 著者
- レベッカ・ソルニット, 東辻賢治郎
- 出版社
- 左右社
- 書籍発売日
- 2017.07.30
- Reader Store発売日
- 2020.06.12
- ファイルサイズ
- 1.7MB
- ページ数
- 520ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (16件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
歩くことの理想とは、精神と肉体と世界が対話をはじめ、三者の奏でる音が思いがけない和音を響かせるような、そういった調和の状態だ。歩くことで、わたしたちは自分の身体や世界の内にありながら、それらに煩わされることから解放される。自らの思惟に埋没しきることなく考えることを許される。(中略)歩行のリズムは思考のリズムのようなものを産む。風景を通過するにつれ連なってゆく思惟の移ろいを歩行は反響させ、その移ろいを促してゆく。内面と外界の旅路の間にひとつの奇妙な共鳴が生まれる。そんなとき、精神もまた風景に似ているということ、歩くのはそれを渡ってゆく方途のひとつだということをわたしたちは知らされる。(p.14)
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歩くことはまた視覚的な活動とも考えられる。徒歩移動はいつでも、目を楽しませ、目に入るものについて考えることを楽しみながら、新奇なものを既知の世界へ回収していく活動だ。歩行が思想家たちに格別有用だった理由はここから生じているのかもしれない。旅の驚きや解放感やひらめきは、世界一周旅行でなくとも、街角の一回りから感じられることもある。そして、徒歩は遠近いずれの旅にもわたしたちを連れだしてくれる。もしかしたら歩くことは旅ではなく動くことというべきかもしれない。(p.15)
場所を知ってゆくことは、記憶と連想の見えない種をそこに植えてゆくことだ。そこはあなたが戻ってくるのを待っている。そして新しい場所は新しいアイデアと新しい可能性を孕んでわたしたちを待っている。世界の探検は精神の探索の最良の手段のひとつであり、脚はその両方を踏破してゆく。(p.26)
これほどよく考えを巡らせて、はつらつとして、多くを経験し、自分自身であったこと―という表現を用いるならば―は、徒歩で一人旅をしている間だけのことであった。歩くことには思考を刺激し、活気づけるものがあるようだ。一所にとどまっているとほとんど考えることができない。精神を動き出させるには体も動きださねばならない。田舎の景色、次々と移り変わってゆく心地よい眺め、開けた空、健全な食欲、健全な身体。歩くことはそうしたものを与えてくれる。そして宿の気楽の雰囲気、あらゆる係累や、身の上を思い出させることが不在であること、そのすべてが我が精神を自由にして、大胆に考えるよう促すのだ。思考をつなげ、選び、恐れも束縛もなく、意のままに我が物とすること、(ルソー、p.36)
巡礼の根底にあるのは、聖なるものはまったくの非物質的な存在ではなく、霊性にはチリがあるという考えだ。巡礼の足取りは、物語とその舞台に光をあて、精神と物質のきわどい分断線を進む。霊的なものを希求しながらも、その手掛かりとなるのはきわめて物質的なディテールだ。仏陀が誕生した場所。キリストが死んだ場所。聖遺物の在処。聖水の流れる場所。これは霊性と物質をふたたび和解させること、といえるかもしれない。なぜならば巡礼へおもむくことは、魂の求めや信を身体とその運動によって表すことなのだから。(p.86)
遠方へ向かって重い歩みをすすめる人の姿は、人間の生を表現するもっとも普遍的で説得力あるイメージのひとつだろう。ひろい世界の只中で、己の心身のみを頼りにする小さく孤独な姿。具体的な目的地に到達すれば、そこには精神的な恩恵も待っているに違いない、という希望が巡礼の旅路を輝かせる。(p.87)
「自分の体を抜けだすこと。すると一歩一歩が、天候や、肌に触れる感触や、変化してゆく視界、移ろう季節、野生動物との出会いになる」(美術批評家ルーシー・リパード)(p.128)
すなわち歩きに出かけることは単に両脚を交互に動かすということではなく、長すぎも短すぎもしない、ある程度の時間を継続する歩行を意味し、心地良い環境に身をおき、健康や楽しみ以外に余計な生産性のない行為に勤しむということを表現している。(p.166)
山々の高見は人びとの住む土地から遠く離れているのが常だ。神秘家やならず者たちはしばしば人目を逃れるためにそこを目指す。そして登ることは「自分の心が惑わない唯一の時間」を産む。(p.230)
6世紀以前には日本人は神聖とされた山には登らなかった。そこは俗世から隔絶された領域で、人間が立ち入ることのできない聖域だと考えられていた。人びとは麓に社を建立し、敬して距離を隔てながら礼拝していた。6世紀の中国から仏教伝来にともなって、神々と通じるために霊峰の頂上を目指す登山がはじまった。(p.240)
「強力といふものに道かれて、雲霧山気の中に氷雪を踏てのぼること八里、さらに日月行道の霊関に入るかとあやしまれ、息絶身こごえて頂上にいたれば、日没て月顕る。(松尾芭蕉「月山」)(p.241)
いまでは、歩くことはしばしば自分と街の歴史を重ねながら顧みるものになっている。空き地に新しい建物が建ち、年寄りの溜まり場だったバーは流行りもの好きの若者に占領され、カストロズ・ディスコはドラッグストアに変わり、あらゆる通りと界隈がその様相を変えてゆく。(p.325)
群集というものも人類にとって新しい経験ではなかっただろうか。互いを見知ることのないままに生きる夥しい数の他人同士。遊歩者は、いわばこの孤立の群れに安息を見出す新しいタイプとして出現した。「群集こそ彼の領土なのだ。鳥が大気に棲み、魚が水に棲むごとくに」というフレーズは、遊歩者の説明としてよく引かれるボードレールの一節に読める。(p.333)
散歩に出ること、すなわち世界に出てゆき、愉楽のために歩くことには三つの前提条件がある。自由な時間をもっていること、行く場所があること、そして疾病や社会的な拘束に妨げられることのない身体であることだ。自由な時間にはさまざまな要素があるだろうが、公共空間のほとんどは、ほぼ常に女性にとって等しく安全かつ快適な場所とはなってこなかった。(p.393)
歩くことが文化的に好きなだけ歩き出てゆくことができなかった者は、単に運動や余暇の愉しみを奪われているのみだけではなく、その人間性の重大な部分を否定されてきたといえるだろう。(p.413)
進歩とは時間と空間、および自然を超越することにあるということだ。それは鉄道によって、あるいは後には自動車、飛行機、電気的な通信手段によって推し進められる。飲食、休息、移動、および天候の影響は、身体存在の経験のうちもっとも基本的なものであり、それを否定的に捉えるのは生物と感覚の世界の断罪にほかならない。「足という動力は長い衰微の道をたどることになった」という毒のある一文はまさにそれを地で行っている。(中略)ある意味で、列車が押し潰したのはひとりの肉体ではなかったのだ。人間が肉体として生きる有機的な世界から知覚や希望や行為を切断することによって、列車の影響下にあるすべての肉体がそこで減殺された。(p.431)
列車は飛翔体として経験され、その旅は射出されて風景を通過してゆくように経験される。そうして個々人は感覚の制御を失う。……この飛翔体のなかに座る乗客はもはや旅人ではなく、19世紀によく喩えられたように小包となった。(中略)郊外住宅地のように、旅行中の人びとをある種の空間的な辺獄におき、車中で人びとは読書や睡眠や編み物をするようになり、退屈への不満を口にしはじめる。自動車と飛行機はこの変化を莫大な規模へと拡大した。高度3500フィートをゆくジェット旅客機での映画鑑賞は、空間と時間と経験からの究極的な遮断といえるかもしれない。(pp.432-433)
よくいわれるように、日焼けがステータス・シンボルになったのは低所得者の多くが農場から屋内の工場へ移り、褐色の肌が労働時間ではなく余暇のゆとりを意味するようになったためだ。筋肉がステータス・シンボルになったとすれば、それは多くの仕事がもはや肉体の強さを求めていないということを意味している。日焼けと同じく、それは過ぎ去ったものに見出された美学なのだ。(p.439)
トレッドミルは郊外住宅地と自動車都市の自然な帰結だ。どこにも行くあてのない場所で、あるいはどこにも行く欲望が湧かない場所、どこにも行かないための道具。そして自動車と郊外住宅地に適応した精神に、野外よりも居心地のよい屋内人工環境を差し出す。精神と身体と地表面の移りかわりがひとつに融けあった扉の外の歩行よりも、定量化可能で明瞭に規定された活動という点で、より快適なのだ。トレッドミルもまた、世界から引きこもることを促す多くの装置のひとつなのだろうと思う。そうした便宜が世界を住みよくすることや、何にせよ世界とのかかわりに対する嫌気を誘うのは恐ろしいことだ。(pp.444-445)投稿日:2018.02.09
歩くことを思索することがこれほど深いとは思ってもいませんでした。著者は反戦活動を盛んに行っていたからか,そうした反体制的な文章も多々出てきますが,ヒエラルキーのトップの思考ではなく,街角や森の中など,…一般の庶民目線で歩くことをどう考えればよいのかを,これでもかというほど考えさせていただきました。ルソーやキルケゴールが,歩くことによって哲学を進めていたことや,巡礼に関する記述,治安の向上に伴い人々が庭園から原野を歩くようになったことなど,多くを学ぶことができました。また,パリやイギリス,アメリカの町を歩くことの思索や,自動車社会によって生じた,歩きの枯渇など,新たな目線でウォークすることを多角的に考えさせていたただいたところです。たしかに,ウォークスと複数形にするだけはあるなぁと思います。勉強になりました続きを読む
投稿日:2022.05.06
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