木曜日にはココアを
青山美智子(著)
/宝島社文庫
作品情報
わたしたちは、知らないうちに誰かを救っている――。川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる……。わたしたちが起こしたなにげない出来事が繋がっていき、最後はひとりの命を救う。小さな喫茶店「マーブル・カフェ」の一杯のココアから始まる12編の連作短編集。読み終わった後、あなたの心も救われるやさしい物語です。※文中に登場するシドニーの情報は、2017年7月時点のものです。
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- 木曜日にはココアを
- 著者
- 青山美智子
- 出版社
- 宝島社
- 掲載誌・レーベル
- 宝島社文庫
- 書籍発売日
- 2019.08.06
- Reader Store発売日
- 2020.06.04
- ファイルサイズ
- 12.2MB
- ページ数
- 211ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.2 (974件のレビュー)
-
あなたが最近ココアを飲んだのはいつですか?
…と自分で質問を書いておきながら、う〜ん、う〜んと唸ってしまう私。コーヒーなら今飲んでいるところだし、お茶だったらお昼ご飯の時に飲んだよな…、でも、ココア?…ココア??ココア???
人によって食べ物の嗜好は異なります。当然、飲み物だってその好き嫌いはマチマチです。冬の到来、あったかい飲み物がとても恋しくなる季節。そんなあったかい飲み物の代表格であるコーヒーと、今回注目したいココア。その両者の消費量を比較した統計が存在します。総務省統計局の家計調査の直近値。それによると一世帯あたりの消費量は
コーヒー : ココア = 14 : 1
と、両者にはなんとも大きな開きがあるようです。個人的には、ここまで書いても自身がココアをいつ飲んだかという記憶が蘇らない感覚からはもっと大きな開きがあってもいいような気さえしてしまうこの両者。とはいえ決して嫌いなわけではないのに、何故か手がのびないという私にとってのココア。そんなココアのことを『一見ふんわりしているようで、実はしっかり存在感のあるイメージです』と語る青山美智子さん。確かにその甘い香りや、飲む前に頭に浮かぶイメージよりも、実際に飲むと確かな存在感を感じる飲み物、それがココアなのかもしれません。そんなココアに優しさを見るとしたら『安心できる信頼感』だと続ける青山さん。そんな青山さんがココアを起点に描いていくこの作品は、その『安心できる信頼感』で、人と人とがどんどん繋がっていく、ココアを飲んで身体が温まるように、この作品を読んだ人の心がホッコリと温まっていく、そんな優しさに満ち溢れた物語です。
『僕の好きなその人は、ココアさんという。ほんとうの名前は知らない。僕が勝手にそう呼んでいるだけだ』という主人公の『僕』。『勤めている「マーブル・カフェ」の、窓際、隅の席』に『半年くらい前から』、『ひとりで来て、必ずそこを選んで座る』というその女性。そんな女性は『決まって木曜日』の『午後3時を過ぎたころに扉を開き、そこから3時間ぐらいこのカフェで過ご』します。『成人式から3年たった僕よりも、たぶん少しばかり年上なんだろう』というその女性。『長い英文のエアメールを読んだり書いたり』しているその女性が『便箋に文字を書きつけている』のを見るのが『とても好き』という『僕』。『唇がゆるやかに弧を描き、白い頬に赤みが差す』、『まばたきをするたび、伏せた目元で焦げ茶色の長いまつ毛が影絵を作る』と彼女がとても気になる『僕』。そんな『僕』が『ここで働くようになったのは、2年前の初夏』のこと。そのとき『無職だった』という『僕』は川沿いの葉桜になった並木の下を『ひまにまかせて木が途切れるまで進んで行』きます。そして『生い茂る葉の陰に店があるのを』、『こんなところにカフェが』と見つけました。『なんともほっとする空間だった』というそのお店。『行き場のない僕に、「席」があることがなんだかありがたく思えた』というそのお店。『店員らしき男性がちょうど壁に「アルバイト募集」の紙を』貼っていたという運命。ホットコーヒーを注文した『僕』が『店長さん』と呼ぶと『マスターって呼んで。夢だったんだよね、喫茶店でコーヒー淹れるマスター』というその男性。差し出された素焼きのカップに淹れられたコーヒーを飲み『じんわりとやわらかなコク』を感じた『僕』は『そのひとくちで決心をし、椅子から立ち上が』ります。『アルバイトの面接、お願いできませんか。ここで働きたいんです』と言う『僕』に『真顔で黙ったまま5秒ほど僕を見て』、『いいよ。じゃ、正社員ね』と答えるマスター。『まだ名前すら伝えていないのに?』とぽかんとする『僕』。『俺、見る目だけはあるんだ。じゃ、決まりね』というマスター。そして働き始めた『僕』に『しばらく留守にするから』と言い出したマスター。そして『2年間、僕はマーブル・カフェをひとりできりもりしている』というそれから。『経営者の名義はマスターのまま』で、雇われ店長の『僕』が切り盛りする『マーブル・カフェ』。そんな『僕』は『店員が客に恋するなんて、あるまじきことかもしれない』とその女性を見て思います。『でも片想いでいいんだ、ぜんぜん』という『僕』は『僕にできうる限りを尽くす』と考えます。そう、『木曜日には、とびきりおいしいココアを彼女に捧げる』と。そんな『僕』視点の物語に続いて、人と人とがどんどん繋がっていく物語が描かれていきます。
12の短編からなるこの作品は、一話に一人ずつ異なる人物に視点を切り替えながら物語が進んでいく連作短編の形式をとっています。一般的に連作短編というと、家族や友人、クラスメイト、またはスポーツのチームメンバーなど、その最初の短編でおおよそその先に移っていくであろう視点の範囲が想像できる場合が多いように思います。それが故に、この人物視点に移ったらどのように見えるのだろう、見えていたのだろう、というような感じで全体を読み進めていく、それが連作短編の魅力だと思います。しかし、この作品では、最初の短編からは全く想像も出来なかった異国の人物にまで視点が移っていく、その視点の移動範囲がとてもダイナミックなことに驚きました。そんな12名の視点回しの中では、最初の短編の主人公である『僕』がどのように見えているかも描かれていきます。前述したように無職の青年というところからスタートするこの物語。カフェに入るのに『財布の中の小銭を確認してからドアを開けた』という無職の厳しい現実に繋がる表現もあって、読者は今ひとつ『僕』がどういった人物なのかが読みきれません。それが次に続いていく短編の中のある人物視点では『店員の男の子が若くてキュートで目の保養にもいい。今どき珍しいタイプの純朴青年』という表現で登場します。また、別の短編のある人物視点では『若いウェイターはきびきびと働きながら、時折、私たちを見守るような穏やかなまなざしをよこした』という描写が続き、次第に一本通った『僕』のイメージが読者の中に形作られていきます。それは、最初の短編の『僕』視点で『僕は、僕にできうる限りを尽くす』という誠実さに溢れた『僕』のイメージをどんどん前向きに補強していくものでした。短編によっては全く登場もせず、登場したとしても、物語の背景にすぎないような描かれ方であっても、最初の短編の主人公を務めた人物に対する読者の興味が消えたりはしません。そんな『僕』のイメージが同じ方向を向いて少しずつ補強されていくからこそ、その結末にじわっと温かいものが素直に感じられるのだと思います。この点、とても上手く構成された物語だと思いました。
そして、年齢、国籍さまざまな人物が登場するこの作品では、人のさまざまな生き方を垣間見ることもできます。もちろん、一話一人のため深く掘っていくまでには至りませんが、それでもなるほどね、と感じさせてくれる言葉がいくつも登場します。そんな中でこの物語の芯を貫いているものが、『マーブル・カフェ』のマスターの生き方にヒントを見る表現だと思いました。謎多き人物であるマスターは、前述した最初の短編でも『僕』に店を任せてあっという間にいなくなります。『俺、見る目だけはあるんだ』というマスター。『俺の役割って、すごい力を持ってるのに埋もれちゃってるヤツを引っ張り出して、世の中に伝えたり広めたりすること』というマスター。人生を振り返ると、その全ての事ごとにおいて何かしらの『起点』があったことに気づきます。その人の人生のドラマはあくまでその人のものです。その起点も当然にその人にとってのものであったはずです。マスターは、そんな本来他人の人生のドラマの『起点』に『誰かのために、何かのために』と、結果としてその人を動かす起点として『好きなんだよなあ、夢が現実になる一歩前の感じ』と関わっていきます。しかし、よくよく考えると、私たちの人生のドラマは、一人で成り立つものなどないことにも気付きます。そう、『多かれ少なかれ、誰もが誰かにとってそういう存在なのかもしれない』という事実。この作品は、前述したようにある一定範囲の集団の中で視点が動いていく物語ではありません。あることがまさかの繋がりで国境を越えてどんどん繋がっていく物語です。私たちは生きている中で日々人との関わりなくしては生きてはいけません。先日、会社で同僚が退職しました。全くの予想外のことで何があったのかと驚きましたが、そんな彼女から最終日にメールが届きました。そこには、かつて私が彼女に語った言葉があり、それが今日までの自分を支えてきた、また退職してもこの言葉を胸に…という言葉が綴られていました。正直なところ、私にはそう言われて初めて思い出した言葉でした。でも一方で、彼女の中ではそれは強く響いていた言葉だったという事実がそこにはあります。『きっと知らずのうちに、わたしたちはどこかの人生に組み込まれている』ということが実際にある。私たちの何気ない言葉が、行動が、知らず知らずのうちに誰かの人生に何かしらの影響を与え、逆に自身も与えられて、それが起点となって私たちの人生が前に進んでいく。知らず知らずのうちに人と人が幅広く無限に繋がっていく。そう、私たちはそんな世界に生きているのかもしれない。それが私たちの人間社会なのかもしれない、そんな風に感じました。
人と人との繋がり。それは私たちが思う以上に幅広く深く滲み入っていくものです。ある人の何気ないひと言が他の誰かの人生に響いていく。他の誰かが前に進むための大切な起点となっていく。そんなさまざまな起点に光を当てたこの作品。『スイッチをオンにしたい時にはコーヒーやミントティーを飲むことが多いのですが、オフにしてくれるのがココアかもしれません』と語る青山さんが描くココアを書名に冠したこの作品。
オンではなくオフの自分の落ち着いた気持ちの中にこそ、人生の次の一歩を踏み出す起点は用意されているのかもしれません。そして、そんな落ち着いた気持ちの起点を作り出してくれる、ほっこりとした安らぎを私たちに与えてくれるココア。『安心できる信頼感』を与えてくれるそんな飲み物の名前を女性の呼び名にする『僕』の物語が起点となるこの作品。思った以上に深く、それでいて優しく穏やかに語りかけてくれる、そんな人の優しさに溢れた絶品でした。続きを読む投稿日:2020.12.14
12の話それぞれ主人公が全て異なるけれど、どこかしらで繋がりがあって、読み進めるうちに、「この人が!あの人が!」
本の帯に「小さな出来事がつながって最後はひとりの命を救う、心がほどける物語」と書いてあ…るが、ちょっと大げさかな。と私は思う。
私にとっては、人との繋がりがドキドキワクワク感じられた。
あまりに、色んな繋がりがあるので、相関図を自作しちゃいました(*^^*)
すごい、絡み合ってる(^o^;)続きを読む投稿日:2023.05.23
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。