仁義なき聖書美術【新約篇】
作品情報
「この中にわしのことを密告(チンコロ)する奴がおる」幼児大虐殺! 十字架刑! そして、やくざ王国の建設! ヤハウェ大親分から直盃を受けた(と言われる)イエスと十二人の舎弟の悲喜劇が展開される新約聖書の世界を、芸術家たちはどのように表現してきたのか。エル・グレコ〈神殿から商人を追い払うキリスト〉、レオナルド・ダ・ヴィンチ〈最後の晩餐〉、マティアス・グリューネヴァルト〈磔刑〉などの名作を、やくざ風物語と丁寧な美術鑑賞で読み解く。画期的美術読本!! 【旧約篇】と同時刊行!
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この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
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愛を振りまく若頭とスットコドッコイどもの絵物語『聖典にして後編』。
学術関係では「宗教」を主な活動領域に据えつつ、真面目だか不真面目だかわからないカオスが悲喜こもごもの楽しさを演出するマルチエンター…テイメント作家「架神恭介」氏が十年越しで「キリスト教」と向き合った結実のひとつです。
「田亀源五郎」先生の手掛ける表紙からして誰もが目にしたことのある有名な宗教画のパロディになっているので、本作がどういった方向性で編まれているかはわかりやすく、そう言った意味では良心的かもしれません。
このパッケージングなら冗談半分真面目半分で楽しく読めるなと思った私の直感は外れていなかったようです。
内容としては『芸術新潮』2017年08月号に収録されたコラム短編の集積体『新・仁義なき聖書ものがたり』からなる第一部、具体的には「聖書」から採ったエピソードを後述の珍妙な解釈のもとに再構成したものです。
よって第一部が記憶に残ったところで、共著者の「池上英洋」氏が真面目に当時の歴史的背景を踏まえ、第一部の流れを解説する本書書下ろしの第二部という変わった構成になっています。
両部に渡り、エピソードごとに宗教画の図説が施されているので視覚的情報に訴えかける力は強く、必ずしも文体の破壊力だけの作品/学術書ではないように思えました。
ある程度聖書に関して知識を持ってはいるけれど通読した経験はない私としては、キリスト教を教養として味わううえで初級~中級者向けのように感じました。
美術的な観点に関しては描画に当たっての技法というより歴史的な背景に寄ったものですが、事前知識の要らなさという意味ではありがたい仕様かもしれません。
なお、本作のテーマは架神氏の直近の作品である『仁義なきキリスト教史』の系譜となっています。
すなわち聖典に任侠・ヤクザ映画のノリを持ち込みつつ、今回はキリスト教の興りであるナザレのイエスの伝道史とキリストの昇天後に残された弟子たちのすったもんだをコミカルに描いたものです。
本書の記述に乗っかり、ここまでのレビューは姉妹編である「旧約編」におけるものと共通させていただきました、ご容赦ください。
新約聖書の世界を理解する上で旧約聖書を押さえておくことに損はないのですが、なにぶん「旧約編」がバイオレンスの極みで尖りまくっていたことを鑑みると、こちら側のテイストは大きく異なったものになっています。
用語がどう置き換えられているかは先の記事をご参照いただくとして。
石=「チャカ」、要は拳銃。
ユダの密告=「チンコロ」。
ヤクザの正装=「アルマーニスーツ」。
どう受け取っていいのか判断に迷うルビやヤクザ用語が相変わらずかっ飛んだ世界観を演出します。
理解の一助にするために氏の著作をほかに紹介するとすれば『完全教祖マニュアル』が一番適当でしょうか。
新興宗教が興り、カリスマだった教祖が没した後の「教義の確立」がいかに四苦八苦の連続だったのかが、聖書に収められた四つの「福音書」を通してわかる気がしないでもないです(詳細は後述)。
ところで人類史と強弁しつつ、実質はユダヤ民族の歴史書だった「旧約聖書」に比べて「新約聖書」の世界は死後に神格化されたとはいえ、ひとりの偉人の言行録、行動記録であることを考えればスケールダウンしています。
ただし、この記録(福音書)と記述者が四つあって一々記述が食い違うのがなかなかに曲者なのです。
第一部に関しては二ページでまとめられた各短編に付属する、解説・感想コメントで容赦なく各福音書で食い違う描写についての疑問点が架神氏から提示されます。
この辺でエンタメと解説を兼ねようとして両論(時に四論)からいいとこ取りをしたり、それとは別に大胆に脚色したりといった過程が氏の文から読んで取れるのもなかなかに面白い。
ついでに後世の宗教画も福音書のうち見栄えがする描写を採用した、という事実がわかりやすくなっています。
人々の共通認識というのはこういった視覚情報に依るところがわかっていい、というのが聖書を読んだことのない一般大衆や日本人の大多数に通じる実感なのかもしれませんね。
とはいえ、マイナーな解釈や画家独自の演出も成り立つわけで。
聖書とは人類史でもっとも有名なミステリーなのかもしれません。
そもそも「昔の人だからそこまで考えていない」のか?
それとも「キリスト教団内の力関係が聖書の記述として現れた」のか?
どちらにせよ「曖昧で難解な記述が多いので後世の宗教家や作家の飯のタネに」なる。
別に信仰者でない方にとっても考察のし甲斐があるということで、ここ「新約聖書」の世界もなかなかに面白い。
第一部の過半を占めるキリスト復活までの経緯にしても、ひとりの悩める人間としてのイエスと聖性を帯びた神の子としてのイエスががせめぎ合い、あの大親分を信じていいのか? という疑問と葛藤が読者の共感を誘います。
旧約編で散々荒ぶるやくざとして大暴れしたヤハウェ大親分(新約編の肩書は大親分で統一)のことを思えば、一読者としても一抹どころか巨大な不安を感じないことはないわけで、当事者ならなおさらでしょうね。
なんにしても後の救世主イエス、妙なことを言って舎弟(使徒)を混乱の渦に叩き込んだかと思えば、一方でアホな舎弟どもの行動に頭を抱えたりもします。そんな人間模様が微妙にゆるく書かれています。
この辺は小難しい文体ではなく、俗物根性まるだしだからこそ表現できる「やくざワールド」の真骨頂ですね。
なお、イエスの死と復活、昇天に伴って残された信徒たちがつないでいったキリスト教がいかなる歴史を辿ったかについては軽く触れられる程度になっています。
そちらは先に取り上げ、ある意味本書の底本である『仁義なきキリスト教史』を参照いただけましたら幸いです。
サロメが望んだ洗礼者ヨハネの首、キリストの亡骸を抱えて嘆き悲しむ聖母マリアなどの有名な画題が実際の「聖書」ではどう記されているかを手早く知りたい方は、本書でお確かめいただくとして。
「新約編」は衆目を惹きつける派手な神話エピソードは抑え目、流血の惨事も控えめにした分、エンタメ性は薄れているかもしれませんが、コミカルなノリでは負けていないのでご安心(?)ください。
とは言え、「キリスト教」正の規範と負の呪縛をもって欧州人の精神世界を支配してきました。
その影響力は「旧約の世界」に勝る気さえします。
よって、こちら新約編におけるヤクザ成分は、民衆を導くための教育的配慮を吹っ飛ばし、訓話の裏に隠れた生の感情を味わうためのスパイスとして働いてくれているようです。
後世のキリスト教の暗黒史はともかくとしてイエス本人は普通にいいことを言っているので地味に突っ込みづらいわけですが。
先に述べた通り、生の人間としての感情や躍動性と、神の子としての神秘性のバランスをどう取るかという問題に関して、後世の芸術家たちがどうアプローチを重ねてきたかという創意工夫が伝わってきました。
なお、本書における書下ろし要素として欧州の芸術転換期「ルネサンス」の揺り戻しとして登場した聖職者サヴォナローラが引き起こした「虚栄の焼却」を題材とした短編が収録されていたりします。
もちろん、やくざを基本としつつ作者の得意とするパンクロックのノリで仕立て直したものです。
焚書の代表例であるヤバい事件なわけですが、今回も史実を踏まえつつ結構遊んだ筆致で描かれています。
神話世界を題材にすれば、その当時もポルノ的な作品を発表しようが許されたのだなと思いほっこりしました。
ある芸術家がこれに前後して作風を一変させたことが本文中に記されており、地味に笑顔が張り付く思いでしたが……。
総じて小説というより解説書としての性質はより強まっているように感じましたが、どの道「奇書/怪文書」のカテゴライズで理解するのがきっと理解の早道、関連作品含め笑ってご査収いただくのが良いのかもしれません。
「人」と「神」という二項対立に「やくざ」という第三極を持ち込んだことによって「三位一体」の理解を実現した――! などと言ってしまえば真面目な信仰者の方に怒られるかもしれませんが、「新約聖書」の世界が意外と変ということもわかれば楽しいので、きっと損はないことかと存じます。続きを読む投稿日:2020.06.04
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