仁義なき聖書美術【旧約篇】
作品情報
「おどれら、ほんまにいたしいのぉ~!」豪快な天地創造を皮切りに、人類リセット大洪水! 息子丸焼き命令! 中間管理職モーセの苦悩! 大親分ヤハウェの気まぐれと暴力が織りなす旧約聖書の世界を、芸術家たちはどのように表現してきたのか。ミケランジェロ〈天地創造〉、キルヒャー〈バベルの塔〉、カラヴァッジョ〈ダヴィデとゴリアテ〉などの傑作を、やくざ風物語と丁寧な美術鑑賞で読み解く。画期的美術読本!! 【新約篇】と同時刊行!
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この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
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二百万人殺した親分と、その舎弟たちの血潮にあふれる絵物語『原典にして前編』。
学術関係では「宗教」を主な活動領域に据えつつ、真面目だか不真面目だかわからないカオスが悲喜こもごもの楽しさを演出するマル…チエンターテイメント作家「架神恭介」氏が十年越しで「キリスト教」と向き合った結実のひとつです。
「田亀源五郎」先生の手掛ける表紙からして誰もが目にしたことのある有名な宗教画のパロディになっているので、本作がどういった方向性で編まれているかはわかりやすく、そう言った意味では良心的かもしれません。
このパッケージングなら冗談半分真面目半分で楽しく読めるなと思った私の直感は外れていなかったようです。
内容としては『芸術新潮』2016年06月号に収録されたコラム短編の集積体『仁義なき聖書ものがたり』からなる第一部、具体的には「聖書」から採ったエピソードを後述の珍妙な解釈のもとに再構成したものです。
よって第一部が記憶に残ったところで、共著者の「池上英洋」氏が真面目に当時の歴史的背景を踏まえ、第一部の流れを解説する本書書下ろしの第二部という変わった構成になっています。
両部に渡り、エピソードごとに宗教画の図説が施されているので視覚的情報に訴えかける力は強く、必ずしも文体の破壊力だけの作品/学術書ではないように思えました。
ある程度聖書に関して知識を持ってはいるけれど通読した経験はない私としては、キリスト教を教養として味わううえで初級~中級者向けのように感じました。
美術的な観点に関しては描画に当たっての技法というより歴史的な背景に寄ったものですが、事前知識の要らなさという意味ではありがたい仕様かもしれません。
なお、本作のテーマは架神氏の直近の作品である『仁義なきキリスト教史』の系譜となっています。
すなわち神話に任侠・ヤクザ映画のノリを持ち込みつつ、ユダヤ・キリスト教における唯一神「ヤハウェ」の横暴っぷりを笑いと震撼の入り混じった暴力性という意味で昇華させたものです。
氏の著作ではほかに『「バカダークファンタジー」としての聖書入門』、『かわいい☆キリスト教のほん』など、妙なスタンスからキリスト教の暗黒面を盛大に茶化しつつ注釈した本も目立ちますが、おそらく極点となるのがそちらでしょう。
主神=「親分」、規模や格の意味で上位なら「大親分」。
国、教団、組織など=「組」。
王や宗教指導者など=「組長」。
神や歴史上の人物、要は作中の登場人物全般=「やくざ」。
ヤハウェに捧げる供儀=「バーベキュー」。
これら用語にむりやり置き換えられ、加えて全編広島弁で繰り広げられることによる珍妙なワールドが再来しました。旧約編・新約編と分冊化されたことで、聖書に書かれていることという制約が嵌められた分、破壊力は増しています。
その後のキリスト教の暗黒史については触れられていませんが、完成度は高いかと。
特に旧約編はヤハウェ親分の理不尽さが光ります。
設定倒れな「全知全能」の肩書とは裏腹に、複数形で書かれていたりと矛盾も多いこの父なる神ですが――。
なにもかも不完全な人間に怒り狂っての一貫性がない場当たり的、八つ当たりな行動がヤクザだったらまぁそうなるよなって謎の説得力をもって迎えられるのも確かだったりします。
そして真面目に考察すれば、その背後にユダヤの被虐と嗜虐の後ろ暗い歴史が見えてきます。
世界の成り立ち、人類と民族の起源を創世記に求めつつ、その後の旧約の世界は大量虐殺、民族浄化が当たり前な血生臭いユダヤ国家の成り立ちに移行します。
そもそも周辺部族を容赦なく滅ぼしていったり、より大きな力によって安住の地を追われたりする過程も、ヤクザ同士の血みどろの抗争に見立てると妙にしっくりくるのも確かだったりしますから。
ところで「キリスト教」「イスラム教」のメジャーさ加減からすれば忘れがちですが、世界的に見れば「一神教」の世界観って実は珍しいんですよね(信者数の問題ではなく種別からすれば)。
ただしそれらの母体となった聖典を持つ「ユダヤ教」に関しては一民族の間だけで完結した宗教であり、周囲に存在した多神教世界(国家・民族)との相克の連続だったというのがよくわかってよいと思います。
その辺に頻繁に挿入されるバイオレンスだったり、時にエロチックだったりする逸話に後世の芸術家がいかに想像力を働かせて筆を走らせたというのがわかって面白い。
魅力的な「物語」には魅力的な「装画」が付いてくる、本書の記述を借りれば聖書って読み物としても面白いんですよね。その辺の説得力が美術画を大いに紹介する本書の売り文句と言えるのかも。
後世のフォローというか、肉付けのされていない「生」の神話世界の面白さってあると思うんですよ。
(それにしても先行するバビロニアなどの神話世界から本歌取りをされたり、世俗的権力と宗教的権威の間での綱引きの結果が聖書の記述という形で現れたりと、裏読みをしても面白いのですが。)
古代の宗教なんてそんなものと言われてしまえばそうなのかもしれませんが、諸説取ってフォローを入れたりもしていますし、それから長い時の洗礼を経て真面目な宗教家の理論武装も済まれている頃合い。
真面目な信仰者の方にとっても笑って通り過ごされましたら幸いです。
元々は「ユダヤ民族」の歴史書として生を受けた「はず」の旧約の世界が新約というあとからやってきた(後付けの)世界宗教「キリスト教」としてどういう経緯を辿ったかは「新約編」をご覧いただくとして。
実は後世の解釈によって、必ずしも原典から読み取れる描写や心情とは違った「画題」となったエピソードが散見されるのは面白いですね。そっちの方が見栄えがするからという顧客の要望もあるのでしょうが。
少なくとも「バベルの塔」に対して、建設に至った動機がよくわかっていないというのは盲点でした。
現代的のみならず、中世以後の価値観からしても眉をひそめたくなる逸話が散見されるなか、第一部に関しては二ページでまとめられた各短編ごとに架神氏の身も蓋もなさすぎるけど、読者の感想に寄り添ったの解説・感想コメントが挿入されたりもします。
なお、本書における書下ろし要素として西洋美術史に燦然と輝く「カラヴァッジョ」をやっぱりろくでなしのヤクザに見立てた短編が収録されていたりします。
彼がこの位置に置かれたということでその重要性は窺い知れようものです。
総じて小説としては少し物足りないとされる読者もいましょうが、その辺は先に挙げた氏の作品等で補完していただけますと幸いです。
ヤクザと美術、その双方を結ぶのが「聖書」というコンセプトは何かが間違っているかもしれませんが、ヤクザと聖書を結び付けた時点でやはり何かが間違っているので些細な問題ですね、きっと。続きを読む投稿日:2020.05.17
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