古関裕而―流行作曲家と激動の昭和
刑部芳則(著)
/中公新書
作品情報
古関裕而(一九〇九~八九)は忘れられた名作曲家である。日中戦争中、軍歌「露営の歌」で一世を風靡、アジア・太平洋戦争下のニュース歌謡や戦時歌謡を多く手がけ、慰問先でも作曲に勤しんだ。戦後は鎮魂歌「長崎の鐘」、東京五輪行進曲「オリンピック・マーチ」、映画「モスラ」劇伴音楽と、流行歌からスポーツ音楽まで数々の名曲を残す。戦争、そしてテレビの普及まで、昭和史を彩った彼の生涯をたどる。
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商品情報
- シリーズ
- 古関裕而―流行作曲家と激動の昭和
- 著者
- 刑部芳則
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2019.11.25
- Reader Store発売日
- 2020.03.13
- ファイルサイズ
- 30.1MB
- ページ数
- 304ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (8件のレビュー)
-
朝ドラの「エール」の時代考証も担当している著者による古関裕而の評伝。昭和という激動の時代背景とともに興味深く、かつ平易に叙述されている。
朝ドラのほうは現在ちょうど「紺碧の空」を作曲したところまで進…んでいるが、史実にしたがうとこれから「船頭可愛や」のヒット、そして「大阪タイガースの歌(六甲颪)」「露営の歌」のヒットと続いていくことになる。
朝ドラで古関が作曲した数々の「戦時歌謡」のあたりをどう描くかは注目だが、この「戦時歌謡」こそ、古関が世に出るきっかけとなったと評価している。「戦時歌謡」とはいわゆる軍歌である。しかし、軍歌というと戦意高揚のために歌わされた感が強いが、著者は「戦時歌謡」と呼び、戦時下にあっても大衆が自然と口ずさみ、慰めにした歌という意味合いで「戦時歌謡」と呼んでいる。
著者は全体にわたって古賀政男と古関を対比させ論じているのも面白い。古賀が自分の作曲した曲をしばしばアレンジしてヒットを生み出していったのに対して、古関は常に頭の中に旋律が溢れ出てくるタイプの「天才」であったと評価する。古関の最大の傑作である東京オリンピックマーチは4ヶ月で作曲したようだが、そこには日本という風土・景色から触発され想起されたメロディーが存分に込められていた。
朝ドラは東京オリンピックがラストのフィナーレを飾るようだが、コロナ禍の中で全編撮り終えられるのか……。是非、完結させてもらいたく思う。
追記(2020.5.23):古関が「紺碧の空」作曲の前に「反逆の詩(不確か)」というクラシックを作曲して志村けんの小山田先生に見せるシーンが朝ドラにはあったが、実際には関東大震災を意識して書いた「大地の反逆」という曲だったとか。ドラマの脚本に疑問を感じる。続きを読む投稿日:2020.05.23
朝ドラ『エール』風俗考証の方による古関裕而評伝。古関さんの曲は昔藍川由美さんのアルバムで聴いてから旋律の美しさが耳に残りずっと気になっていました。
意外だったのは、古関さんには天才大物作曲家のイメージ…がありましたが、戦前(1930年代~1940年代初頭)に本格ブレイクするまでに実に時間を要していたことです。一応「船頭可愛いや」はヒットしていますが(朝ドラでも古関さんをモデルにした裕一青年がヒットを出すまでの不遇ぶりが描写されていました)、頁をめくってもめくってもなかなかブレイクしない! という状況が延々と続くので、その辺りは読んでいてなかなか辛かったです。
天才音楽家が、音楽の芸術性と大衆性との狭間で苦しみ、聴き手の心を掴むことにより覚醒する、という構図は「音楽家あるある」であり、本書でも恋愛や風俗を上手く取り込むことで大衆性を確立したポピュラー音楽家の代表格として、古賀政男さん(朝ドラには主人公のライバルにして友人の木枯青年として登場)と対比的に採り上げられています。
古関さんの場合はその本格的な覚醒が訪れたきっかけが皮肉にも「戦争」であったということで、彼の作る人の心を鼓舞しつつどこか哀感のある美しい旋律が、挙国一致で戦争に向かう日本の空気と軍部の思惑とにマッチして、人気作曲家へと登り詰めて行き、戦後、自らの曲にのせて戦地に多くの人々が送られ犠牲になったことを大いに悔恨することになります。
ただし、本書の記述からは、戦前戦中も翼賛体制に真面目に協力する一方で、ご本人の人柄のほか、従軍音楽家として戦地に赴くなどした体験から、銃後の民、そして戦場の兵士達に共鳴する心を常に持ち続けていたという印象が伝わってきます。そうした心が敗戦や原爆のもたらした悲しみ、苦しみに打ちひしがれた人々を励まし心に灯をもたらす作曲家としての戦後の活躍に繋がったに違いありません。
晩年、テレビ番組で彼の業績が採り上げられる際に徐々に戦前戦中の作品が演奏される機会が減っていったという記述が本書終盤にあります。軍靴の響きと戦争にまつわる悲劇を連想させる音楽が避けられる状況はとても理解できますが、古関さんの場合は戦前戦中と戦後の活動とがある意味首尾一貫しているので、あらゆる時期の作品を聴くことにより、より作品への理解を深められて、音楽の魅力を楽しむことができると思いました。
ところでもう一つ気になったのは古関金子夫人です。朝ドラで彼女をモデルにした「音さん」についてはまだ、音楽学校で正式に声楽を学んでいたが出産育児のため志半ばで中退、という段階ですが、金子さん、その後も個人レッスンで声楽の勉強を続け、戦後に生まれた末っ子の子育てをしながらラジオ番組とは言え夫作曲のオペラナンバーを歌唱したのみならず、詩吟や油絵も学び、油絵は絵画団体のコンクール入選って多才過ぎるのでは……。本書では彼女を「作曲家・古関裕而」にとって最も重要な存在と位置付けしながら生涯についてはそんなに掘り下げていないので、ちょっと別の本も読んでみないといけないかも、と考え始めているところです。
続きを読む投稿日:2020.06.14
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