反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー
ジェームズ・C・スコット(著)
,立木勝(訳)
/みすず書房
作品情報
「ある感覚が要求してくる――わたしたちが定住し、穀物を栽培し、家畜を育てながら、現在国家とよんでいる新奇な制度によって支配される「臣民」となった経緯を知るために、深層史(ディープヒストリー)を探れ、と…」ティグリス=ユーフラテス川の流域に国家が生まれたのが、穀物栽培と定住が始まってから4000年以上もあとだったのはなぜだろうか? 著者は「ホモ・サピエンスは待ちかねたように腰を落ち着けて永住し、数十万年におよぶ移動と周期的転居の生活を喜んで終わらせた」のではないと論じる。キーワードは動植物、人間の〈飼い馴らし〉だ。それは「動植物の遺伝子構造と形態を変えてしまった。非常に人工的な環境が生まれ、そこにダーウィン的な選択圧が働いて、新しい適応が進んだ…人類もまた狭い空間への閉じこめによって、過密状態によって、身体活動や社会組織のパターンの変化によって、飼い馴らされてきた」最初期の国家で非エリート層にのしかかった負担とは? 国家形成における穀物の役割とは? 農業国家による強制の手法と、その脆弱さとは? 考古学、人類学などの最新成果をもとに、壮大な仮説を提示する。
もっとみる
商品情報
- 著者
- ジェームズ・C・スコット, 立木勝
- 出版社
- みすず書房
- 書籍発売日
- 2019.12.19
- Reader Store発売日
- 2019.12.20
- ファイルサイズ
- 2.5MB
- ページ数
- 296ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.3 (26件のレビュー)
-
定住農業から国家誕生まで4000年?
出版されるや各方面で話題になり、『Economist』誌の2019年ベスト歴史書にも選ばれている。
最近はどの本を読んでもこの本が参照先に上がり、読んでないのが恥ずかしいくらいになっていたが、ようや…く読めた。
意外に文量が少なくあっという間だったし、最後、唐突に終わっちゃうので"ほへ?"となったが、やっぱり良書。
"はじめに"でも書いてある通り、著者の専門は人類学もあるけど、基本は政治学者。
もともと本書は、特別に依頼された講義を準備する過程で生まれた、考古学や環境生態学、歴史学など専門外に越境する、実験的な書。
冒頭で「この本は不法侵入者による偵察報告のようなもの」と断りを入れているが、呈示された仮説の壮大なことと言ったらない。
魅力的な問題設定は優れた本に共通しているが、本書もこれでもかと読者に問いを投げかけ、我々は答えを知る前に、それまで隠されていた焦点に思いが至る。
「なぜ、生態資源が豊富な湿地や交易に便利な河口で初期国家が生まれなかったのか?」
「国家誕生には、豊かな生態系よりずっと単純な生業環境が必要だったのはなぜか?」
「強制的な重労働を強いられ、疾病のリスクもあり、おまけに徴税・徴兵もあるのに、なぜ初期国家は臣民を集め、増やしていけたのか?」
「なぜ初期国家の中心には穀物があるのか? 小麦や米でなく、大豆や芋の国家ができなかったのはなぜなのか?」
「なぜ栄養価が高く、いつでも収穫できかつ労働力が少なくて住む作物ではなく、収穫期が決まっていて、刈り取りに人手のいる穀物だったのか?」
著者の答えは簡潔そのもの。
「穀物と国家がつながる鍵は、穀物だけが課税の基礎になりうることにある」と。
"芋国家"ができなかったのは、塊茎作物は収穫が面倒だし、何より土に埋もれている。
同様に"豆国家"ができなかったのも、確かに小粒で管理しやすいが、小麦や稲のように一斉に熟して収穫できない。
すべては収奪の容易さと効率が基準で、徴税官にとって地上で査定しやすい政治的作物が選ばれた。
おまけに、大量輸送に適し、保存期間も長いという一石三鳥ぶり。
それにしてもよく野生の稲や麦を食用にしようと栽培を始めたものだ。
アリス・ロバーツの『飼いならす』でも指摘された通り、穀粒は硬く小さく、穂軸は脆く頼りなげで、どうみてもただの草なのに、どうしてこんな地味なものに目をつけたのか?
簡単ではなかったし、試行錯誤の繰り返しだったが、これらが国家誕生の基盤となり、いまや主食のコメやパンに変身したのだから、偶然とはいえ恐ろしい。
もう一つ、なぜ湿地帯ではなかっただが、こちらも言われてみれば興味深い。
湿地帯の方が生態環境が多様で、資源も豊富。
実際、大規模な定住地となっていて、作物化される前の稲が豊かに実っていたのに、国家が誕生したのはそれよりずいぶん乾燥した大地だった。
これは、こちらの方が、単一の資源を中央が独占管理し、課税が容易だった点を指摘している。
対して湿地帯では、多様で豊富な共有資源を、自生に任せ、共同体全体で利用していた。
もう一つの要因としては、気候変動で川の水量が減少し、残った水路に集まったからではないかとも。
国家が作られるためには、マンパワーと穀物が高い密度で集中する必要があったが、この説だと、人々は気候変動で追われるようにして集まり、結果として、乾燥した土地で国家が生まれることになったのだ。
いまも学者を悩ませる謎で、本書でも最も重要な問いはこれだろう。
「穀草類が作物化され、動物が家畜化され、定住もすでに開始しているのに、徴税し階層化された初期国家が誕生したのが、遅れること4000年もかかったのはなぜなのか?」
4000年と言ったら、中国4000年の歴史じゃないが、およそ160世代分で、ずいぶんモタモタしている。
ほとんどの人は定住農業が始まったら、人口が一気に増えて、社会が複雑化して、ほぼ時を置かずリニアに国家ができたと思っているが、それは間違いだった。
勘違いで言えば、他にもこんな思い込みが指摘される。
「国家が誕生する前は、生産性が低く、劣悪で、不安定な状態だったわけではないぞ。むしろ国家のほうが安定性を欠き、脆く、壊れやすかったんだぞ。あの強大で野心的な国家、秦王朝もわずか15年で滅んでいるだろ」と。
そもそも当時、寒冷と温暖の大規模な変化に翻弄されていたのに、労働集約的な農耕や家畜の飼育に大きく依存するのはリスクでしかなかった。
彼らは確かに農耕民でもあったが、豊かな資源に囲まれている間は、遊牧もし、狩猟採集も行っていた。続きを読む投稿日:2022.02.11
-
知的刺激に満ちた本だった。「銃・病原菌・鉄」を読んで以来、農耕・牧畜民族が文明・国家を築き、狩猟・採集民族を駆逐したのが人類の歴史だと思い込んでいたが、全く違っていたことを認識させられた。動植物の家畜…化・作物化(農耕・牧畜)→定住・人口増加→文明・国家出現と直線的に発展したと思っていたが、定住が家畜化・作物化に4千年も先んじていたこと、農耕・牧畜から初期国家出現まで6千年かかっていることに驚愕した。また、農耕民族>>>狩猟・採集民族で優越しているのではなく、農耕民族の被支配層(農民)は奴隷等の弱者で農耕民族の支配層と狩猟・採集民族の間で搾取・略奪という形態で結果的に農民の産み出した生産余剰とシェアしていたという事実には目から鱗が落ちる思いであった。続きを読む
投稿日:2024.02.03
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。