二重国籍と日本
国籍問題研究会(著)
/ちくま新書
作品情報
人は親や出生地を選べない。ますます多元的になる社会で、複数の国籍を持つ人は必然的に増えていく。蓮舫氏問題で脚光を浴びた「二重国籍」だが、国籍法の運用は旧態依然かつ不透明で、ナショナリズムに絡めた一方的なバッシングも目立った。外国出身者を親に持つ有望なスポーツ選手へ送られる拍手喝采の大きさとは、あまりにも対照的だ。国籍法の規定で外国居住の日本国民が国籍を剝奪される「悲劇」に抵抗する訴訟も起きている。国籍と日本人。私たちはどう考えればいいのか。いま、国民的議論が求められている。
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商品情報
- シリーズ
- 二重国籍と日本
- 著者
- 国籍問題研究会
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま新書
- 書籍発売日
- 2019.10.10
- Reader Store発売日
- 2019.10.18
- ファイルサイズ
- 1.2MB
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この作品のレビュー
平均 3.5 (4件のレビュー)
-
「自国民であることをどのように定義するか」はすぐれてドメスティックな問題であり各国の裁量に属する事柄(国内管轄の原則)だが、これが二重国籍を扱う場合となると途端に簡単にはいかなくなる。即座に各国の裁…量の衝突が起こるのだがそれが個人そのものを地平として生じるため、個人の人生やアイデンティに影響する生々しい事態に直結するのだ。個人が国家のフロントに立たされているようなイメージ。特に台湾との二重国籍のように日本が承認していない国家が相手の場合は、当該国の法律効果を国内でどのように扱うか、極めて微妙な問題となる。
本書の主張は、今日では二重国籍に伴って生ずる問題、例えば忠誠義務違反や重婚などの問題は生じ難く、その発生をむしろ容認すべし、とするもの。しかし、国内管轄の原則が衝突する以上多重国籍の防止は事実上困難だから、とするのはわかるが、「重国籍容認が世界のトレンドだから日本もそうすべし」というのは少々説得力に欠ける気がする。自国民の定義は当該国に積極的なメリットが生ずる形でなされる必要があるだろう(そうでなければ国内管轄の原則を満たしているとはいえない。もちろん他国民の権利を不当に害してはまずいのだが)。本書ではたとえば日本の労働需給の逼迫が挙げられているが、もっと多くの二重国籍を容認する積極的な理由が要請されて然るべきと思う。
我々が重国籍者に対して抱く「羨ましい」「ズルい」という心情。蓮舫問題を見ても、どうやら日本人には国籍問題に関しては理屈よりも心情が先に立ってしまう国民性があるようだ。本書はこれを狭量さの問題として矮小化しているようだが、しかしそれではいつまでも重国籍問題は解決しまい。なぜ我々にそのような心象が生ずるのかを掘り下げて考察し、それを世界各国の国籍観と見比べてみる必要があるのでは。いずれにせよ、国籍問題は制度面だけの整備で解消するような根の浅いものではないのではと思う。続きを読む投稿日:2020.10.10
このレビューはネタバレを含みます
二重国籍と日本
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編者:国籍問題研究会
発行:2019年10月10日
筑摩書房
カルロス・ゴーン騒ぎで、彼が三重国籍であることについて、レバノンやブラジル、フランスといった国々は、大らか、あるいは…、いい加減だと感じている日本人は少なくないかもしれない。しかし、実は逆なのである。国連の調査によると、2018年末時点で複数国籍を認めているのは実に75%に達し、しかもそうした潮流はむしろ大きくなっている。
単国籍しか認めていない日本が、少数派、あるいは、“異常”とも言えるのである。
本書編者の「国籍問題研究会」は、弁護士、学者、ジャーナリストからなる任意団体で、蓮舫問題を契機に2017年に結成された。2018年に開催されたシンポジウム及びその後の研究を踏まえて書かれたのがこの本だが、書いている9人のうち5人が弁護士。それぞれが別々に執筆しているので、同じ説明があったりするが、細かいところも含めて丁寧に調べ、研究している。
だから、細かな説明は頭に残る訳ではないが、底流にあるのはこういうことだ。国籍を変えるということは、当然、“相手国”がある。いくらこちら側が法律で手続きを決めていても、相手国にそういう決まりがなければ成立しない。つまり、一方の国内法をいくら整備してもだめ、かといって200を超える世界国々共通のルールを決めるなどというのは、ほぼ不可能。要するに、単国籍主義には無理があるということだ。
蓮舫問題が起きた時、法律や国籍問題の専門家であるこの本の執筆者たちも、法的に問題があるかどうかよく分からなかったらしい。それどころか、法務局によって、あるいは、同じ法務局でも担当者によって見解(解釈)が統一されておらず、何が“正しい”のか誰にも確信がなかった状態だった。もちろん、マスメディアも知識を持っているはずがなく、曖昧な報道を重ねていった。
ルールを決める方がバラバラなのだから、当然、蓮舫氏本人もよく分かっていなかった。記者会見で歯切れよく言えなかったのは当然。そこにまたつけ込まれた上、政権によるちょっとした嫌がらせもあって、ネット上や右派メディアがバッシングをしていった、というのが真相のようだ。
この件をきっかけに専門家が調査研究した結果、蓮舫問題に関してはなにも問題なし。戸籍を公開するどころか、彼女は一切の手続きをしなくてもよかった、ということが判明したらしい。
当時、軽率なメディアの情報に乗せられ、ネット上でヘイトに近い軽率な行動をした保守派の人たちの中には、いまだにSNSなどで蓮舫うんぬんと書いたり拡散したりしている人がいる。自身の行為を大いに恥じて欲しいものである。
蓮舫問題と並び、この本でもう一つ大きくクローズアップされている問題が、日本の国籍法による日本国籍剥奪主義だ。日本生まれ日本育ちの人が、外国で仕事をして頑張り、その中でどうしてもその国の国籍を取得しないと仕事ができない状況となり(不動産取得など)、長年住んでいるので取得できる状態だったため取得するが、日本はその時点で彼らから日本国籍を剥奪してしまう。こんな制度のある国の方が珍しい。本人たちはそれを知らず、その国の国籍を取得、現地の大使館はそれを知ると即座にパスポートを取り上げてしまう。そして、日本に帰ろうとしても彼らは外国人となる。そんな悲劇が起きている。国籍法11条1項の違憲訴訟が起きている。大変に注目だ。
大坂なおみ氏の件でも話題になっているが、国籍は本人のアイデンティティと密接に関係するものである。22歳だとか20歳だとかで、どちらかを選べ、というのはあまりに酷だ。その面でも、日本の単国籍主義は異常だと思える。続きを読む投稿日:2021.03.30
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