「私」は脳ではない 21世紀のための精神の哲学
マルクス・ガブリエル(著)
,姫田多佳子(訳)
/講談社選書メチエ
作品情報
今、世界で最も注目を浴びる哲学者マルクス・ガブリエル。大ヒット作『なぜ世界は存在しないのか』の続編にして、一般向け哲学書「三部作」の第2巻をなす注目の書が日本語で登場です。前作と同様に目を惹きつけられる書名が伝えているように、本書が取り上げるのは昨今ますます進歩を遂げる脳研究などの神経科学です。それは人間の思考や意識、そして精神は空間や時間の中に存在する物と同一視できると考え、その場所を特定しようと努めています。その結果は何かといえば、思考も意識も精神も、すべて脳という物に還元される、ということにほかなりません。でも、そんな考えは「イデオロギー」であり、「誤った空想の産物」にすぎない、というのがガブリエルの主張です。「神経中心主義」と呼ばれるこのイデオロギーは、次のように主張します。「「私」、「意識」、「自己」、「意志」、「自由」、あるいは「精神」などの概念を理解したいのなら、哲学や宗教、あるいは良識などに尋ねても無駄だ、脳を神経科学の手法で―─進化生物学の手法と組み合わせれば最高だが―─調べなければならないのだ」と。本書の目的は、この考えを否定し、「「私」は脳ではない」と宣言することにあります。その拠り所となるのは、人間は思い違いをしたり非合理的なことをしたりするという事実であり、しかもそれがどんな事態なのかを探究する力をもっているという事実です。これこそが「精神の自由」という概念が指し示すことであり、「神経中心主義」から完全に抜け落ちているものだとガブリエルは言います。したがって、人工知能が人間の脳を超える「シンギュラリティ」に到達すると説くAI研究も、科学技術を使って人間の能力を進化させることで人間がもつ限界を超えた知的生命を実現しようとする「トランスヒューマニズム」も、「神経中心主義」を奉じている点では変わりなく、どれだけ前進しても決して「精神の自由」には到達できない、と本書は力強く主張するのです。矢継ぎ早に新しい技術が登場してはメディアを席捲し、全体像が見えないまま、人間だけがもつ能力など存在しないのではないか、人間は何ら特権的な存在ではないのではないか……といった疑念を突きつけられる機会が増している今、哲学にのみ可能な思考こそが「精神の自由」を擁護できるのかもしれません。前作と同様、日常的な場面や、テレビ番組、映画作品など、分かりやすい具体例を豊富に織り交ぜながら展開される本書は、哲学者が私たちに贈ってくれた「希望」にほかならないでしょう。[本書の内容]序 論I 精神哲学では何をテーマにするのか?II 意 識III 自己意識IV 実のところ「私」とは誰あるいは何なのか?V 自 由
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商品情報
- 著者
- マルクス・ガブリエル, 姫田多佳子
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社選書メチエ
- 書籍発売日
- 2019.09.12
- Reader Store発売日
- 2019.09.11
- ファイルサイズ
- 1.7MB
- ページ数
- 392ページ
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この作品のレビュー
平均 3.5 (8件のレビュー)
-
論理的で、バランスの取れた著作。
様々な論者の思想を暴き、批判し、人間の生、そして、哲学をあるべきものにする取り組みだ。
特に最終章が素晴らしい。上への野蛮化が現代では神ではなく、テクノロジーに結びつ…き、下への野蛮化は進化論万能に結びつく。続きを読む投稿日:2020.02.26
哲学系の勉強をしている友人が
神経科学を専攻している人にこの本はどう写るか気になる、と言われて読んでみた。
作者は神経科学の中でもすごく極端な立場の人をあげていないか?と思ってしまった。筆者の主張は…もちろん分かるのだけど、批判の対象が神経科学なのが全然納得できない〜
最初の導入部分で自然主義と反自然主義の議論を、
精神と神経活動の議論にすり替えているように思えてしまって
ずーっとひっかかってしまった。
筆者が批判すべきは方法論的自然主義なのでは。
別に脳の働きで人間の営みが全て説明できるだなんて思っていないし、
神経科学と精神哲学は排他的なものじゃない
本文で例に出されている友情とか、美や幸福とか、
現時点で科学の土台にのせられていないものはたくさんあるし
科学やその領域について議論していないよと思う
少なくとも神経科学を専攻した私も、
私を指導してくださった先生もそういう立場
あんまり冷静に読めなかったので
落ち着いたらもう一度読もうかな、でも少し心が挫けそう...続きを読む投稿日:2021.12.23
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