シベリア鉄道紀行史 ──アジアとヨーロッパを結ぶ旅
和田博文(著)
/筑摩選書
作品情報
列強による世界分割のさなか、ロシアの極東開発の重点を担ったシベリア鉄道。20世紀の歴史に翻弄され続けたこの鉄道を旅した近代の日本人の目は、車窓に何を見たのか。ヨーロッパに至る憧れの旅路、軍隊や流刑の民を極東に送る脅威の鉄道、夢の共産主義国家、危険な脱出劇の舞台……当時のガイドブックや新聞記事、ジャーナリストや政治家、作家や芸術家らの記述をたどり、シベリア鉄道という表象装置のイメージ変遷を追う。
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この作品のレビュー
平均 4.5 (2件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
シベリア鉄道の紀行文を辿りながら、シベリア鉄道とそれを取り巻く社会情勢を解説する本。「シベリア鉄道目線でシベリアとその周辺域の戦前史を語る本」と言ってもいい一冊。
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シベリア鉄道とセットで作られた東支鉄道(満鉄の北半分)の歴史も含まれ、それが中国との関係ではなく、ロシアやソ連との関係から語られる。かなり興味深い視点を提供してくれる一冊だった。
第一次大戦後のシベリア出兵に関する記述が特に興味深かった。「シベリアに出兵したが、諸外国の干渉で撤兵した」以上のことを中学歴史レベルでは教えてくれないわけですが、その出兵領域がウラル山脈近くまで伸びていたのは初耳。「第二次大戦直後、ソ連にはひどい目にあった」的な日本の文脈に誤りがないのは確かだけど、「シベリアでやられた分、満州・千島でやり返した」という見方をソ連・ロシアが持っていたとしても不思議はない。
文中でも交戦相手の組み合わせの変化で、対日感情が大きく変化する様が紹介されている。また、シベリア鉄道の整備が注目される際、そこから期待される経済効果という利点と、軍事的行為という難点の双方が取り上げられてきたことも紹介されている。
移ろいやすい国民感情に必要以上引っ張られないようにすること、日ロ親交化のデメリットばかりが語られる昨今のマスコミに一定の疑念をもつべきであること、この二つを教訓とすることができた一冊。
なお、鉄道紀行史であるにも関わらず「じゃあ、これに自分も乗ってみたい」といまいち思わせない一冊でもある。
作中の紀行体験に、一番バリエーションがあるのは日欧直通の切符が発売されている時期。「とりあえず乗ってみよう」の気楽さで行けない制度的なめんどくささが、シベリア鉄道の旅情をそそらないのかな、と邪推したくなる一冊でもありました。投稿日:2013.05.15
このレビューはネタバレを含みます
シベリア鉄道初心者が、区間の勾配差や開業初期の機関の出力などを知りたいとふと思い、どこから手をつけるべきかとよく考えもせずに手に取った。目的は達成できなかったが、実に有意義な読書となった。
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シベリア…鉄道着工直前から第二次世界大戦集結後までの、シベリア鉄道が関係するイベントを史料から列挙している。そういう切り口から納得させられることがあるものだ。
例えば一つ、日露戦争前の日本がロシアに抱いていた恐怖、危機感というもの。大津事件というものを知っていたとしても、動機や背景について理解が及んでいなかった。朝鮮に向かって鉄路がどんどん伸びてくるという一事によって強力な説得力をもたせられた印象がある。
当時は世界中が帝国主義で、清は抵抗も虚しく列強にされるがままだったし、弱さを見せたロシアもまた例外ではなかった。シベリアという難しい土地でなかったならば、切り刻まれていたかもしれない。それについて分厚い本を読んでも今ひとつピンと来なかったシベリア出兵の意味も、鉄路が距離を短縮し得たという背景を踏まえてみるとよりよく分かってくる。
非常に有意義な一冊だった。続きを読む投稿日:2023.10.11
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