戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道
筒井清忠(著)
/中公新書
作品情報
現代の政治状況を表現するときに用いられる「ポピュリズム」。だが、それが劇場型大衆動員政治を意味するのであれば、日本はすでに戦前期に経験があった。日露戦争後の日比谷焼き打ち事件に始まり、怪写真事件、満洲事変、五・一五事件、天皇機関説問題、近衛文麿の登場、そして日米開戦。普通選挙と二大政党制は、なぜ政党政治の崩壊と、戦争という破滅に至ったのか。現代への教訓を歴史に学ぶ。
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商品情報
- シリーズ
- 戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道
- 著者
- 筒井清忠
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2018.01.25
- Reader Store発売日
- 2019.01.11
- ファイルサイズ
- 4.6MB
- ページ数
- 320ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (14件のレビュー)
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戦前日本が特殊なわけではない
文在寅の韓国の行動は国際関係から見ると理解し難いが、ポピュリズムが基底にあり国民感情を優先していることは間違いない。これを韓国の国民性と言ってしまえないのは戦前の日本もポピュリズムの強力な圧力に屈して…いたことからだ。
日露戦争開戦当初、国民の戦争支持は熱心ではなかった。しかし新聞社が戦勝を報道し、戦勝会を主催する中で盛り上がっていった。その行列の解散場所が日比谷公園だ。まだ戦中の1904年5月8日には死者が21名出るほどの熱狂を見せている。新聞社、政党人などを中核に暴力的大衆との結びつきがポーツマス講和条約反対運動、護憲運動、普選運動などを盛り上げたのだが、群衆は警官とは戦っても軍隊とは戦おうとしなかった。その後ろにある天皇の威光と戦うことはないからだ。幕末の武力倒幕から日比谷焼き討ちを経て2・26事件まで構造的には「君側の奸」を打つという思想的な共通性が見られ、天皇をシンボルにした政治利用とポピュリズム化についてはこの後も繰り返しあらわれる。後の5・15事件報道も似たような構造で新聞は元老、財閥、特権階級への批判を正当化し、「小説的・物語的面白さ」はたえず追求されていく。裁判の中でも赤穂浪士になぞらえられ、徳富蘇峰は渋沢栄一だ関東大震災を「天譴」と称したのを持ち出し、5・15事件「人譴」になぞらえ首相暗殺犯の「所信を社会に実行せし」と唱えた。別の新聞は「各被告の同期に至っては、憂国の純情そのものであって、日本国民にして何人か、かりにもこれを憎むものがあろうか。従って動機のみより言えば、却ってこれを表彰こそすべきで、罰するはずはないのである。」とまで書いている。
大正期のポピュリズム的な運動はナショナリズムと平等主義に方向付けられたが、このナショナリズムは排日移民法を受け反アメリカに向けられ、親中国的なアジア主義の高揚が見られた。平等主義については普通選挙の実施という非暴力的な運動の成果が生まれた。ポピュリズムそのものには方向性はなく世論は時には大きく方向を変えていく。
ワシントン海軍軍縮会議では対米7割の支持は2割程度で、対米6割で早期妥結支持が6割あった。海軍は対米7割を達成できなかった理由を世論形成の失敗と捉えロンドン会議では新聞社に協力を要請する。海軍の意向に新聞が踊った結果、世論は対米7割を絶対視するようになったが、最終的には財政上の影響と国民負担の軽減を持ち出し新聞は妥結を支持する。国際協調主義の財部財相、若槻全権の帰国を大歓迎で迎えた国民はわずか3年後にはリットン調査団報告書受諾拒否共同宣言を全国132紙が一斉に出したことも影響s、国際連盟脱退の松岡全権を大喝采で迎えることになる。
1931年の陸軍軍縮期には軍人は厄介者扱いをされていた。軍縮を支持していた朝日新聞は満州事変勃発後不買運動の拡がりに大きく部数を落とし、満州事変支持に転向する。これに対し当初より満州事変を支持していた毎日は部数を伸ばしていっていた。戦争と、その大々的報道という「劇場型政治」が展開され、世論は急速にその支持に傾いていった。対外危機は大衆デモクラシー状況におけるポピュリストの最大の武器である。
「最低でも県外」と訴えた鳩山由紀夫はポピュリズムの失敗例だろう。民主党への期待は裏返り政権を取ることだけが求心力だった民主党は解体した。民主主義である以上ポピュリズム的な要素は常にあり、合理的な判断が優勢な間は大きな問題にはならないだろう。ただ小選挙区制では支持率の差以上に議席数に差がつくのでポピュリズム的な手法はやはり魅力的なのだ。国際的な関係の中で現実的な最適解がポピュリズムの求める方向と一致しない場合には気をつけたほうが良い。続きを読む投稿日:2019.08.31
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「議会・世論を考えたからこそ(トラウトマン)和平工作は潰れ、強硬な声明が出され、戦争は拡大していったのだった」
良書投稿日:2022.03.02
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