この作品のレビュー
平均 4.0 (46件のレビュー)
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著者を知っているので必ずしもフェアなレビューになっていないかもしれませんが、まあそういう前提でお読みください。
そういう前提付きですが、私は、本書は総体的には、子どもたち・若者たちの将来への備えにな…るキャリア教育とは何か、を考える上で多くの示唆をもたらしてくれる本だと思いました。もちろん書かれているすべての指摘に賛成ではありませんが。
キャリア教育の「ウソ」だなんてセンセーショナルなタイトルで、キャリア教育に熱心に取り組んでおられる関係者からすれば面白くないかもしれませんが、まあそれは編集サイドの思惑もあるでしょうし、著者自身も「からくり」や「(キャリア教育又は子ども・若者が陥りやすい)わな」といった意味で使っておられるようですし。ただしそこには、「現在行われているキャリア教育には、現実(社会の状況、若者の状況、労働の状況)を十分見つめ切れていない(ものもある)」という、たぶん正しい指摘が含まれているのだと思いました。
本書を読んで(僭越ながら)自分と問題意識が共通している点が大きく分けて2つありました。
一つは、著者が指摘している「やりたいこと探し」の重視についてです。私は「夢や希望を持てば皆頑張るようになる」的な教育観にあまり共感できないで来ました。成功した方はそういうことをおっしゃるのですが。自分はそうだった、それで頑張れた、子どもたちはみなそうに違いない、と。。。もちろん、子どもたちのためを思ってその学習意欲を高めるための考えの一つでしょうから、そういう風に考える方の気持ちは尊重したいですが。しかし夢や希望なんてそんなに簡単に持てるのだろうか?という気がします。またそんな簡単に持つべきものだろうか、とも思います。
夢や希望を持ってストレートに仕事に結びつく人はほとんどいないわけで、別に「夢みたいなこと言ってないで現実を見ろ」というドラマでありがちな大人のセリフとして言っているわけではなく、夢が直接職業になるというのは特定の専門家の場合(スポーツ選手、芸術家、法曹関係、医療関係、教師・保育士、パン屋・花屋など分かりやすい小売業)であって、ほとんどの人は組織に属して給料をもらいジェネラリストとして生きていく。そこに大きな齟齬があるのに、それが隠れているのはリアリティがないというか、ちょっと嘘くさいというか。。。
大学生の就職について「就職」と「就社」という言葉で指摘されている問題もありますが、その当否はともかく(どっちがいい悪いという問題でないように思いますが)、我が国ではまだまだ「就社」が圧倒的に多いわけですし、独立したプロになる人はまだまだ少ないです。
著者も述べておられますが、職業選択に限らず人生というのは、自分の思いと社会の中での自分の位置(社会から求められる役割や自分の能力・特性が役に立つ場所など)とのせめぎ合いなのだと思います。それは単に希望と現実(能力)の折り合いというさみしいだけのものではなく、自己と他者との関係性を理解するという意味もあります。また、私は自分の職業選択の時から、仕事というのは「やりたいこと」「やれること(又は得意なこと)」「やるべき(だと思った)こと」の狭間での迷いもあり、そういう意味での選択もあると思います。十年ほど前に中学生にそういう授業をさせてもらったこともあります。全部が重なれば最高に幸せかもしれませんが、なかなかそうはならないでしょう。
もう一つは、キャリア(≒人生)教育と言っていながら、職業や就労だけに焦点が当たっている(「ライフキャリア上のさまざまなイベントや転機に対応できるための準備も必要」)という問題意識です。この点についてはこれまでもたびたび書いたことがありますので、簡単にしておきますが、特に人生上で、就職の後に続く、結婚、妊娠・出産(女性だけでなくパートナーである男性にとっても大事)、子育て(乳幼児期の様々なイベントや、就学、進学など)、地域等仕事以外の役割(PTAなど学校支援、自治会、地域によっては消防団)、親の介護などなどについても、結論は出せなくても若い頃から考える機会を持つべきだと思っています。また、近年「働き方」そのものも社会的な話題に上ることが多いですが、「どのような働き方を選ぶのか(場所、形態、忙しさ、などなど)」、ライフスタイルについても考えていいはずです。目先の就職・進学に比重がある程度偏るのはしょうがないとは思いますが。
他にも著者は以下のような非常に有益な(と私は思う)指摘をしておられます。
・「標準(=新卒就職→そこに長く勤める)が崩れてしまった時代」なのに、標準な就職だけを念頭に置いた指導が行われている。
・キャリア教育と教科教育とを別物だととらえている
・自己理解、職業理解、プラン作成など、深く考えないでもやってしまえるワーク的学習の問題点
・正社員モデルや生涯賃金比較による指導の限界、、、などなど。
最後に。本書のプロローグは、児美川先生の教え子の卒業後について書かれているわけですが、先生の愛が詰まっている気がしました、ちょっと泣いてしまいました。キャリア教育の本で泣くのは私ぐらいでしょうか(笑)。続きを読む投稿日:2013.07.15
学生が就活前に読んでほしいもの
キャリア教育の焦点が、職業や就労だけに当たってしまっている。 ② キャリア教育への取り組みが、学校教育全体のものになっていない。(教育課程から見て、〝外付け〟の実践に…なってしまっている。
キャリアとは、「これまでの、そしてこれからの人生の履歴」を意味する。しかし、そこには、そうした「履歴」が〝変転の可能性を含んでいる〟という含意がある。少なくない〝節目〟や〝転機〟が存在することが想定されている。
キャリア教育とは、字義どおりに解せば、「キャリアのための教育」であろう。つまり、変化の激しい社会に 漕ぎ出ていって、そこで自らのキャリアを築いていくための準備教育で「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる。
社会的な存在である人は、人生の履歴において、さまざまな「役割」を引き受けながら生きていく。
それは、役割を引き受けるという仕方で社会に参加し、貢献していくことでもある。
そして、そうした「役割」を担うことができるように成長すること、そのことを、自分の「生き方」として、自分の中に統合していけることが「キャリア発達」で
①「自己理解」系 ②「職業理解」系 ③「キャリアプラン」。
日本の職業世界では、専門職や専門的職種などを除くと、そもそも雇用は、ジョブ(仕事) によって切り分けられていない。文系のホワイトカラーなどでは、その枠内であれば、どんな仕事にも対応できることが求められる。職業世界の「現実」がこうであるのに、キャリア教育においては、「やりたいこと(仕事)」を明確にすることが求められる。──こうした対応関係には、もともと無理があるのではない。
① 日本の雇用慣行においては、そもそもジョブ(仕事) に応じた採用や育成がなされないことが多い。 ② 「やりたいこと(仕事)」の見つけ方が、主観的な視点に偏ってしまう可能性がある。 ③ 「やりたいこと(仕事)」を、その実現可能性や社会的意味との関係で理解する視点が弱いように思わない。続きを読む投稿日:2021.08.30
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