名物・金庫番が解き明かす 3つの近未来
領内修(著)
/かんき出版
作品情報
いまから一〇年ほど前、私は金融マンからメーカーの金庫番=
CFO(チーフ・フィナンシャル・オフィサー=最高財務責任者)に転じた。
年に二回ほどIR(投資家向けの広報活動)の仕事でアメリカやイギリスなどを訪れ、
各国の投資家や金融マン、実業家と情報交換をする機会に恵まれた。
そういう情報交換を通じて、私はリーマンショックの前後から、
社会や文化の根底からの「変化の兆し」を感じはじめた。
そこで、私は、自分の得意分野でもある
「金融」「デジタル社会」「組織」の三つの「近未来」について考え、
調べを続けた。
ここ五~六年に行った講義や講演でも、ご要望に応えてそれらを題材にしている。
私が考えている「近未来」とは、
「新東京オリンピックの二〇二〇年から昭和百年の二〇二五年」を
念頭に置いている。
つまり、これから五~一〇年後の近未来を想定している。
最近、テレビなどがよくとりあげる、「ネクストワールド」という
三〇年後の社会を想像した時代設定とは大きく異なる。
本書での近未来は、われわれ中高年者が生きて経験できる時間範囲内のことで、
それは想像の社会ではなく、ある程度、予測がつく社会である。
想定される変化の姿には、次の三つが考えられる。
1.眼前で起こっている変化の延長線上に位置するにすぎないもの。
2.徐々に大きく膨らんで、大変化をともない、社会を変えるパワーをもつもの。
3.昨今の自然災害と同様、天地動乱となる大変事を一気に呼び起こすもの。
昨年十二月の執筆開始から半年、この間、
質的な変化や多様化を引き起こす新情報に驚きをもって対処・対応してきた。
その結果、確信したことは、
大きな変化や変革の波が確実にきているということである。
この機会に、近未来への判断材料を選択し、熟慮し、見つめ直すことで、
多少なりとも読者の共感を得ることができれば望外の幸せである。
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商品情報
- シリーズ
- 名物・金庫番が解き明かす 3つの近未来
- 著者
- 領内修
- 出版社
- かんき出版
- 書籍発売日
- 2015.06.08
- Reader Store発売日
- 2018.04.09
- ファイルサイズ
- 1.4MB
- ページ数
- 240ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (3件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
1.「リーマン危機」はいまなお続く!
レビューの続きを読む
2.「仮想現実」が新しい価値を生む!
3.ネット時代は「ハチの巣型」に変わる!
【要旨】2008年9月のリーマンショックは、言うまでもなく世界の金融、経
済、そして政治にまで多大な影響を及ぼした。およそ10年前に金融マンから
転じ、メーカーの“金庫番”であるCFO(最高財務責任者)としてリーマン
ショックに直面した本書の著者は、その前後から社会や文化が根底から変化
しつつあることを感じはじめたという。本書では、そんな著者が自らの得意
分野である「金融」「デジタル社会」「組織」の3分野における“近未来”
がどうなるのか、考えを述べている。ここでいう“近未来”とは、2020年か
ら2025年までを想定している。ダイジェストでは、リーマンショックの原因
分析からこれから起こりうる危機にどう対処すべきかを説く「金融」パート
と、トップダウン型、フラット型に代わる新しい組織のあり方を示したパー
トを取り上げた。著者はSCREENホールディングスCFO。2014年に米国の金融誌
で「ベストCFO」に選ばれている。
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●コマーシャルペーパーと外国為替の二つの市場が未回復
リーマンショックは、2005年~06年にピークをつけたアメリカの住宅バブ
ルがはじけたことがきっかけだった。バブル退治のためにFRB(アメリカ連邦
準備制度理事会)が行った金利の引き上げが、住宅価格の下落に拍車をかけ
たといわれている。FRBが利上げを行ったあと、サブプライムローンと変動金
利型住宅ローンの債務不履行が急増した。
私は、金貸し哲学という面から、日本の商業銀行とアメリカの銀行との審
査の違いを学んだ。アメリカには、融資するだけの部隊と、回収するだけの
部隊があり、融資に一本の筋が通っておらず、融資をすればするほど担当部
隊のボーナス点が高くなる。ここから、借り手の事情を無視する「貸し手の
論理」が生まれる。いっぽう、回収者はマニュアルに沿って回収業務に専念
する。
住宅ブームを背景にして、貸し手の論理による融資がイケイケドンドンで
行われ、サブプライムローンが拡大していった。それを仕掛け、仕組んだ投
資銀行の罪は大きく、それを放置したFRBの罪はさらに大きい。
世界を襲った金融崩壊と信用収縮によって、いまだに回復できずに異常事
態が続いている市場が二つある。一つはコマーシャルペーパー市場であり、
もう一つは外国為替市場だ。
経済用語辞典で「コマーシャルペーパー」を引くと、「企業が短期の資金
調達のために発行している単名・自己宛の無担保約束手形」とある。翌日物
から2~3週間の期間の調達は、銀行借り入れより、この市場から調達する
のが便利で早かった。しかし、リーマンショックから6年あまりたっても、
超優良企業は別として、中堅企業がこの市場から数十億円規模の資金を調達
することはできないままだ。
二つ目は、東京をはじめ世界の外国為替市場が正常に回復していないこと
だ。インターネットの普及により、「ミセス・ワタナベ」(外国為替証拠金
取引「FX」に投資する主婦などの素人投資家の俗称)や裏社会を含めた不特
定多数の参加者が市場取引に参入し、まったく実情が把握できていない。も
ちろん、闇の世界の資金もごまんと入っている。市場規模については、リー
マンショック前後と比較すると1.5倍という異常な膨らみを示していることを
記憶しておいていただきたい。
●影の銀行が生まれている中国発の金融危機も警戒すべき
2008年末、中国共産党政府は4兆元(約53兆円)規模の財政出動を実施し、
リーマンショックの収束を図る一翼を担った。ただ、4兆元の財政出動は、
資産バブルと債務の急増という問題を発生させた。中国の経済成長を維持す
るためには多額のインフラ投資が必要だが、その担い手たる地方政府に財源
の余裕はない。影の銀行は、そうした資金調達を行うために生み出されたも
ので、これには次の四つがある。「不動産信託」「微小貸款公司」「集合資
産管理計画」「理財資産管理計画」
この四つがもつリスクを計算すると、200兆~230兆円にのぼる。これはサ
ブプライムローンが抱えたリスク額230兆円と同規模になる。恐ろしいのは、
世界じゅうのリスク額を中国一国で抱えていることだ。
リーマンショックの克服に寄与してくれた中国だが、今後は中国発の金融
危機にも備えておくべきだろう。
リーマンショックの次に世界を巻き込む過ちは何だろうか。はっきりして
いるのは、高速コンピュータを使うことで株式市場へのアクセスが100万分の
1秒の世界に移っていることだ。一瞬のうちに、世界じゅうの人をより複雑
怪奇に巻き込み、まったく予期しない破局のステージに追い込む可能性が出
てくるだろう。
リーマンショックが起こった際、日本とアメリカの政策当局者、あるいは
企業の経営者や金庫番が何をやっておかなければならないかは明確だった。
それは、変化をいち早く察知し、手厚いキャッシュ化を図って万一に備える
ことだ。
私が当時の部下に指示・指揮した内容は、「早め」「長め」「厚め」だった。
・早め…銀行の貸出し余力がいちだんとなくなる可能性が大→前倒しで資金
を確保
・長め…現時点では本格的な回復時期は不透明→調達はできるだけ長期的に
・厚め…先の資金ニーズもできるかぎり前倒し→できるだけ調達しておく
このスローガンからいえることは、事が起こってからでは遅いということ
だ。より具体的にいえば、長期の安い資金提供と信用取引というバブルの基
本がかたちを変えて現れてくるのを、いかに早く察知して対処するかである。
中国やヨーロッパもかなりの火種を抱えている。地政学的リスクを背景と
する原油価格の下落(中東、ロシア)が主因になるかもしれない。あるいは、
新興国市場(ブラジル、アルゼンチン)から外国資金を引き揚げるという動
揺が引き金になるかもしれない。
既存市場の破綻も要素の一つだろう。異常に収縮したコマーシャルペーパー
市場を補う短期新商品が出現するだろう(企業には必ずニーズがある)。ま
た、外国為替市場にも、同様の注意が必要である。国際ルールがないまま、
実態のない投機マネーが無秩序に売買を行い、実需取引が翻弄されている。
CFOとしては、為替の出来高と為替レートの異常値に気づくべきである。
●近未来にふさわしいのは「階層別ハチの巣型組織」
P.F.ドラッカーやヘンリー・ミンツバーグは、いまあるべき社会組織はピ
ラミッド型ではないのではないかと問題提起する。そして、文鎮(フラット)型
やオーケストラ型に近い組織を理想的な組織と見ている。
横一線に構成員が並び、文鎮の上部にある小さな突起がトップをイメージ
する。このような文鎮型、あるいはフラット型を、ドラッカーは「オーケス
トラ型組織」と名づけている。
現代のような情報重視の時代には、ごまんとある情報をそれぞれの得意・
専門分野で整理・調整し、経営が必要とするものを具体的に提示しなければ
ならない。経営者はそこから取捨選択し、順位をつけて実行する。
ただ、この組織形態はあまり成功していないといわれている。それは、継
続性の問題である。オーケストラ型の組織にはカリスマ性をもつトップの存
在が欠かせないのだが、そのトップの後継者は組織を継続できない可能性が
高いということがある。
近未来型の「階層別ハチの巣(ハニカム)型組織」は、それぞれの階層が
ハチの巣のようなつくりになっており、それらが積み重なって積層階のよう
になっている。
ハチの巣型の組織は、命令系統が上下中心でなく横依存型で、ゆるやかな
提携関係で結ばれている。それぞれの階層は専門家やプロと呼ばれる人たち
が形成するため、業種や分野の壁を越えて情報が飛び交い、結びつく。ネッ
ト社会が背景にあるため、情報は瞬時に、上下だけでなく、社内の組織を超
えて横にも飛び交う。
ハチの巣型組織のリーダーに求められるポイントは、次の四つだ。
(1)全体観と方向性:階層別に上意下達をしにくいハチの巣型組織ほど、
全体観が重要になる。組織は階層別・情報別にバラバラな行動をとりかねな
いので、リーダーには的確な方向性のとり方が求められる。
(2)スピードコントロール:早ければいいというものではなく、緩急をつ
けて指示することが大切である。
(3)IT社会の知識と健全なガバナンス:先進知識を取り入れ、それを正し
くフォロワーと共有し、社会に還元できる組織とネットガバナンスが求めら
れる。
(4)強いチームづくりと勝つための正しい判断:淀みない訓練と、チーム
全体の調子を確認するさまざまな判断は、自己満足ではなく、フォロワーや
組織の円滑運営に直結する。
コメント: 「階層別ハチの巣型組織」では、リーダーのみならずメンバー、
フォロワー一人ひとりも「全体観」をもたなければならないのだろう。大ま
かに全体を把握した上で、個々の専門性を発揮し、「全体」と目の前の「専
門」のつながりもしっかりと理解する。それを組織の全員ができれば、きわ
めて強い組織ができあがる。また、このことは本書の第一のテーマである「金
融」の危機対応にも当てはめられるのではないか。過去と未来予測といった
時間軸を含めた「全体観」をもちながら、目の前の専門性とのかかわりを知っ
ておくことで適切なリスク管理が可能になるのではないだろうか。
※本ダイジェストは書籍からの引用です。
小見出し、要旨、コメントは情報工場が独自に作成しております。投稿日:2015.10.25
近未来のロードマップを描くにあたってヒントになるかなと思い、手に取った本。
リーマンショックに関する説明の多い第1部。
実際にCFOとして最前線で立ち向かった経験をもとに、年度越え資金の確保、販売先…・納入先の倒産に備えた売掛金のチェックを対策の第一歩とし、資金を早め、長め、厚めに確保することの重要性をうたっている。
企業の資金留保が進んでいるが、リーマンショックのような非常事態に備えているからだとしたら、それを責めることも出来はしないなと感じた。
仮想現実が新しい価値を生むとした第2部。
近未来の企業のあり方としては、ものづくりから価値の創造を、とうたっている。面白かったのは、宇宙で無重力対応の3Dプリンタがあれば、という話。実現すればその場でなんでも作れてしまい、いちいち地球に戻る必要も物資を送る必要もなくなるかもしれない。さらには3Dファックスの概念も。バイオインクならぬ物質インクで、まったく同一のクローン物体が伝送先に出現するかもしれない。
現実と仮想世界の境目がなくなっていく話は目新しくはないが、疑似体験、空間創造の世界が2016年もより進化を遂げていくだろう。
ロードマップを描くにあたって何か直接ヒントにはならなかったが、どのような価値を創造できないといけないのか、考えるヒントになった。続きを読む投稿日:2016.04.05
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