ジェネリック――それは新薬と同じなのか
ジェレミー・A・グリーン(著)
,野中香方子(訳)
/みすず書房
作品情報
ジェネリック薬とは、先発薬と有効成分の化学構造が同じ医薬品のこと。先発薬の特許満了後に発売される。開発にかかる費用が少ないため、低価格で販売できるのが強みだ。ジェネリック薬は先発薬と同じ効き目があるとされるが、この「同じ」をめぐっては激しい論争があった。有効成分は同じだが、形や添加剤などが違っており、先発薬と「まったく同じ」ではない。それはどの程度重視すべきものなのか。同等性の根拠をどこにおけばよいのか。半世紀前はいかがわしい薬とみなされていたジェネリック薬が現在の地位を得るまでには、臨床、消費、政治、法律をめぐって様々な攻防があった。ジェネリックはきわめて社会的な薬といえる。〈ジェネリックは問題の種なのか、それとも解決策なのか――明らかにその両方だ〉。ジェネリックの誕生から社会に定着するまでの全体像を描いた本書は、ジェネリックの歴史をはじめて明らかにした書物として、高く評価されている。
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商品情報
- シリーズ
- ジェネリック――それは新薬と同じなのか
- 著者
- ジェレミー・A・グリーン, 野中香方子
- 出版社
- みすず書房
- 書籍発売日
- 2017.12.15
- Reader Store発売日
- 2018.03.15
- ファイルサイズ
- 2.4MB
- ページ数
- 488ページ
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この作品のレビュー
平均 3.3 (5件のレビュー)
-
私事だが、めったに医者にはかからない。先日、珍しく良性疾患で医者にかかった。そのクリニックの最寄りの薬局には初めて行ったので、簡単な問診票を書いた。あまり深く考えず「ジェネリック薬でもよいか」の問いに…「よい」に丸をした。当然、その後、渡されたのはジェネリックだったわけだが、薬の種類ごとに改めて確認されるのかと思っていたのでちょっと面喰った。いや、基本、ジェネリックでいいとは思っているけど、でもそれってほんとに薬ごとに考えなくていいのかな? そもそもジェネリックってどういうものだっけ・・・?
そんなこともあって、少々気になっていたこの本を読んでみた。
ジェネリックとは、先発医薬品の特許が切れた後に販売される、先発医薬品と同じ有効成分を用いた効き目が同等の薬である。有効成分がわかっているため、研究開発費が安く、開発期間も短い。したがって、価格も安い。有効成分を同量用いているが、添加剤は異なる場合がある。基本的には先発医薬品と同じ効果があるとされている。
ジェネリックとは「一般的」を指す言葉である。
本書の著者は、自身、医師でもあり、ジョンズ・ホプキンス大学で医学・医学史を教える教授でもある。訳者あとがきに記載された著者本人の言葉によれば、本書は「20世紀後半から21世紀初頭の米国における、ジェネリックの社会的、政治的、文化的歴史を記録し、二種の薬を同一と称することのリスクを検証しようとするものだ」とのこと。
ジェネリックが生まれた歴史を詳細にドラマチックに描いている。
前述の著者の言葉からすると、ジェネリックに反対しているようにも見えるが、基本的にはジェネリック代替は健康管理サービスを安く提供する点で評価でき、ジェネリックは先行医薬品と品質が同じだが安いという前提を信じているという。だが、「科学的に同質」だと言われるものが本当に同質なのかどうか、安易に結論に飛びつくべきではないとも言っている。構造のわずかな違い、添加剤のわずかな違い、製造工程の管理不行き届きなどが大きな違いを生み出すことはあり「うる」。
米国のジェネリックの歴史を本書で追ってみると、ジェネリックをめぐる攻防には、さまざまな勢力があったことが透けて見えてくる。先発医薬品を開発した大企業、ジェネリックを製造する会社、医療行政に携わる政府関係者、政治家。
初期には不心得なジェネリック製造会社も実際あったようで、小ずるく儲けようとした輩に対する警戒はなるほど必要ではあったろう。だが一方で、既得権益にがめつくしがみつこうとした勢力がなかったかといえばもちろんそんなことはない。
立場がどうであれ、善意の者が大半であったとしても、すべてであったわけではなかった。問題はそこをどうするかだったというところだろう。
ジェネリックの歴史を遡れば、誕生時点からそもそも混乱していた薬もあった。
覚えにくい名前の化合物は、市場に出るにあたって、一般市民にも覚えてもらいやすいように、語呂がよく簡潔な名前を与えられた。アセチルサリチル酸は、バイエル社によってアスピリンの名を与えられ、(R)-4-[1-ヒドロキシ-2-(メチルアミノ)エチル]ベンゼン-1,2-ジオールは、パーク・デービス社にアドレナリンと命名された。しかし、覚えやすすぎる商標は、一般名となり、つまりは普通名詞となってしまった。
ものによっては商標としての意味がなくなり、定義があいまいなものもあった。また、国によって呼び方の違う薬もある。
その後、幾度も名称を整理し、定義を明確にし、国際的な名称も統一しようという動きもあったが、これらはそう簡単な仕事ではなかった。
化合物の薬効は、ときに、構造のちょっとした違いで大きな違いが出る。安定性が増し、有効性が上がり、あるいは副作用が減る。元となる化合物があって、その構造を少しずつ変えていくといったことは薬剤開発でよく行われてきたことだ。
また、添加剤を変えて、薬の溶解しやすさや吸収しやすさ、滞在時間などを操作することで、薬効が大きく変わることもある。
厳密には、個々の薬、個々人で、おそらく「最適」は違う。
ジェネリックは元の薬とおおまかには「同じ」ものだろう。だがそれが「同じ」であることは、それほど自明ではない。
医療費は、個人のカネであると同時に皆のカネである。すべてが個人負担であるならば、個人の好きなように選ぶことも可能だろう。だが保険会社であれ、国であれ、皆のカネからの出資がある限り、そこから湯水のように使うわけにはいかない。ジェネリックが推奨されるのはそのためだ。
ならば皆が一斉にジェネリックにすれば、医療費も安価に抑えられるはずだ。
だがそこに、同じというけれど、本当に同じなのか?と思う消費者がいて、そしてまた先発医薬品の企業の思惑がある。
ジェネリック市場は徐々に大きくはなっていくのだろうが、一方では、一朝一夕では解きほぐせない過去の経緯の呪縛があるようにも見える。
全般にはアメリカの話なので、一律に日本に当てはまるのかよくわからない部分もあるが、現代医学の歴史や薬剤に関して、教わることの多い1冊だった。続きを読む投稿日:2018.02.05
何をもってジェネリックなのか。
新薬と「同じ」なのか。
何が「同じ」なのか。
「同じ」であれば代替できるのか。
ジェネリック医薬品の政治と科学について、様々な角度から、アメリカにおける歴史を記述。
…登場人物、機関の複雑さには辟易したけど、語られるドラマには熱中できた。
ジェネリックに限らないが、政治と科学のせめぎ合いでは、科学で絶対を説明できないところに、政治の論争が入り込む余地がある。
論争では、合理的な判断は多くの場合に最重要ではなく、参加者のイデオロギーが争われる。
この点、ジェネリックにおいては、製薬会社の利益と公共の安全性がせめぎ合う。
医薬品の在り方についても考えることができる、良い読書でした。続きを読む投稿日:2018.09.27
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