オープン・シティ
テジュ・コール(著)
,小磯洋光(訳)
/新潮クレスト・ブックス
作品情報
マンハッタンを日ごと彷徨する、若き精神科医。彼が街路で目にした風景は、屈託に満ちたナイジェリアでの幼い日々、ブリュッセルで移民たちに聞いた苦難の物語と共鳴しながら、時代や場所を超えた大きな物語を描き始める――。PEN/ヘミングウェイ賞ほか数々の賞に輝き「ゼーバルトの再来」と讃えられたデビュー長篇。
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商品情報
- シリーズ
- オープン・シティ
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮クレスト・ブックス
- 書籍発売日
- 2017.07.31
- Reader Store発売日
- 2017.09.08
- ファイルサイズ
- 1.4MB
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この作品のレビュー
平均 3.6 (10件のレビュー)
-
人がある街を住処とするとはどういうことだろうか。
特に当てがあるでもなく街をそぞろ歩くにつれ、徐々にわいてくる愛着というものがある。
同じ道を歩いていても、どこかに発見があるものだ。なめるように歩くう…ち、馴染んだはずの街角に、ふと新しい顔が覗く。昨日は咲いていなかった花の香りがするかもしれない。新しく引っ越してきた人の気配がするかもしれない。
旅先で歩くのも物珍しくて楽しいけれど、住み慣れた街の散歩には、独特の魅力がある。
日常としての散歩のリズムは、思考を遊ばせるのにも最適だ。集中して、論理立てて考えるのではなく、ふと思い浮かぶ、忘れかけていた事柄に再会するのもまた、散歩の楽しみともいえるだろう。
主人公はニューヨークに住む精神科医である。
ふとしたきっかけで、彼は黄昏時の散歩を日課とするようになる。
逍遥しながらあれやこれやと思いを馳せる。
故郷のこと、家族のこと、友人のこと、過去の恋人のこと。
それらがニューヨークの景色と混ざり合い、心象風景を描き出す。
ここに描かれる詳細なニューヨークは、街をよく知る人にはおそらくその通りの姿なのだろう。一方で、どこの街であってもよいような無国籍な雰囲気も漂う。
それは主人公、ひいては著者自身がナイジェリア出身であることにもよるのかもしれない。
彼がもしも東京を選び、東京に住んでいたならば、やはり同じようにそぞろ歩き、あれこれと想起していたのではないだろうか。
表題の「オープン・シティ」には2つの意味があるという。
1つは、「開かれている」「オープン・マインド」といった意味合い。
もう1つは、「無防備都市」「非武装都市」といった意味合い。非武装宣言することで侵略軍に降伏して破壊を免れた都市を指す。
舞台となっているニューヨークは9.11を経験した後である。その街に対して「無防備都市」というのはいささか皮肉なようにも思うのだが、このタイトルが読者に思い浮かべさせることも含めて、著者の思惑なのかもしれない。
主な舞台はニューヨークではあるが、そこにはとどまらない。ブリュッセルやナイジェリアもまた描かれる。
主人公はただ歩いているばかりではなく、さまざまな人々とも出会い、交流する。
国をまたいで移動する彼の姿はコスモポリタン的でもある。彼が交わる人の中には、人種差別的な経験をした人もある。
人々は移動し、世界は揺れ動く。多民族都市に住む、多くの孤独な人々。伝統もしがらみも彼らを縛らない。けれども彼らが得る自由は、彼らが夢見た自由とはどこか異なる、ざらつきを伴うものであるようだ。
読み進めながら、主人公がニューヨークに住むナイジェリア人ということで、彼が「虐げられる側」の人であると知らず知らずのうちに思い込んでいた。
けれどもことはそう単純ではない。
もちろん、彼は医師でありエリートであるのだが、それだけではない。終盤で、彼は昔の悪事について糾弾される。そして物語は不穏な幕切れを迎える。
ラストの解釈はなかなか難しいが、彼が過去に犯した悪事は、MeToo運動を思い起こさせるものであり、現代社会の歪みを映しているようでもある。
巻末の解説によれば、著者は写真家でもあるそうで、そういわれると全体に映像的な印象も受ける。ニューヨークの街角の風景もそのまま映画になりそうである。続きを読む投稿日:2020.06.25
勾留施設にいた若者のアメリカに来た経緯の話が壮絶だった。自分にとって現実的ではないけれど、彼にとっては現実だ。世界は広い。
出てくる人物の思慮深さに自分はあまりに幼稚だと思った。
投稿日:2021.06.04
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