堀辰雄/福永武彦/中村真一郎
堀辰雄(著)
,福永武彦(著)
,中村真一郎(著)
/河出書房新社
作品情報
西欧文学を学び、日本の古典に赴いた知の作家たち。豊かな言葉をもって、巧みな手法と仕掛けで物語を紡ぐ。堀辰雄「かげろうの日記」、福永武彦「深淵」、中村真一郎「雲のゆき来」他。
[ぼくが選んだ訳]
フランス文学を学んだ者がその富を創作に応用する。しかし彼らはフランス文学を学んだのではなく文学の普遍を学んだのだ。だから日本の古典を自在に用い、現代の日本を舞台にした巧緻な中篇を作り、また江戸期と今の京都を行き来する国際的な雰囲気の名作を書くことができた。――池澤夏樹
解説=池澤夏樹
年譜=鈴木和子
月報=堀江敏幸、島本理生
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この作品のレビュー
平均 4.2 (7件のレビュー)
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堀辰雄の「かげろうの日記」と「ほととぎす」。
ここにはヨーロッパ仕込みの見事な「平安文学の心理小説化」がある。前回配本の森鴎外からもう一歩進んでいる?
平安貴族の生活が生き生きと描写されて、物忌みや…、待っていることしか出来ない貴族女性の立場、子供のような道綱(藤原道綱)の振る舞い、揺れ動きながらたまに男を手玉にとる道綱母の行動など、なかなか興味深い。
道綱も成人したころに、夫は他の女に産ませた「撫子」という少女を連れてくる。次第に情が移ってきちんと育て始めたころに、頭の君が撫子を求めてひつこいぐらいに道綱に連絡する。「まだほんの子供ですから」と「いや一目だけでも」何度も何度も同じやりとりをする中で、道綱母の中に女が目覚める。原典にこんな場面があるんだろうか?
そんな気持ちを知ってか知らずか、あれほど通いつめていた頭の君が来なくなり、ついには他の妻を盗んでどこぞへこっそりと姿をくらましたという噂を聞く。「これは自分のせいだ」道綱母は確信する。ーーこの辺りは原典を確かめるまでもない、完全に堀辰雄の創作だ。1939年(昭和14年)の発表。中村真一郎、福永武彦、そして加藤周一ら東大の若き知性が、堀辰雄を慕って軽井沢を尋ねるのはこの後のことである。
福永武彦の「深淵」。
信仰篤い処女の35歳女性と、放火殺人犯との出逢いと2人が堕ちてゆく様を描く。1956年刊行。この同じ年に「古事記」の現代語訳も出している。そのせいか、端正でおとなしい文章というイメージとは違う、荒々しい描写が続く。
ずっと、聖女のように周りから見られ本人もそう努力してきた女性の「隠れた欲望」が露わになるのは堀辰雄「ほととぎす」と同じ。現代小説なので、非常に精微に描かれる。
「雲のゆき来」中村真一郎
江戸時代の漢詩人元政上人の生涯と作品を辿りながら、若い国際女優の楊(ヤン)とその父を巡る旅をすることになった「私」の小説である。
「私」は、なぜ藤原惺窩や林羅山や伊藤仁斎や石川丈山ではなく、ほぼ無名に近い元政上人に心惹かれたのか。当代の「世界」である中国を日本人でありながら、自らのものにし、「異なる伝統の調和を実現」し「美しい精神の舞踏」を舞った知識人として、自分を見たということが一つ。もう一つは中村自身の最初の妻との「私的体験」の合わせ鏡があったのではと池澤夏樹は推測している。
私はこの作品に、もう一つの「合わせ鏡」を見た。「うまく作られた小説家」である中村真一郎と、「うまく作られた評論家」である加藤周一という合わせ鏡。不幸を描く小説家、展望を語る評論家。しかし、世界を観るレンズは、この小説を読んで思うが、同じ精度を持っていた。加藤周一が当初目指した小説は、このような内容だったのではないか?しかし、加藤は遂にこんなに「うまく」は小説を書けなかった。続きを読む投稿日:2017.12.23
230913*読了
この時代の作家さんにも全然詳しくないなぁ。
この3名の名前を見ても代表作も何も想起しなかった。
堀辰雄さんの収録作は「蜻蛉日記」をアレンジしたもの二作。
ただ訳すわけじゃなくて、…堀さんなりの表現が入ってるというのは、なかなか気づけないのだけれど。
福永武彦さんが池澤夏樹さんのお父さんとは知らなんだ。それも解説にひっそりと書いてあって、驚いた。文学者の子は文学者になるのだなぁ。これぞ血、遺伝。ただ、生前そこまで交流はなかったそう。池澤さんが幼い時に離婚をされている。
福永武彦さんの小説は妙に怖くて、惹きつけられる。
信仰深く病気に臥せっていて世を知らない女性と、世を捨てて己の欲望のままに生きる男性の話。
この世が終わる、ドッペルゲンガー、そんな妄信の中に生きる妻の話。
それが本当に思い込みだったのかは分からぬまま知り絶える姉とその夫、そして妹との交流を通したある町の話。
どれも救いがなくて、絶望を感じる。そこが魅力的なのだよなぁ。
中村真一郎さんの収録作は実話なのだと思っていたのだけれど違うのかしら。
緩急の付け方が巧みすぎて、本当にすごい。
前半は論文のように元政上人について語られているのに、急にとある闇を抱えた女優と京都行きが決まり、そこからの激しさったら。
父親を憎む女優との心の交流。京都滞在中の様子はまるで映画を観ているよう。
そして突然の悲劇。そこからまた、緩やかに物語は終焉へ。
今、2023年の60〜80年ほど前はこんな小説が生み出されていた。
そう思うと人間の脳って進化してるの?退化してるの?
こんな小説をたくさんの人が読む世の中は高尚な気がしてしまう。続きを読む投稿日:2023.09.13
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