殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件―
清水潔(著)
/新潮文庫
この作品のレビュー
平均 4.5 (383件のレビュー)
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ごめんなさいが言えなくてどうするの
1979年から96年にかけて栃木県足利市から群馬県太田市の半径20km圏内という狭い範囲で5件の幼女誘拐・殺害事件が起きていた。その中で唯一記憶に残っていたのはいわゆる足利事件、菅家利和さんが冤罪で逮…捕され2009年に17年半ぶりに釈放されたところだけだ。菅家さんは90年5月に起こった松田真美ちゃん殺害事件の犯人として91年12月に逮捕され、自白を強要させられた。また当時導入されたばかりのDNA型判定ー後に清水氏の取材で証拠能力が無かったことが判明したーを証拠として1993年に宇都宮地裁は菅家さんに無期懲役を言い渡した。しかし、1996年7月に横山ゆかりちゃん誘拐事件が発生したが警察は事件の関連性に気がつかなかった。警察にとっては足利事件は解決済みでそれ以前の事件も起訴はできなかったが菅家さんが犯人だというストーリーが出来上がっていたからだ。
日テレの事件記者清水氏がこの横山ゆかりちゃん事件に注目したのはテレビ番組で未解決事件を取り上げることになるのがきっかけだった。事件の事前リサーチを始めるとすぐに5件の類似の事件が浮かび上がった。しかも足利事件は解決済みだ。警察も認めていない、マスコミも全く取り上げていない幼女連続誘拐・殺害事件。本当にそんなことがあるのか?菅家さんは冤罪を訴えているが、自白がありDNA型判定は1000人に1.2人の割合で一致すると報道されていた。リサーチ結果は菅家さんが犯人だと示している。しかし、どうしても違和感が残る。『やはりおかしい。おかしいんだよ。何かが』
もし、真犯人が他にいたら?もし6人目の被害者が出てしまったら?疑念を持ちつつ調べていくとある男の影が浮かび上がって来た。解決済みの事件を追ってどうするのだ?しかし。『記者が現場に行かず、取材もせず、もたもた考えていて何になる。飛び込むのだ。現場へ。』
清水氏は桶川ストーカー事件では取材の結果真犯人を警察より早く突き止め警察に情報を提供していた。桶川事件では警察はストーカーの相談を受け、告訴状を受け取ったのにも関わらず、捜査をせず猪野詩織さんは殺害されてしまった。警察は「市民を見殺しにした」という自分たちのミスを隠すため意図的な情報操作を行い、裏でマスコミにリークをし普通の女子大生の猪野さんをあたかも「性風俗店の店長と付き合って殺されたブランド好きの風俗嬢女子大生」と見せかけ被害者に落ち度があるように誘導した。そして遺族に告訴状を取り下げさせようとさせ、失敗すると告訴状を被害届に改ざんした。清水氏の情報提供にも関わらず警察は実行犯は逮捕したがストーカー男小松を事件から排除し、小松の兄を真犯人とするストーリーをでっち上げた。全ては自分たちのミスを隠蔽するため。
足利事件でも同じ構図が現れる。菅家さんは無職で、市内の隠れ家からロリコンビデオが多数見つかったという情報をリークしたが、隠れ家は仕事の都合で時々寝泊まりするのに借りたものだし、菅家さんが借りたビデオは巨乳ものだった。女の子を連れた河原におりていく男を見たという目撃者の証言は重要でないと片付けられー清水氏はここから真犯人にたどり着き、その情報は既に警察に提供されているー状況証拠はトリミングされていた。菅家さんが自供させられてしまったのはDNA型判定という動かぬ証拠があると言うことからだったが、この判定の不確かさが次々に現れていく。それでも警察は再鑑定を拒み、一方で遺族からの証拠品(真美ちゃんのシャツ)の返還請求も拒み続ける。これは菅家さんの無実が確定したあともそうなのだ。
真犯人は警察もおそらくわかっている。それでも警察がDNA型判定に誤りは無かったというストーリーに固執し続ける。なぜか?ここにはもう一つの事件が隠されていた。足利事件を判例としてDNA型判定の証拠能力を根拠とした飯塚事件は2006年に最高裁で死刑が確定し2008年に執行されていた。もしこれが冤罪だったとしたら?
清水氏の怒りは何よりも犯人に向けられており、読んでると怒りが伝わってくる。
「おまえがどこのどいつかは残念だが今は書けない。だが、お前の存在だけはここに書き残しておくから。いいか、逃げ切れるなどと思うなよ。」
警察や検察、裁判所、そして警察発表を鵜呑みにするマスコミにもその怒りは向けられる。これはレビューでは伝えきれないところだ。
菅家さんとそして恐らく警察や検察を含む多くの関係者を救ったのは真美ちゃんの母親だっただろう。「菅家さん。あえて『さん』をつけさせて頂きますが、菅家さんが無罪なら、早く軌道修正をして欲しい。捜査が間違っていたんであれば、ちゃんと謝るべきです。誰が考えたっておかしいでしょう」「ごめんなさいが言えなくてどうするの」続きを読む投稿日:2016.12.23
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警察の闇。マスコミの闇。社会の闇。日本に渦巻く闇が体験したことの無いほどの濃さで表れているからこそ恐ろしく、最後まで目が離せなかった。
著者の叫びも虚しくこの本の話題は去ってしまった。だからまた何度…も同じことを繰り返し、被害者や遺族の苦しみを増産させ続けるのだろうと日本社会の在り方について考えさせられる本だった。続きを読む投稿日:2024.04.06
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