カラマーゾフの兄弟(中)
ドストエフスキー(著)
,原卓也(訳)
/新潮文庫
作品情報
19世紀中期、価値観の変動が激しく、無神論が横行する混乱期のロシア社会の中で、アリョーシャの精神的支柱となっていたゾシマ長老が死去する。その直後、遺産相続と、共通の愛人グルーシェニカをめぐる父フョードルと長兄ドミートリイとの醜悪な争いのうちに、謎のフョードル殺害事件が発生し、ドミートリイは、父親殺しの嫌疑で尋問され、容疑者として連行される。
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商品情報
- シリーズ
- カラマーゾフの兄弟
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2004.01.01
- Reader Store発売日
- 2016.07.29
- ファイルサイズ
- 1.2MB
- シリーズ情報
- 既刊3巻
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この作品のレビュー
平均 4.2 (148件のレビュー)
-
ネタバレ有かも…
ご注意ください
さて中巻は見習い修道僧であり、愛されキャラ三男アリョーシャがお世話になっている修道院の長老であるゾシマが瀕死状態になる
ここでゾシマ長老の過去の回想(伝記)及び法…話と説教など…(か、かなり長い)
今でこそアリョーシャをはじめ、民衆から尊敬されるゾシマ長老(その民衆らの信仰ぶりは遠方からはるばるゾシマ長老に一目会いにくるなど、上巻たっぷり記載されていた)だが、若い頃は結構平凡で普通の青少年だ
ポイントとなるエピソードは3つ(個人的見解です)
■エピソード1
(ん?スターウォーズ⁉︎)
お兄さんの精神世界の変化
ゾシマ長老は精神的にアリョーシャと自分の兄がそっくりだと言う
17歳まで全く神を信じていなかった兄、無口で癇が強く、孤立していた
しかし結核を患い余命半年から1年くらいから教会へ行くようになり、精神的にすっかり変わる
思いやり、感謝、幸福の喜びを知り、死ぬ直前まで喜びで満たされていた
■エピソード2
ペテルブルクの士官学校にて
善良だったが素行は悪く、若さゆえに享楽の生活にのめり込むゾシマ君(笑)
そんな折、若く美しい令嬢に想いを寄せるが、後に彼女が他の男性と結婚したことを知る
うぬぼれに目がくらんで、気づかなかったことにショックを受けるゾシマ君
憎悪をおぼえ、復讐心、憤り、見苦しい愚かな人間になりさがる
そして恋敵に決闘を申込む
自分は堕ちるところまで堕ちてしまったのだ!
しかし決闘前日にある宿命的なことが起こる
この時、亡き兄を思い出しの自分の罪深さに気づき、決闘を取り下げてもらうようプライドを捨てて頭を下げるのだ
周りからは大ブーイング
全てを受入れ、深く反省し、退役
修道院へ入る決意をする
■エピソード3
さらにこのエピソードは興味深い
新たに出会った年輩の人物
それは有力な地位の皆に尊敬される裕福な慈善家
この50歳くらいの紳士はゾシマ君(この頃もまだ若僧)を信頼し、何度も話すうちにお互いに信頼関係ができ、年の離れた親友となる
実は、彼は14年前、フラれた腹いせに女性を殺害した殺人者であり、それを誰かに打ち明けたかったのだ
その白羽の矢が立ったのが信頼関係を築けたゾシマ君
そして今度はこの罪の告白を愛する家族をはじめ、皆にもしようとするのだが、これがなかなかいざとなるとできない
ゾシマ君は、告白すべきだと説得を続ける
この立派な紳士の罪を泣きながら聖母マリヤに祈るゾシマ
しかしこの紳士はだんだんゾシマに会うたび「まだ告白していないのか」というゾシマの無言のプレッシャーを勝手に感じ精神的に追い詰められていくのだ
結局この紳士は勇気を出して告白するが、ゾシマを激しく憎むようになる
「今やあの男(ゾシマ)だけが、俺を束縛してわたしを裁いている…」
そう、ゾシマを殺そうとするほど激しく憎むようになる
紳士は精神錯乱し、死んでしまう
誰もが彼の罪を信じず、亡くなったことを嘆き、若僧ゾシマを白い目でみるように
しかしながらやはり真実を信じる人が増える
そうすると今後は好奇心から、例の紳士のことをあれころゾシマに尋ねだす始末
彼は一切を沈黙した
「人間は正しい人の堕落と恥辱を好むものだ」と納得の上、ゾシマはこのエピソードが、自分の道を主が思し召してくれるのを強く感じるのだ
そうこれらのエピソードからゾシマは修道僧となるのだ
(教訓としては傲慢さを捨て、常に謙虚であれ…かな?)
エピソード後は、ゾシマ長老の長い説法
修道僧とは、修道僧の偉大なる仕事とはから始まり、精神的な人の対等とは、また祈りと愛の大切さ、地獄の考察など…が長々と続く
ここは上巻のイワンの「大審問」に対する場面では!?
イワンとゾシマ長老の正反対(しかしながらそう簡単ではないのだが)の話しを聞いたアリョーシャである(この場面は宗教色が強く、しっかりと理解するのは難しかった)
これほど人々に尊敬され、愛されていたゾシマ長老の悲しい死
ここできわめて異様で不安な思いがけない事態が起こる
ゾシマ長老の棺から腐臭が立ち上り始め、それがあっという間に強烈になっていったのだ
当然不信者たち(修道院内にも派閥があるのだ)は大喜びしたが、信者の中にも興奮し喜ぶものも多数いた
これはまさに「人々は心正しき者の堕落と恥辱を好む」ということなのだ
そしてこの出来事でアリョーシャまでが動揺してしまう
この物語の語り手である「わたし」に言わせると
アリョーシャはゾシマ長老の奇蹟が起こらなかったことに対する失望ではなく、「正義」が起こらなかったことに対する動揺だという
全世界のだれよりも高くたたえられるべき人が、おとしめられ辱められたのだ
彼よりはるか下に位する軽薄で嘲笑的な、悪意にみちた愚弄にさらされたことを、悔辱と憤りで耐えられなかった
無垢なアリョーシャの心を苦しめた
そのアリョーシャをラキーチン(同じ修道院の神学生、なかなかいけ好かない奴)がグルーシェニカ(ある老商人妾であり、おとんフョードルと長男ドミートリィが取り合っている女性)のところへ連れていく(連れていくその理由が最低なのだが省略)
ここでグルーシェニカがアリョーシャに出会ったことによる二人に相乗効果が発揮され、彼らに変化が起こる
グルーシェニカがアリョーシャを憐れむことで、アリョーシャはグルーシェニカの愛に満ちた魂を見いだす
善が悪に染まるのはハイウッド映画でよくあるが、ここはアリョーシャの勝ち!
グルーシェニカが精神が、心が開花される
これまた不思議な因縁である
そしてアリョーシャも心が救われる
その後アリョーシャは僧庵に戻り不思議な神秘的な体験をする
大地をに接吻し、歓喜し、揺るぎなく確固とした何かがアリョーシャの魂の中に下りてくるのを感じたのだ
アリョーシャはこの体験をきっかけに立派な精神的な意味で修道僧になったのではなかろうか
さて
グルーシェニカ(ある老商人妾であり、おとんフョードルと長男ドミートリィが取り合っている女性)には過去に愛する男性がいた
彼は他の女性と結婚してしまったが、奥さんが亡くなり、グルーシェニカの元へやってくることに
気を高ぶらせて彼との再会を待っている
グルーシェニカにしてみれば、老商人もフョードルもドミートリィもぶっちゃけどうでもいい存在
彼女は傲慢、利殖の才にたけ、ケチで金儲けにしわい性悪女なのである
一方長男ドミートリィ
そんなグルーシェニカに身を焦がし、彼女との新しい生活を勝手に夢見てお金の調達が必要なんだ!とまたも思い込む
おとんだけをライバルだと思い込み、お金させあればうまくいくと思い込み、東奔西走し出すことに
先走りと思い込みの激しさがもう何とも痛々しい
相変わらずすぐカッカするし、口は達者(方向性が間違っているが)、調子が良すぎて破天荒
雲行きが怪しくなってくる
ある村の宿場で、グルーシェニカ、グルーシェニカの元カレ、ドミートリィ…他面々がそろう
ドミートリィはヤケになっており、最後の豪遊!とたくさんのシャンパンと食材をじゃんじゃん運んでやってくる
元カレとドミートリィらのやり取りを通じて、なんとまさかのグルーシェニカの心変わりが起こる!
現実の元カレの態度や考えを見てガッカリしたのだ(かつらだったしね(笑))
そこで一気にドミートリィへの愛へ目覚める(あれぇれれぇ…という展開)
ここからお決まりの派手な酒盛りのどんちゃん騒ぎ♪
とジェットコースターのような展開だが、さらにさらにそこへ突撃隊の如く警察署等らのお出まし
そうドミートリィはおとんのフョードルの殺害事件の容疑者であると告げられる
ドミートリィは父親殺しの無実を訴え続けるが、最終的に刑を受け入れようとする
「僕はこれまでの一生を通じて毎日、この胸を打っては、真人間になることを誓いながら、毎日相変わらず卑劣な行為をやってきました。僕のような人間には打撃が、運命の一撃が必要なのです。僕はこの告発と世間に対する恥辱との苦しみを甘んじて受け、苦悩によって汚れをおとしてみせます!」と告白する
こういうセリフをドミートリイに言わせるあたりがドストエフスキーだ
ああ、フョードルがとうとう死んでしまった
彼こそまさにカラマーゾフの象徴なのに…
おとんフョードルと長男ドミートリイは結構似ている
しかし圧倒的にフョードルのが「カラマーゾフ的」で最高に笑わせてくれた
格が違うし、「カラマーゾフ的」なキャラに何の迷いもなく、余裕しゃくしゃくだ
その点、長男ドミートリイはまだ「カラマーゾフ的」なものになり切れない迷いや善良さや青さがある
というわけで個人的にとても淋しい
ちなみにおとんフョードル殺しについては、長男ドミートリィに容疑がかけられているが、ドミートリィはスメルジャコフを疑っている
スメルジャコフというのはフョードルおとんの私生児で、料理が上手いため、フョードルおとんは彼を召使いかつ料理人にして身近に置いていた
もっとも自分の子とは一切認めてもいないし、下手したらおとんのことだからそんなことさえも忘れているのではなかろうか…
このスメルジャコフというのはかなり歪んだ人間だ
人嫌いで寡黙、傲慢であらゆる人間を軽蔑しているかのようなふるまい、猫を縛り首にして葬式ごっごをするまさにサイコだ
しかし割と頭はキレるし、普段は無口だが、生意気さと屁理屈に関して口は達者
そして癲癇(てんかん)持ちである(あのおとんが心配するほどのなかなか重度の癲癇っぽい)
そう丁度フョードル殺害時間の前後くらいは、激しい癲癇の発作があったスメルジャコフであるが…!?!?!?
このスメルジャコフに対し激しい嫌悪感を持っているのが次男のイワン
思考の支離滅裂さ、というよりむしろ思考の落ち着きのなさにおどろかされ、願望の非理論性や混乱におどろかされる
いやらしい狎れなれしさにも嫌悪に感じていた(同じくつかみどころのない不気味な存在感で私も苦手)
中巻まとめ
ゾシマ長老の棺から腐敗臭がすることによる騒ぎ、ここで起こる人々の深層心理
あれほど神聖な人間にこのようなことが起きると人はどうなるのか
人の心の奥底の醜い部分を上手に引き出し描いている
こういう人間の深い心情を描くのがドストエフスキーの唸らせるところである
また逆に人は悪いところばかりじゃない
悪いなりに良くもなるし、悪い中にも良い心がある
ドミートリイやグルーシェニカに見え隠れする部分がそれだ
全てが善、全てが悪なんていうのはない
そんな人の複雑で奥深い心情をいつも見事に描いてくれる
下巻はどういう展開となり物語は完結するのだろうか…
ドキドキワクワク…続きを読む投稿日:2021.01.27
このレビューはネタバレを含みます
いよいよ中巻。
レビューの続きを読む
この巻で特に印象的だったのは、泥棒と卑劣漢の対比に表されているように、高潔たろうとすること、名誉、恥辱なのではないかと思う。あるべき姿、ありたい姿が自分の中で明確になっていないとこう…いった考えや感情は湧いて来ないと思うので、やはりこの本の登場人物たち、特にミーチャは自分をしっかり持っている人なのだと思う。
私自身は、高潔、名誉、恥辱という言葉は普段は使わないものの、誠実でありたいとは思うし、自分の信念に反することをしたら落ち込むし、人からの評価を気にするし、、ともっと身近な言葉で置き換えて行くと、登場人物たちの考えや気持ちが少し身近に感じられた。
加えて、赦しという言葉も印象的だった。他人に対してどれだけ寛容になり、愛することが出来るか。『カラマーゾフの兄弟』全体を通して、さまざまな対象に対しての愛が語られていると思うが、赦しも愛の一つの形だと思う。
続きを読む投稿日:2024.03.09
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