この作品のレビュー
平均 3.8 (6件のレビュー)
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本書はミシェル・フーコーによるコレージュ・ド・フランス開講講演(1970年12月2日)を収録したものである。
フーコーにとっては彼の関心が1960年代の「知の考古学」から1970年代の「権力分析」へ転…換の画期となった講演であるという。
この講演記録はそれほど長くないので割とすぐに読めるのだが、フーコーの説明がちょっと難しいのと切れ目なく次の議論に入って行ったりしているので多少分かりづらい部分もあるのだが、懇切丁寧な解説があるので読者にとって理解しやすいものとなっている。
人が話す言葉(フーコーは「言説」という)についてフーコーはある仮説を立てる。
「あらゆる社会において、言説の産出は、いくつかの手続きによって、すなわち、言説の力と危険を払いのけ、言説の偶然的な出来事を統御し、言説の重々しく恐るべき物質性を巧みにかわすことをその役割とするいくつかの手続きによって、管理され、選別され、組織化され、再配分されるのだ」
つまりわれわれが発する言葉は全く自由に話されているわけではなく、「いくつかの手続きによって、管理され、選別され、組織化され、再配分され」ているということである。
そして、西洋社会では「排除」「制限」「占有」の三つの手続きが言説の産出を管理しているという。
「排除」では、言説を禁止する「禁忌」があり、また理性と狂気を区別した上で「狂気」を排除する「分割と廃棄」があり、さらに知への意志に基づき真と偽を分割する「真理への意思」があるという。この中でフーコーは歴史的に形作られ、制度的に支えられ継続し言説に対し圧力を加えている「真理への意志」を最も注目し今後の研究対象になっていく。
「排除」が外的手続きであるのに対し、内的手続きとしての「制限」では、「注釈」「作者」「研究分野」の原理が言説の産出を抑え矮小化し拘束する機能を果たしているという。
「注釈」の原理は言説にレヴェルの差を設定し一方を他方の反復とみなし語られる内容の新しさを制御するといい、「作者」の原理は「作者」とそれ以外を設定することで意味や統一性や整合性の起源を問うものとして区別しているという。「研究分野」の原理は先の二者とは対立するもので、他者には開かれているものだがその研究分野の要請には従わない言説は許容されず打ち捨てられるため、やはり言説の産出の限界を定めるものだという。
「占有」では、語る主体が所持すべき資格、その言説に伴うべき身振りを定める「儀式」のシステム、それから言説の産出を自分たちの秘密として保持したまま行う「言説結社」のシステム、また、語る主体をある種のタイプの言説に従属させ他のタイプの言説を禁じるとともに特定のグループに従属させることで属する人々と他を区別するという「二重の従属化」を行う「教説」のシステム、さらに教育が「占有」を維持し変更を加えるシステムとなっていて、これらが互いに結びつき絡まっているという。
そしてフーコーは、これら「排除」「制限」「占有」は西洋哲学思考である「創設的主体」や「根源的経験」や「普遍的媒介」を通じ強化してきたのではないかという疑念を表明する。
現実性における暴力的で非連続的で好戦的で無秩序な言説を恐れを抱き、取り除くために哲学が一定の役割を果たしてきたのではとしている。
このような言説に対する恐れを、「その条件、その作用、その諸効果に関して」分析することが今後の彼の研究テーマだと彼は宣言するのである。
この分析における彼の取組みとして次の4つの原則が示されている。
まず第一は「逆転」の原則で一見ポジティヴに見える役割であっても排除や制限などネガティヴな作用を認めること、第二は「非連続性」の原則で連続的なものの中で沈黙した潜在的言説を非連続的な系列のもとに探すことを禁じること、第三は「種別性」の原則で言説を世界のあらかじめの意味の中に解消せずに自らに固有の規則性を持つ種別的な出来事として扱うこと、第四は「外在性」の原則で言説から内部の隠された核に向かうのではなく言説の外的な可能性の条件に向かうこととする、という4つの原則である。
そしてこの4つの原則に従うということは、伝統的な思想史とは対立するもので、現代の歴史学と共鳴するものであるとしている。
「思想史のなかに生じさせようとしているほんのわずかなずれのうちに、すなわち、言説の背後にあるかもしれなぬ表象を扱うのではなく、言説の出来事の規則的で非連続的な系列として扱うことのうちに、小さな(そしておそらく耐え難い)一つの仕掛けのようなものが認められはしまいかと私は考えています。すなわち、偶然性、非連続なもの、物質性を、思考の根底そのものに導入することを可能にする一つの仕掛けのようなものが、そこに認められはしまいか、と。」
最後にフーコーは今後の分析について二つの総体に従って配置されるという。
「批判的」総体では逆転の原則に従い、排除、制限、占有といった言説の産出を管理するシステムを分析することとし、とりわけ真理への意思を当面のテーマにするとしている。
「系譜学的」総体では言説を管理する手続きがどのように形成されたのかを明らかにすることとし、とりわけセクシュアリティや遺伝などにかかわる言説を扱うとしている。
そしてこの二者は互いに支えあい補うものであるとし、言説の産出というポジティヴな効果と言説に対して及ぼされるネガティヴな作用とを、互いに不可分のものとして明るみにだすことが今後の仕事であるとしている。
その後の彼の研究成果を辿ればおおむねこの宣言通りになっていると思われ、この講演からは彼の新たな船出に際しての高揚感も感じられる。
20世紀の世界を代表する偉大なる知の巨人の決意表明を聴けたようでなかなか良かったと思う。
またフーコーの仕事を読んでみたい。続きを読む投稿日:2020.10.11
この本に限っては、上記星三つの評価は本の評価では全くなく、当方の能力を超えていて理解が進まなかったため、5分の3理解できていればいいなあ、という個人の希望的評価。分かる人が読めばおそらく6つ、7つ星な…のだろうと思う。コレージュ・ド・フランスの講義だから当然だが、読み手である私の能力不足がこれでもかと明らかになる読書だった。加えてやはり、ダイレクトに日本語にならない語彙が多いように見え、たとえば主題になっているdiscoursと「言説」という日本語から受ける印象と範囲が、個人的には異なっていたりして、文章を多少離れた位置から眺めつつ読み進めたという印象。
本筋ではないが面白いと思ったのは、「算術は等しさの関係を教えるから、民主的な都市のために役立ちうる。一方で寡頭制においては、不平等の中での釣り合いを明示する幾何学だけが教えられるべきだ」というギリシアの古い原則。なるほど。
もう一つは、前人未到の外部の空間において真なることを語ること、について。科学の世界で真なることを語っても(ここではメンデルの例が挙がっている)、当時の生物学的言説が従っていたのは、メンデルが従っていた規則ではなかった。メンデルの命題が正しいものとして現れるためには、、生物学において尺度が完全に変化し、対象のまったく新しい見取り図が展開されるようになる必要があった、という点。同時代にまったく新しい概念が理解されるためには、その時代の人びとが持ち、従う旧来の尺度の変化が必要だということだ。
次元はまったく違うけれど、フーコーの他のディスクールをしっかり理解し、その中に身を置かねば、この本に収められたディスクールもきちんと理解するのは難しい。勉強しよう。続きを読む投稿日:2024.02.11
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