日本原爆開発秘録
保阪正康(著)
/新潮文庫
作品情報
戦時下で秘密裡に進められていた「ニ号研究」「F号研究」という日本の原爆製造計画。戦局の挽回を期し、軍部が命じて科学者の叡智を集めた研究の全貌とは……。昭和史研究の第一人者が、膨大な資料と関係者への貴重なインタビューをもとに、戦後、原発立国へと舵を切った日本の「原子力前史」を繙き、現代との因果を詳らかにする。『日本の原爆─その開発と挫折の道程』改題。
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- 日本原爆開発秘録
- 著者
- 保阪正康
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2015.05.01
- Reader Store発売日
- 2015.10.23
- ファイルサイズ
- 1.8MB
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 3.7 (9件のレビュー)
-
物理学者のレトリック
マンハッタン計画の元となったウラニウムに関する諮問委員会がアインシュタインの申し出を受けたルーズベルト大統領により作られたのが1939年10月、ドイツがポーランドに侵攻したのが9月1日で第二次大戦は既…に始まっていたことになる。ウランに中性子をぶつけると核分裂が起こることが実験的に確認されたのが1938年12月であり、まだ1年も経っておらずルーズベルトがつけた予算はわずか6千ドルだった。
原爆を開発しているドイツに対抗してマンハッタン計画がスタートしたのが1941年12月6日、真珠湾攻撃の前日であった。それから最初の原爆実験が行われた1945年7月16日まではわずか3年半。そして1941年の開戦前の日本には原子物理学の新しいニュースは入ってきており開戦半年後の1942年7月には日本でもウラン爆弾=原爆開発が可能かという検討が始まった。しかしこの時の結論は日本だけでなくアメリカも無理だろうということだった。
軍部が「マッチ箱ひとつで大都市や航空母艦が吹き飛ぶ」新型爆弾に望みを託し始めるのがサイパン陥落後の1944年7月以降でこれは国民の中でも噂として流布したらしい。「神風」は吹かないのだが。ディテールは違うが宇宙戦艦ヤマトの世界だねこれは。
日本の原爆開発計画は先の検討とは矛盾するが1941年4月に陸軍が理研に依頼し「ニ号研究」の仁科芳雄が原理的には可能と言う意味の回答をしたことがきっかけでプロジェクトが発足している。理研の仁科研究室と言えば湯川秀樹、朝永振一郎を始めとする錚々たる研究員を擁する研究者の楽園だった。しかし理論物理学者中心で工学よりでは無い理研に対し原爆製造に最大12万5千人の労働力を突っ込んだアメリカと比べるとその差は余りにも大きく、アメリカにも出来ないと日本の研究者が見誤っていたことになる。
なかなかわかりにくいのだが出来ないと思いつつ研究者としてはアメリカに負けたくないと言う想い、研究者として戦争に勝つためにどう協力するのかと言う想い、また表立っては軍事に協力しながら実際には潤沢な研究費を捻出し理論研究に勤しむなどいくつもの立場が入れ替わりでてきている。ある大学教授は計画に関わり身分が保障された折には「科学で国に奉公できるようになったうれしいことです」と言い、戦後は「科学は平和を愛する人のために有るのです」と立場を変えている。戦後の「原子力でアジアの平和に貢献する」と言う言い分は大東亜共栄圏のレトリックと同じだというのが著者の指摘である。
原爆の悲惨さを眼にした物理学者達が反原爆に傾いたのは当然理解できるが、日本の物理学者達は原爆開発が出来なかったことにより救われたところもあるのだろう。実態としては実験材料のウランもまともな実験装置も用意できずアメリカとの差はどうあがいても埋まらなかったのだが。そして原子力の平和利用を謳いながらもより簡単に原爆の原料となるプルトニウムを原発の稼働で蓄積できると考えた人がいたのもおそらく間違いない。
戦後の原子力利用は科学者ではなく政治家が前面に出て来た。初代科学技術庁長官の正力松太郎は原子力の平和利用によるアジアの繁栄を前面に押しながら初代原子力委員会の湯川秀樹が基礎研究からゆっくりと時間をかけるべきと主張したのに対し、「そんな時間はない、原子炉なんかアメリカから買えばいい、平和利用の技術を日本が独自に研究することなど必要ない」と対立し湯川は委員を辞任した。正力の跡を継いだのが中曽根康弘だ。
戦時下でニ号研究や海軍が京大に委託したF号研究に深く関わった研究者は辞任した湯川など当初を除くと原子力委員会にはほとんどかかわっていない。そして平和利用を推進したはずの原子力村が止めることができなかったのが福島第一事故と言える。
ポツダム宣言を読んだ科学者の中には原爆の完成という明確なメッセージを受け取ったものもいたが軍や政治に対して働きかける力は持たず、予算は確保しても基礎研究から離れず実用化には力を入れなかった。かと言って彼らが戦時中に平和主義者だったとも言えない。消極的な協力姿勢が生んだのが原爆完成による一発逆転への期待でしかなかったとしたら報われない話だ。続きを読む投稿日:2015.12.29
-
100殺!ビブリオバトル No.69 夜の部 第9ゲーム「三位一体ビブリオバトル」 [チャンプ本!]
投稿日:2018.04.24
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。