税で日本はよみがえる--成長力を高める改革
森信茂樹(著)
/日本経済新聞出版
この作品のレビュー
平均 4.0 (3件のレビュー)
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ライフネット生命の出口会長お薦めの書。出口会長は「タテとヨコ」の比較が重要と言っているが、本書は、税制について欧米を中心とした諸国との税制を豊富に取り扱っているという点で「ヨコ」の視点で示唆を与えてく…れている。
本書のメッセージは以下の通り。(表紙より)
●税は、国の未来を変える。世界を見回して、税制を変革することによって国家がよみがえったという例は枚挙にいとまがない。「わが国も税制を変えることで、経済や社会をよみがえらせることができる」−これが本書の一貫したメッセージだ。具体的には、以下のような税制の構築が必要だ。
●第一に、経済成長を税制で支援することだ。人々の勤労意欲や自助努力を税制で優遇してインセンティブを与えること、人々がリスクテイクをしやすい税制を構築することだ。
●第二に、わが国の立地の競争力を高めるという観点からは、法人税改革が大きな課題だ。課税ベースを拡大して財源を確保しつつ行う税収中立型の改革には限界がある。先進諸国間での「税の競争」に対応するには、20%台半ばまでの実効税率の引き下げを視野に入れた法人税改革が必要だ。その際には、地方法人税(法人事業税)に焦点を合わせ、地方消費税の増税・税源交換を視野に入れた抜本的な税制改革が避けられない。
●第三に、所得格差・資産形成をこれ以上拡大させないことが持続的な経済成長にも役立つという観点からの税制改革だ。わが国では税・社会保障の所得再分配機能が低下・劣化している。拡大が懸念される格差是正のための仕組みを所得税や資産税全般にわたって作る必要がある。
●第四に、日本の経済社会の姿を変える大きなきっかけとなると考えられるマイナンバー制度だ。マイナンバーを国民(納税者)にとっての利便性という観点から活用し、わが国の税制だけでなく、行政や社会のあり方が大きく変わるようにすべきだ。
●最後に、財政再建と税負担の増加をセットで検討していく必要がある。
●税制の機能は、「公共サービスを提供するために必要な資金の調達(財源調達)と「所得の再分配」、「経済の安定化・景気調節」の三つだ。今日のわが国経済・社会が抱える問題もこの三つだ。これらの機能を十分に発揮させて、所得・消費・資産の三つの税制を総合的に見直す作業(新たなタックスミックス)を行うことにより、高齢化社会の税制モデルを作り上げ世界に示していく必要がある。
以下、驚いた事実。
「1980年代以降一貫して(EU諸国の)法人表面税率は下がってきたが、法人税収の対GDP比は上昇しており、税収の低下は起きていないということである。」
「わが国の社会保障給付費を対象者別にみると、高齢者関係給付費(年金保険給付費や老人医療費、老人福祉サービス等の給付の合計)が全体の約7割を占めているのに対し、子供や現役世代に対する給付費は全体の3割弱である。そのうち、保育所運営費や児童手当、児童扶養手当など、児童・家族関係給付に限ると、全体の4%弱にすぎない。」
「母親の年代別にみると、年齢層が上がるほど教育費の割合が高くなる傾向があり、40代以上では、5割近くなるという調査結果もある。2003年度経済財政白書は、子育て費用の半分が教育費になっていると指摘している。」
「ITの活用度という点において、日韓には驚くほど大きな差異がある。わけても印象的なのは、韓国政府が、執念を持って正確な所得を把握しようとする姿である。」
「…米国の学者やシンクタンクの研究者と議論したが、『日本は消費税を導入しておりラッキーだ』という発言をしばしば聞いたことだ。
…
自動車の例を考えると、自動車を組み立てる過程で企業や従業員が負担する法人税や所得税は、自動車のコストとして価格に溶け込んでおり、輸出時もそのままである。一方、消費税の場合は、仕向け地で課税されるので、輸出時には還付される。したがって、わが国で生産されるトヨタ車と米国で生産されるGM社がアジア市場で競合する際には、GM車が不利になるという論理である。」
「当時ドイツは、メルケル大連立政権のもとで消費税率を16%から19%に引き上げた直後であった。当方から、『3%もの消費税率の引き上げに国民はよく納得しましたね』と質問したのに対して、財務省幹部の説明は以下の通りであった。
『国民は財政赤字を懸念していたので、消費税率の引き上げはやむをえない選択と思った。一方産業界は、消費税が輸出免税(還付)になりドイツの国際競争力に影響を与えないので、大きな反対はなかった』。」
最後に、言葉の勉強。
「所得控除は、累進税率のもとで、高所得者の税負担をより多く軽減するという逆進的な効果を持つ。したがって、課税最低限に近い層をターゲットとする政策税制を考える場合、高所得者層に恩恵の偏る所得控除では、財源上の非効率が生じる。これに対し、所得の多寡にかかわらず一定の税額を直接軽減する税額控除は、低所得者層ほど減税の恩典が手厚くなるというメリットがある。」続きを読む投稿日:2018.10.08
これからの日本を考える上でトピックはやはり税。主張はシンプルで「我が国も税制を変えることで、経済や社会をよみがえらせることができる」(P.6)。
具体的には「所得控除を減らして課税ベースを広げる。所…得税を下げ、イメージ程には逆進性の高くない消費税を上げる。雇用と創業の意欲を高めるために国際的にも高い法人税を下げる。低所得者層への給付の充実。高所得者の所得を捕捉するために資産課税と相続税を強化。これらを実現する上でマイナンバーの有効活用は必須」。
「課税ベースを広げる(課税対象者を増やす)上に消費税増税、法人税減税。出た、財務省(著者はOB)の弱者いじめ。しかもマイナンバーで国民背番号支配。ありえない」という結論は、本書を読む限り早計だと思う。実際、著者の主張は一貫して社会的弱者への就労機会の提供を通じた格差の縮小にある。
所得控除ではなく税額控除、課税ベースの拡大、の一番分かりやすい例は配偶者控除や生活保護だろう。一定の所得を超えて働いてしまうと急に課税されて手取りが減ってしまうため、労働時間を調整している人は多い。これは弱者が働くインセンティブを奪い、貧困からの脱却を難しくしている上に社会保障額が膨らみ納税者の不公平感を高めている。
税額控除は「税金は取るがその額を減らす、控除を使いきれないなら給付する」ことで、切れ目なく「働いた分だけ所得が増える」仕組みを構築する。そのためには一旦全員から税を取る(課税ベースを広げる)必要がある。税と社会保障の一体改革の重要性。
おそらくここに書かれていることは日経新聞を日常的に読む程度の関心があれば聞いたことのある話ばかり。実際、OECD諸国を中心に社会実験的としてもほぼ答えが出ているようで、明快な統計が根拠として本書にも収められている。ここでやり遂げなかったら日本は本当に途上国になる(格差社会が回復困難なまでに進行する)だろう。あとは、「『希望の増税』にしていく努力」(P.324)が我々に達成可能かどうか。
この誠実な本の主張が少しでもいきわたればよいのだが・・・続きを読む投稿日:2019.01.02
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