この作品のレビュー
平均 3.0 (1件のレビュー)
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楠木先生の読書履歴に載っていて、気になったので読んでみた。
吉田茂の回顧録。現行の日本の基盤は当時つくられたものがほとんどであり、できた経緯などをつくった当人の言葉で振り返るのは価値があるように感じる…。
上巻で興味深かったのは、総司令部について(特にマッカーサー)、新憲法ができるまで、文教改革をめぐって、民主警察の完成まで。
「東郷君はもとよりのこと、当時私が接した重臣層をはじめ、政治上層部の誰もがこの戦争には賛成していなかった。国民の大多数もまさか戦争になろうとは思っていなかったであろう。しかるにこれらの重臣層の人々は内心戦争に反対しながら、その気持ちをどうもはっきり主張したり、発言したりしなかった。こんな時こそ国民性が顕われるもので、平素とかく大人ぶったり、知ったかぶりするくせに、いうべき時にいうべきことをいわず、しかして事後において、弁解がましきことを言い、不賛成であったとか、自分の意見は別にあったなどというものが多い。」
笠原和夫氏の戦時中の話とも共通するが、国民の多数の内心は、我々戦後世代が抱いているイメージとずいぶん異なるという印象である。日本人の国民性は、いまだに会社内でありそうな話であり、肝に銘じるべきエピソードである。
マッカーサーについて。
「私が実際に接してみて、先ず第一に判ったことは、元帥がもともと古くから可成りよく日本の事情に通じ、日本人を知ることが深かったということである。…わが東郷(平八郎)大将や乃木(希典)大将に面接して、日本の将軍達が武勇の点ばかりでなく、人間としても立派だったことに非常な好印象というか、深い感銘を受けたらしい。以来元帥の日本人観は、私をして率直に言わしめるならば、過当評価といってもいいほどである。それで私はある時元帥に向かって話したことがある。『元帥の日本人観は、昔出会った東郷、乃木その他の将軍連の印象に基くところが多いようだが、東郷、乃木という如き人物は、日本人の中でも何千、何万のうちの一人という特殊の例であるから、これを以て現代の日本人を過大評価されてはたまらぬ』といったところ、元帥は『貴下は自分が日本人のくせに、日本人の素質を過小評価するのは、おかしい』と私をきめつけながら、『爺さん、婆さん、娘にいたるまで、毎日早朝から夜遅くまで、田畑に働きに出ている。こんな勤勉な国民が世界のどこにいるだろうか。日本人は種々の発明などから見たって、決して世界のどの民族にも劣ってはいない』などといったものである。」
憲法について。
「…幣原総理が陛下に拝謁して、憲法改正に関する総司令部との折衝顛末を委曲奏上し、陛下の御意向を伺ったところ、陛下自ら、『象徴でいいではないか』と仰せられたとうことで、この方に勇気づけられ、閣僚一同この象徴という字句を諒承することとなった。」
「…私は戦争放棄には賛成であった。日本は平和に害のある好戦国民であるというのが、当時の連合国の通年であった。従ってここで、日本は全く平和を愛する国民で、世界の平和に貢献こそすれ、決してそれを破るような国民ではないことを、連合国に認めさせなければならぬ。そのためには、戦争放棄の規定を認めるがよいという考えであった。」
「ところでこの戦争放棄の条項を、誰が言い出したかということについて、幣原総理だという説がある。…私の感じでは、あれはやはりマッカーサー元帥が先きに言い出したことのように思う。もちろん幣原総理と元帥との会談の際、そういう話が出て、二人が大いに意気投合したということは、あったろうと思う。」
「…然るに、この憲法については、それが占領軍の強権によって日本国民に押しつけられたものだとする批評が近頃強く世の中に行われている。…しかし私はその制定当時の責任者としての経験から、押しつけられたという点に、必ずしも全幅的に同意し難いものを覚えるのである。成るほど、最初の原案作成の際に当たっては、終戦直後の特殊な事情もあって、可成り積極的に、せき立ててきたこと、また内容に関する注文のあったことなどは、前述のとおりであるが、さればといって、その後の交渉経過中、徹頭徹尾”強圧的”もしくは”強制的”というのではなかった。わが方の専門家、担当官の意見に十分耳を傾け、わが方の言分、主張に聴従した場合も少くなかった。」
文教改革について
「…しみじみ思うことは、一国の国旗というものが、普通の日本人、殊に戦後の日本人が考えているよりは、遥かに重大な意義を持つものであるということである。…
どこの国旗にも、それぞれの伝統それに伴うセンチメントとがあるものだ。欧米人は国旗に対し、宗教的と思われるほどの尊敬の念を表するのが一般である。…
私は、日本の若い人々が赤旗を押し立てて興奮を感ずる前に、先ずへんぽんと飜える日の丸を仰ぎみる気持ちになってもらいたい。また一般の家庭においても、せめていわゆる国民の祝日などには、ぜひ戸毎にに日の丸を飜えさせたいものだ。私どもの若い頃はこれを旗日といったほどである。愛国の心なき国民にして、栄えたためしは、歴史上にないと思う。」
民主警察について
「自治体警察と国家地方警察との両建でゆくその後の警察制度は、日本に押しつけられた占領改革の重要な一つであったが、これが実施されたのは私の在野時代であった。…
このように極端に分散された警察だったから、おのずから弱体であった。この弱体ということが、或る意味においては総司令部の警察民主化の主な狙いだったのでもあろうが、こうして弱体化の狙いは確かに達成されたけれど、その後共産主義者の組織的活動が甚だしくなって来るにつれて、新しい警察制度のその弱さが、重大な欠陥として目立つようになってきた。」
「苟くも一国の政府たるものが、市町村という小規模小区域の自治体に警察権を完全に委譲し、これに対しては積極的には口出しできないというような国は、世界のどこにもないのではないかと思う。この珍しい制度は、周知の通り、米本国から日本へ特派された使節団の勧告に基いて、日本に押しつけられたものであるが、恐らく米国自身の警察制度を参考としたのであろう。」続きを読む投稿日:2018.10.08
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