神曲 煉獄篇
ダンテ・アリギエーリ(著)
,平川祐弘(訳)
/河出文庫
作品情報
二人の詩人、ダンテとウェルギリウスは二十四時間の地獄めぐりを経て、大海の島に出た。そこにそびえる煉獄の山、天国行きを約束された亡者たちが現世の罪を浄める場である。二人は山頂の地上楽園を目指し登って行く。永遠の女性ベアトリーチェがダンテを待つ。清新な名訳で贈る『神曲』第二部煉獄篇。
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商品情報
- シリーズ
- 神曲
- 著者
- ダンテ・アリギエーリ, 平川祐弘
- 出版社
- 河出書房新社
- 掲載誌・レーベル
- 河出文庫
- 書籍発売日
- 2009.01.07
- Reader Store発売日
- 2014.10.24
- ファイルサイズ
- 64.1MB
- シリーズ情報
- 全3巻
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この作品のレビュー
平均 3.9 (24件のレビュー)
-
地獄篇から煉獄篇(Purgatorio)へ。
全ての霊は、死後、肉体を離れ、地獄行きか煉獄行きか分別される。生前の信仰のため、地獄に堕ち永劫の罰を受け続けるのを免れた霊が、天国界へ昇るのに相応しく…なるべく罪を清める場所がこの煉獄界、浄罪界とも訳される(なお、聖書に煉獄界の記述は殆ど無く、のちのプロテスタント教会ではその存在を認めていない)。
浄められるべきは七つの大罪。傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・貪欲・大食・色欲。地獄で罰せられる罪よりも日常的なものであるため、キリスト教の倫理的厳格さが却って身に詰まされる。
「私の血は嫉妬に煮えたぎっていたから、/もし人の幸福を見ようものなら、/顔面は、君の目にも見えるほど、蒼白となった。」(第十四歌)
□
キリスト教の世界観では、神の絶対性・神に対する人間の無力さが公理として前提される。
「おまえらにはわからないのか、われわれは守りもなく/裁きに向かって飛ぶ天使のような蝶となるために/生まれついた虫けらだということが?/なぜおまえの気位はそう高く舞いあがるのだ?/おまえはいわば片輪の虫、それも/まだ発育不全の蛹のようなものではないのか?」(第十歌)
「三位一体の神が司る無限の道を/人間の理性[ratio=計算的理性――引用者]で行き尽くせると/期待するのは狂気の沙汰だ」(第三歌)
次の引用に云う「自由」も、当然のことながら、「神への自由=罪に塗れた肉体という鉄鎖から解放され霊が神へと合一していく自由」であって「神からの自由」ではない。勿論、近代的な政治的「自由」でもない。
「自由を求めて彼は進む、そのために/命を惜しまぬ者のみが知る貴重な自由を」(第一歌)
愛の志向も美への陶酔も、一方で人間に自由意志を認めておきながら、最後には神の裁きと地獄の罰を持ち出して、愛や美への自由を矯めようとするのがキリスト教の教えだ。
「人間は善や悪を愛し、/その愛を集めて選り出すことができる・・・。」(第十八歌) 「・・・善悪を知る光や自由意思が君らには与えられている」(第十六歌)
「愛がおまえたち人間のあらゆる徳の種であり、/かつ罰に値するあらゆる行為の種である・・・。/・・・およそものは自己嫌悪におちいることはありえない・・・。/そしてあらゆる存在は原初存在[神]から切り離されて/それ自体で存在するとは考えられぬ以上、/およそ被造物はそれを憎むことはできぬわけだ」(第十七歌) 「およそ愛と呼ばれるものなら/それ自体でみな称賛に値すると主張する人の目には/真理は隠れ、真相は映じていないのだ」(第十八歌)
「天はおまえらを呼び、おまえらの周りを回って、/その永遠の美の数々を示しているが、/おまえらの目はもっぱら地上に注がれている」(第十四歌)
神の絶対性を志向する、則ち神と云う審判者の赦しを日々希求し続ける、その強迫的なまでの目的論的世界観とは、何と窮屈な生だろう。想像するだに息苦しい。
□
"永遠の女性"と云われるベアトリーチェも、要は自分の死後にダンテが自堕落な生活に陥り「よその人の許へ走った」ことを、キリスト教の用語を用いて責めている。そもそもダンテのこの彼岸行自体が、堕落した彼の眼を覚まさせるには「破滅した人間を見せるより外に/もはやない」と、彼女によって図られたものだった。
"永遠の女性"とまで云われる彼女が、言葉ばかりは宗教的な説教で飾り立てているが、その実は高慢で世俗的な女であったことに対して、率直に云って失望を覚えた。「世の中の人々が苦労して方々の枝に探し求めた/あの甘い樹の実」「おまえの餓えをいやしてくれる」(第二十七歌)天国に於いて、彼女はどんな言葉を語るのか。
□
内面に於て最も清浄たるべき神的合一を憧憬する精神的営為を、世俗に於いて支えるはずの教会。そんな内面に於ける宗教的権威が世俗に於ける政治的権力と一致してしまっては、その権威の源泉たる清浄な信仰心は、世俗の泥濘に何処までも墜ち込んでいくだろう。現に、政治活動家でもあったダンテの本作にも、信仰の清浄な静謐さとはほど遠い、俗世の政治状況に対する憤怒怨恨を露わにしている場面が多々見られるではないか。天皇制批判にも通じる一節を引用する。
「・・・。ローマ教会は/[世俗と宗教の]二権力を掌中に握ろうとしたから、/泥沼に落ち、自分も汚し、積荷も汚してしまったのだ」(第十六歌)
加うるに、内面を支配する宗教的権威が世俗を支配する政治的権力と一致してしまっては、神の絶対性へ合一しようとする宗教的心性は、世俗に於ける絶対的な暴力へと容易に転化してしまうことも歴史を顧みれば看て取れるだろう。
□
最後に、我が身へ向けての叱咤の句を記しておく。
「風が吹こうがびくとも動ぜぬ塔のように/どっしりかまえていろ。/次から次へと考えが湧く男は、/とかく目標を踏みはずす。/湧きあがる力が互いに力をそぎあうからだ」(第五歌)続きを読む投稿日:2012.08.21
煉獄篇の最後辺りに天国編はより難解だから気軽に手出すんじゃねぇぞ?みたいな忠告があったのでひよって天国編を読まなかった過去がある(未だに未読)
投稿日:2023.04.21
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