お笑い進化論
井山弘幸(著)
/青弓社ライブラリー
作品情報
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お笑いとは1つの「作品」であり、時代のモードを映す鏡である-。「吉本系の芸人が舞台に登場するとき、なぜ『がんばり宣言』をするのか」「取り違えコントはどうして笑えるのか」などの単純な疑問を解き明かすことを糸口に、古参の芸人から社会を賑わす若手芸人まで、数多くのお笑いの実例を取り上げて、「笑いのからくりであるパラレル・ワールドと観客とのあいだの心理的距離」というお笑いの構造を析出する。取り違え、シュール、漫才などの特徴をていねいに取り出しながら、お笑いがインタラクティヴな批評空間として成立したことを浮き彫りにして、そこに通底する「多重化したリアル」「アイデンティティーの変容」という時代性を明らかにする。
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商品情報
- シリーズ
- お笑い進化論
- 著者
- 井山弘幸
- 出版社
- 青弓社
- 掲載誌・レーベル
- 青弓社ライブラリー
- 書籍発売日
- 2005.05.21
- Reader Store発売日
- 2015.05.16
- ファイルサイズ
- 47.7MB
- ページ数
- 250ページ
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この作品のレビュー
平均 3.0 (2件のレビュー)
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アリストテレス「詩学」
喜劇とは、普通の人よりもどちらかといえば下劣な人々のことを真似て再現するものであり、再現の対象となるのは寧ろ、醜さであり、滑稽もこれの一部に属している
悲劇が心を動かす2つの…要因
逆変転:劇中の行為の結果がそれまでの成り行きとは反対の方向へと転換すること
発見的認知:知らずにいて何も認めていない状態から何ごとかを発見して認め知る状態へと意識が転換すること
物語の中で時間的に先立つ出来事からの、必然的帰結か、あるいは少なくとも、いかにも納得のいきそうな蓋然的結果かの、いずれかでなければいけない
トマス・ホッブス
突然の得意は、笑いと呼ばれる顔の歪みを起こさせる、情念である
他人の中に何か不恰好なものを知り、それとの比較から突然自らを賞賛する(笑いの優越理論)
カント
抱腹絶倒の笑いを起こすべきもののうちには必ず何か不条理なもの(すなわち悟性自身では、それに満足を見出すことができないもの)がなければならない。笑いとはあるはりつめた期待が突然無に変わることから生じる情動である
悟性が突如緊張を失った結果弛緩し、その効果が身体的な動揺となって現れる
ベルクソン
機械的こわばり論
人間の行動はもともと自由であり、状況の変化に柔軟に対応できるしなやかさを有している。だがふとしたことから放心や惰性によってその行動が機械化すると、人を取り巻く社会は生活を危うくするような「こわばり」を除去しようとする。笑いは懲罰であり、ずれた行動に対する社会的身振りである
おのおのの生きた存在はほかの体系と関わりあうことのできない一つの閉じられた現象体系である。様相の継続的変化、現象の逆行不可能、それ自体のうちに立て篭もっている一系列の完全な個別性、それが生けるものを単純な機械から区別している外部的特徴である。その正反対のものをとってみよう。すると、我々は繰り返し、ひっくり返し、交叉とそう呼んでもいい3つの手立てをうるであろう
交叉=ある情況が全然独立している事件の二系列に同時に属しており、そしてそれが同時に全然異なった2つの意味に解釈できるとき、その情況は常に滑稽である→キプロクオ
スペンサー
笑いとは、意識が大きなものから小さなものへ不意に移される、つまり下降性の不一致によって生じる感情エネルギーの放出
ジョン・パロウス
公理系の変換
笑いの原理
何かと何かが比較対照されたときに笑いが主じる
cf.常態と失態の比較(アリストテレス)、人間らしさと機械っぽいさの比較(ベルクソン)
公理系=マトリクス=世界
①世界の形成には、観客の想像力が必要
観客は世界を物語として捉え、想像した内的必然性に従ってディティールを補足する
②遠距離でも至近距離でもない中間距離の別世界
笑いが成立するためには、2つの世界が立ち現れることに加え、それらを観客が中景の中に眺める必要がある
cf.東京ドームの真ん中で漫才をしたら? スラップスティックはなぜ笑える?
人生はクローズアップすれば悲劇だが、ロングショットでは喜劇になる(チャップリン)
コントの破断点
公団住宅のエレベータガール。両者が同等に存在を主張し合うことによって軽度のイリンクス(混乱)を生じ、2つの世界のめまぐるしい往還の摩擦によって笑いが引き起こされる
逸脱が過ぎると(つまり完全にP世界2に移行してしまうと)、もはやパラレルな構図は崩れてしまう。ときどき思い出したかのようにLesson2と章を区切ることによって、P世界1への揺り戻しを図っている点を忘れてはならない。パラレルワールド理論では、対照される2つの世界はどちらも同等の強度をもって現れなければならない。観客の前に2つの世界が出現し、対照されることが笑いの必須条件なのだ
現実からズレた先につくりあげられるパラレルな世界が生き生きとしたリアルなものであるかどうかが、笑いにとって重要な決め手になる
シュール(不条理)
自己同一性が破綻し、相互理解の可能性も断ち切られたような状況の中に、なおもなにかしら真実めいたものを予感させるところにある
ナンセンスとシュール
話者が意味をなさない言葉を意図して使ったり、意識的に矛盾した言辞を弄するのがナンセンス
非現実的な展開や不可能なものの存在の中に「何かリアルなもの」を感じさせる場合をシュール
cf.怒るとワンピースを着る男
ダウンタウンのハードシュール 異化作用、ロシア・フォルマリズム
ウンナンのソフトシュール P世界とR世界の類縁性、観客が緊張を伴わずにP世界を眺めることができる
P世界1とP世界2の間を行ったり来たり
P世界とR世界あるいはP世界1とP世界2、複数の世界が観客の中景に立ち現れ、互いにその存在の正当性を主張する。緊張を強いられた観客の精神は2つの世界の狭間で右往左往する。その往還運動が快適な横隔膜の振動を引き起こす。このように舞台で繰り広げられる異世界(P世界)に強度のリアリティが与えられると、我々が安住している現実世界(R世界)は尖鋭に対自化される
あるあるネタ
①間仕切りの法則
同一のフレーズが反復され、独特の身体パフォーマンスを伴う形で観察の断片が提示される
②形式性の法則
57調などあるあるネタは誰もが覚えやすい高度の形式性を持って語られる
機械のように反復される形式によって時間が仕切られ、現実の中に発見される印象深い情景があたかも複製品のように一定の形式のなかに繰り返しパッケージ化されること
あるあるネタを構成する世界は、現実世界に重ねられたP世界
笑いの資源を現実世界に求め、さらに現実から取り出した断片を独自の流儀で誇張し定型化する。いつのまにか観客を幻惑し、彼らの視座から現実を眺めるように仕向ける
ピン芸 友近、劇団ひとり
世間に起こる出来事すなわち現実世界(R世界)の一部をつぶさに観察し、形式と間仕切りの法則に従って擬似現実の世界(P世界)に転換する。観客は次々と提示されるP世界を逐一R世界に対照する
漫才=パラレルトーク
漫才が演出するP世界のなかに囚われた観客は、二人のパラレルトークを聞きながら、今か今かと笑いの機会を待ち望む。いわば宙吊りのサスペンス常態に置かれる
千鳥、フットボールアワー
ノブは大吾の共犯者。相方のボケを是正しようとしない。ツカミで形成されたP世界の存在を許すように擁護している
漫才コントは、「演劇的な会話部分」(P世界1)と「それに対する批評部分」(P世界2)とに分裂し、笑いのパラレルワールドを形成する。相互に比較対照される世界の構造は二重化されている。一つはコントと批評、もう一つは次々と変形され修正されるコントが形成する複数世界同士の比較である
センターマイクを中心に想像される架空の世界(P世界1)に、現実世界(R世界)にいるはずの観客が知らず知らずのうちに入り込んでしまうのは、漫才師が巧みにツカミやパラレルトークなどの技術を駆使するからである続きを読む投稿日:2005.08.22
41お笑い進化論 井山弘幸
・取り違え図式:アンジャッシュ
・シュール:不条理な中に、何かリアルさを感じさせるもの。バカリズム⇄ナンセンス
・物語の現実化と現実の物語化:チュートリアルのトレンディ桃太…郎
お笑いの構造などについて、学術的観点から書かれた本続きを読む投稿日:2016.03.08
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