この作品のレビュー
平均 4.2 (6件のレビュー)
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▼ずーっと疑問だったんですが、イエス・キリストさんっていうのは、ざっくり言うとローマが事実上支配していたイスラエル政府によって処刑されたはずです。そして「皇帝のものは皇帝へ」なんて言ったり、直接的では…なくても、ローマの支配になんとなくレジスタンスした(だから処刑された)。イエスの死後も、弟子たちはけっこう迫害されてる訳です。だのに、なぜ、わずか300~400年後に、ローマ帝国自体がキリスト教になっちゃうんだろうか?何があった?
▼なんというか、「劉邦が項羽を破った」とか、「龍馬が薩長同盟をした」とか「ヴェルサイユ条約のストレスがナチスを呼んだ」とか、「アメリカ独立は関税問題からはじまった」とか・・・多少の誤謬があっても、巨大な歴史の曲がり角について、当然のように「定説」があると思うんですが、「どうしてローマ帝国は、コンスタンティヌスは、キリスト教迫害から一転、キリスト教国家になったの???」という疑問への素朴な答えがない。そりゃヒドイでしょう。だって、それがその後1700年くらいの、世界史、西欧史を決定づけているのに!・・・。ところが、唖然とするのは、「実はそこンところは、もやもやして良くわからない」というのが定説なんだそうです。えええええ。
▼「世界の歴史(5)ローマ帝国とキリスト教」弓削達。河出書房新社 1989年。2019年10月読了。前記の興味が出発点なんですが、なぜこの本を選んだのかというと、岩波ジュニア新書の「世界史読書案内」津野田興一 で、勧めていたから。「世界史読書案内」は、かなり素晴らしい一冊。「砂糖の世界史」なんかもこれで教えられました。今回も期待を裏切らない良書。ハラハラドキドキの小説を読んでいるようなエンタメ感でした。パチパチ。
▼なんとなく分かったのは、よくある話ですが、イエスの教えってのは、弟子を子孫とするならば、子の代くらいまではプリミティブでミステリアスな原形の魅力を引き継いだようですが、孫の代、ひ孫の代くらいで、かなり変質しちゃったんですね。はっきり言うと、現世の権力を肯定するようになった。まあ、イエスは権力を全否定したのかっていうと、そうでもないのかもしれませんが、どうしてもイエスさんの活動っていうのは、一時期の沖縄琉球のような悲惨な多重支配にあえぐユダヤの民、っていう生々しい政治状況と不可避な内容だったので、少なくとも権力礼賛では全くなかった。
▼といって、その孫やひ孫が、悪役だったって訳でもなくて、解釈の発展変容みたいなこと。そこンところには、実はローマ帝国の光と影というか、仕組みの問題もあって、実はキリスト教迫害時代でも、「れっきとしたローマ市民であるキリスト教信者」は、人権的に迫害されず、ローマで活動できちゃってたりしたんですね。そういう信者からすると、「ローマ市民として、ローマ帝国で生きている自分」と「イエスの教え」を両立させる思考回路になっていくんですね。それぁまあ、人の防衛本能っていうのはそうなります。日本史で言うと仏教襲来に当たって絶滅の危機感を抱いた神道が、「実は我々の神は仏の友達っていうか、家来ですから」というアクロバティックな神仏習合、ほとんど爆笑ものの詐欺と言っていいような本地垂迹説で見事に生き残った感じに似ています。
▼そんな訳で、恐らく徐々に「ローマの繁栄と権力を認めるキリスト教」が誕生します。そして、その頃のいろんな宗教よりも、圧倒的に寛容なんですね。イエスの教えって。ギリシャの神とか、相当に不条理で恐怖政治だったりしますから。つまり、ローマの権力者にとって都合のいい宗教になってくる。
▼そこンところから、コンスタンティヌスさんが「ローマはイエスをあがめるぜ!」という宣言になるまでの、きっかけみたいなところっていうのは、やっぱりこの本でも「ハッキリはしない」。なんとコンスタンティヌスの道ならぬ情事を肯定するためだったのでは、というオモシロすぎる説まで。歴史は夜、作られるのか(笑)。
▼それにしても、その後その後の歴史を考えると、キリスト教、という名の下に、何百万、下手すると何千万という人が殺されてきたわけで。天草の乱とか隠れキリシタンとか、遠藤周作の「沈黙」とかに思いを馳せると、「でも実は、なんでキリスト教が西欧社会のデフォルトになったのか、その理由はよく分かんないんだよね」っていうのは、あんまりだよなあ・・・。
▼どんどん妄想は飛躍して。過去のいつかどこかで、高位の聖職者が、「ここにその理由がはっきり書いてあるんだけど、これぁ、表に出すと権威失墜しちゃうから、永久に秘匿しよう」みたいな極秘ファイルがあるンじゃないかしらん・・・。映画のワンシーンで妄想すると、後世、別の誰かがその資料を探して、その棚の、その引き出しまで突き止めたのに、開けてみると・・・「そのファイルだけが抜き取られている!」みたいな・・・(笑)。
▼確かに小説でも映画でも、傑作と言われるモノほど、実は1カ所くらいは不条理不可解な箇所があったりするんですけれど、歴史という物語の尽きせぬオモシロさよ・・・。さしづめこれがミステリー本だったとするならば、ヴェルヴェットのような極上の設定と語り口で、波瀾万丈予測不可能ジェットコースターな展開の末、最後の最後に犯人が・・・「わかりません」で終わってしまったような・・・。本としてオモシロかったか否かで言うと、イチもニも無くオモシロかったんですけれど。続きを読む投稿日:2020.04.24
「かつて地中海世界を1つにまとめた巨大帝国が存在しました。多くの民族、多くの宗教、多くの文化、多くの国家を飲み込んで、たった一人の皇帝が当時する文字通りの帝国が。その名は、ローマ帝国。
・ティベル川の…ほとりにうまれた都市国家が、なぜ地中海世界の統一に成功したのか。
・ローマ帝国とキリスト教の関係性、この両者の関係をつかむことこそが、実はヨーロッパ史を理解するための本質的な鍵をにぎる。
この本を読んでぜひともヨーロッパ史の「根っこ」をつかんで。
この本は読み物としても、第一級の面白さ!(1960年代初版のシリーズなのに最新の概説書に比べても数倍面白い。それには理由があるのですが、わかりますか?)」(『世界史読書案内』津野田興一著 の紹介より)続きを読む投稿日:2023.08.17
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