海を見る人
小林泰三(著)
/ハヤカワ文庫JA
この作品のレビュー
平均 4.0 (48件のレビュー)
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小林泰三さんの小説はアクが強い、というのが自分の中のイメージ。独自のユーモアやブラックジョーク、ナンセンス、詳細なロジック、特異なキャラクターに文体、そしてグロ描写と、合わない作品はどうにも合わないの…ですが、ハマるときはハマる、そんな不思議な作家さん。
この『海を見る人』に関して言うと、文章や独自のユーモアやといった小林さんのアクの部分は大分抑えめな印象。一方で精緻なSFの論理と世界観のこだわりであったり、通常の概念を揺さぶるような物語のテーマは健在。「綺麗な小林泰三さん」というべき短編集かも。(他の作品のイメージが、どんなんなんや……と思われそうだけど)
収録作品は全6編。そしてそれぞれの短編を繋ぐ、幕間の短い会話で構成されています。短編が語られた後にある、二人の人物の会話の部分が本全体の雰囲気を醸し出しているように思います。異なる論理が支配する世界での人々の考え方や生き方。それを読者はどう受け入れるか。その道標の一つにとして考えさせられます。
最初に収録されている「時計の中のレンズ」は難しかった……。どんな光景が広がっているか。世界観はどういったものなのか。ハードSFの論理は正直ちんぷんかんぷんだったものの、世界観の壮大さだけはかろうじて分かりました。
宇宙を舞台に遊牧民族の旅と、少年の淡い恋とほろ苦い成長を描いた短編です。
「独裁者の掟」は異なる二つの宇宙国家の戦争と、強国の統帥の独裁。そしてそれに翻弄される人々を描いた短編。
戦争の中奔走し、自分の使命を果たそうとする人々の生き様と、無慈悲な統帥の政治の様子の対比が印象的。そして意外な展開が待ち受けると共に、善と悪の概念が揺さぶられました。
「天国と地国」も壮大だったなあ。
侵略者に襲われ、壮大な宇宙空間を旅する四人の男女。ある日彼らは、うち捨てられた様子の拠点となりそうな星を見つけるが……
神話と思われていた星が存在するかも、そしてその星の正体は、というのがなんだか途方もなくワクワクする話でした。この短編を長編版にしたものもあるらしくて、そちらで物語のその後が語られるのかも、気になります。
「キャッシュ」は仮想空間と現実空間が交差する探偵もの。
この世界観と設定ゆえの捜査や推理であったり、そして犯人の正体であったり、結末であったり、そしてSFならではの哲学的な面もある、とても好みの短編でした。
「母と子と渦を巡る冒険」はこれが一番小林泰三さんらしい作品かもしれないなあ。
お母さんのためボロボロになりながらも宇宙空間をめぐり、情報を集める子ども。明るくユーモラスに(?)描かれるグロ描写ととぼけた雰囲気。そして結末のブラックさと、小林さんらしさにある意味満足しました(笑)
表題作の「海を見る人」は時間の経過が異なる二つの世界の少年と少女を描いた恋愛もの。
最後に老人が海を見続けている意味が分かると、切なさの中に一種の狂気的な部分も垣間見える、これも独特の短編だなあ。老人が見続けているものを想像するにつけ、残酷なようでいて、ある意味甘美なようにも思えて、気持ちがざわざわします。
「門」は量子テレポートとそれを守ろうとする人と、破壊しようとする人々を描いた話。
小さな宇宙船に艦隊が攻めてくるという、派手な書き出しから、艦長と語り手のいじらしい関係性に結末とこちらも面白かったです。
世界観を全て理解しようとすると、相当ハードルは高い気がしますが、ぼんやりとでも雰囲気さえ掴めていれば、どの短編もその世界観ならではのドラマに、読み手を引っ張っていってくれる、そんな短編集だったと思います。続きを読む投稿日:2020.05.10
ハードSF恋愛風味。
ガチガチの世界観と冷徹な視線がいい。
極限世界を生きる人間模様ととらえると面白い。
トキメキやグロは控えめ。
投稿日:2023.12.07
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