鍵・瘋癲老人日記
谷崎潤一郎(著)
/新潮社
この作品のレビュー
平均 3.8 (47件のレビュー)
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スリリングでエロティックな小説
読まず嫌いはいけません。
そう、つくづく思いました。
最初に谷崎を読んだのは確か高校2年のころ。学校の図書室にあった「春琴抄」だか「刺青」だか。その記憶もあいまい。ただ、「言葉が難しいし、良く分…からん」という感想だけは覚えている。
大学に行って、「なんだかすごくエロい小説らしい」と聞きつけて挑戦した「痴人の愛」も、どうもいまいち。で、「やっぱり耽美派はだめだ」とすっかり見向きもしなかった。
繰り返しますが、読まず嫌いはいけませんね。
両作品のうち、特に面白かったのは「鍵」。
主な登場人物は2人。56歳の肉体的衰えを感じはじめた大学教授と、その45歳になる美しい妻。
脇にいるのは、夫婦の娘と、その娘の結婚相手と目されている夫の後輩の男性・木村。
夫は、妻に男との不貞をそそのかす行為を繰り返し、そのことで自身の性的欲求を高めていく。いわば、倒錯した性癖の持ち主。
彼は妻も読んでいるであろう日記に、妻に自分の気持ちを悟らせようとこう書きます。
元来僕ハ嫉妬ヲ感ジルトアノ方ノ衝動ガ起ルノデアル。ダカラ嫉妬ハ或ル意味ニ於イテ必要デモアリ会館デモアル。アノ晩僕ハ、木村ニ対スル嫉妬ヲ利用シテ妻ヲ喜バス事ニ成功シタ
(略)
妻ハ随分キワドイ所マデ行ッテヨイ。キワドケレバキワドイ程ヨイ。僕ハ僕ヲ気ガ狂ウホド嫉妬サセテ欲シイ。(p21)
作品は、この夫と妻の日記体でつづられます。
日記には本当のことが書かれているのか? それとも、相手に読ますためにかかれていのか? 読者は常にその判断がつかない宙ぶらりんな状態に置かれている。
このどっちとも判断がつかない状態が、実にスリリングでエロティック。
いったいどこに真実があるのか。芥川龍之介の「藪の中」を思わせる雰囲気は、読み手をあきさせない。
ラストには、二重三重のどんでん返しも用意されている。
良質のミステリーでもあり、良質の恋愛小説としても読める作品。
ただし、夫の日記はカタカナ交じりで非常に読みにくい。その読みにくさを一種のリズムとして受け取れないと、かなりきついかもしれない。
手っ取り早くストーリーだけ、という人には、コミック版もあります。続きを読む投稿日:2013.12.09
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このレビューはネタバレを含みます
⚫︎受け取ったメッセージ
レビューの続きを読む
表面に見えるものが全てではないどころか、
真逆とも言える場合もある。
⚫︎あらすじ
夫婦の日記が交互に描かれている。
お互いが日記を書いていることに気づいて、読んでいるの…か、読んでいないのか…
⚫︎感想(※ネタバレ)
夫婦という、どこにでもいる形態、それも場面は家の中だけという形でミステリアスに描かれた作品。夫の、妻に対する欲望と性癖が中心に話が進んでいく。最初はその描写などに気を持っていかれる。妻の方は、夫を嫌う気持ちと愛する気持ちを日記に書きながら、夫の欲望に上手く付き合っている…ように見えて、後半は衝撃。じつはずっと前から妻は夫の日記を読んでいたことがわかる。妻はずっと夫を欺いており、夫を計画的に不健康にしていったのであった。娘の動きが不可解なのは、描写が過激すぎて書き直したところがあり、それも影響しているかもしれないとのこと。続きを読む投稿日:2023.10.20
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