この作品のレビュー
平均 4.3 (271件のレビュー)
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いずれも、中国の古典に着想を得た、中島敦の名作短編4編。中島の父方に漢学者の祖父、伯父がおり幼児期より多くの作品に触れていたらしい。中学一年で、四書五経を読破していたという天才肌。
【山月記】
口頭伝…授の人虎伝・李景亮バージョンオマージュ
中国・唐の時代
李徴は、科挙に合格し、前途有望な秀才であった。しかし、官吏として生きるのではなく、詩人としてその名声を得たいとし、創作の道を選ぶ。
なかなか作品は認められず、遂に食べるために、下級官吏となるが、周囲からの嘲笑、自尊心と羞恥心から発狂してしまう。そして、彼は虎となっていく。その後、たった一人の友人に偶然に出会い、最後の自作の詩を託す。即興詩(この詩が古典と同じらしい)を読んだところで、虎となった理由を理解していく。
中島の創作部分が、この変身理由となります。原典では、未亡人との恋に反対され、相手の家に放火殺人の罪となっているようです。中島敦は、本人の精神性、作中から取れば、臆病な自尊心と尊大な羞恥心が彼を追い込んでいったというところでしょう。
変身が何故虎なのか。官吏任用試験合格者掲示板みたいな物が、虎榜として登場しています。虎は、威厳や権力の象徴だった様です。結局、李徴が望んでいた物が因果として別の形となったのかもしれません。
【名人伝】
「列子」を素材 列子自体がわからないのですが、研究者さん達がそう言っているので。
この物語は、分かりやすい。弓の一番になりたい男が、達人に弟子入りして修行を重ねる。ここで、射之射を得とくする。それ以上を目指して、仙人のごとき老師に教えてを乞うて、不射之射
の域にまで達する。無為無我の境地に辿り着き、遂に弓という固有名詞さえ忘れる。
白いスーツのショートカットの女性が、二番じゃ駄目なんですか?と、仕分けしそうな程。
しかし、彼の修行の様子が、ユーモラスなんですよね。目を閉じない修行で、最後には、まつげに蜘蛛が巣を張るとか、しらみを髪の毛で結んで、大きく見えるまで2年見続けるとか。最後には、名称さえ必要なくなるところまでくる。
そのまま、名人譚として読むのか、寓話と読むのか、3回読んで私は後者とすることにした。
【弟子】ていし、と読みます。
「論語」より出典
孔子の弟子・子路(孔門十哲の一人)を主人公として、孔子の生き方・教えを、入門から、衛の政変で最期を迎えるまでを、偉大な思想家達というより、感情を持った人々として書かれていると思う。
子路は、愚直で、ひたすら孔子の尊大さを愛している。だから、教えを全て理解しているわけではないのです。孔子は、弟子の実直さを愛しながらも、なかなか学ばない子路に手を焼いている様子。本来ならば、相性が悪そうな二人が、信頼厚く長く共にする。小説中に、論語からの言葉が巧みに入り(注解なくしては読めないけれど)思想家孔子一門を、人として描いた、短編の着ぐるみを着た「論語」入門書。
【李陵】
「漢書」「史記」「文選」より出典
時代は、漢・武帝の時代。
北東の国家、匈奴の捕虜となってしまった武将・李陵。彼は、苦しみながらも、手厚い庇護のもと、その地に馴染んでいく。武帝の理不尽な裁判の噂を聞き、その忠誠心は揺らいでいる。
同じく、捕虜となっていた、友人の蘇武は、過酷な捕虜生活にも屈せず、あくまで武帝への忠誠心を貫く。
二人は、19年後、武帝の死後、帰郷のチャンスが巡ります。李陵は、匈奴に残り、蘇武は、漢に戻っていきます。李陵の別れの歌に哀愁があります。
この二人に加えて、司馬遷の生涯が描かれていきます。李陵を庇う発言の罪で宮刑となり、絶望の中、史記の編纂の為だけに、生き続ける事を選択し、史記130巻を書き上げます。
2千年以上前の時代が生き生きと描かれています。
続きを読む投稿日:2023.02.16
このレビューはネタバレを含みます
司馬遷の仕事に取り憑かれて、終わるとすぐ亡くなったことは、悲しすぎる
レビューの続きを読む
李陵ほどの人物がそのあと匈奴で名を挙げなあったのは因果であろう、また悲しい
スコセッシ監督の伝記構成の作品のような終わり方だった投稿日:2024.04.07
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