旧約聖書を知っていますか
阿刀田高(著)
/新潮社
作品情報
「旧約聖書」を読んだことがありますか? 天地創造を扱う創世記あたりはともかく、面倒なレビ記申命記付近で挫折という方に福音です! 預言書を競馬になぞらえ、ヨブ記をミュージカルに仕立て、全体の構成をするめにたとえ――あらゆる意味での西欧の原点「旧約聖書」の世界を、枝葉末節は切り捨て、エッセンスのみを抽出して解説した、阿刀田式古典ダイジェストの決定版。
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この作品のレビュー
平均 4.0 (127件のレビュー)
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旧約聖書を理解するにはいくつかの道筋がある。初心者向きはアブラハム事績から辿ってゆくことだろう。
アブラハムの子がイサク、イサクの子がヤコブ。ヤコブの子がヨセフ。
それでは胸いっぱいに空気を吸い込み「…アイヤー、ヨッ」と彼らの頭文字を叫んで旧約聖書山を登ってゆこうではないか。
…というような書き出しで始まり、最後までこの調子(笑)
西洋文化や芸術、現在の世界情勢をある程度理解するためには、聖書が分からないと難しい。とりあえずちょっとずつ。
阿刀田高は中高生の頃結構読んでいて、この「知っていますか」シリーズも読んでいた。
しかし改めて読んでも面白くてわかりやすい。
聖書の流れを分かり易く解説し、現在にも通じる人間心理を読み取ってゆく。
聖書の話を「なんか昔の超人が行ったすごいお話で、現代の自分とは関係ない」と受け取ってしまうとつまらない。「現代だとストレス過労死だな」「彼はノンキャリアから若くして抜擢された遣り手社員だな」などと考えると十分身近に感じる。
神は依怙贔屓であり、理由を求めてはいけない。神は“在って、在り続ける者”であり、絶対的に存在して名前さえ聞いてよいものではない。人間の為したことは人間の意思と力のみでなく神様のお陰で成し遂げることができたのだ。
旧約聖書とは「古い約束」であり、ユダヤ教、イスラム教にとっては旧約を付けずにただ「聖書」と呼ばれる。
新約聖書はイエスの福音を伝えるもの。
以下自分メモでとにかく長いです。。
❐アブラハム
まずはアブラハム。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、世界三大宗教の開祖。
ある日アブラハムは“唯一絶対神”のお告げを聞き、「約束の地カナン」を目指す。
アブラハムと異教徒ハガルとの間に生まれた子供がイシュマイル。アラブ人開祖でマホメッドの祖先となった。
正妻サラが生んだ7人の子供、長男がイサクで、サラの死後の後妻が6人の弟たちが生まれている。
キャンプファイアーの「アブラハムには七人の子♪一人はノッポであとはチビ♪」…の、ノッポが長男イサク、ず~~っと年下の六人の弟がチビたち、という意味だったのか(笑)
アブアハム時代の有名エピソードが「罪の町ソドムとゴモラ崩壊」「塩の柱となったロトの妻」「割礼の始まり」「イサク生贄未遂」など。
❐イサク→ヤコブ
イサクの時代はあまり波乱万丈はない。子供の頃生贄にされかけたんだからもう良いか(笑)
イサクの息子が、荒々しいエサウと、思索的なヤコブ。
ヤコブがうまく立ち回りイサクの跡継ぎとなった。
家族制度の強いこの時代、誰が相続するかは神の意思であり重要ごとだったのだ。
ヤコブは親戚の姉妹、レアとラケルを娶る。
ヤコブは妻たち(レアとラケルの他にも数人)との間に男児12人を設け、彼らが イスラエル十二部族の開祖となる。
そんなヤコブの元に神が現れる。そしてヤコブは「神と戦って不屈なる者」という意味の“イスラエル”と改名する。
なお、ヤコブの兄エサウは、長男でありながら長子権を失ったわけだが、彼は草原を駆け巡る方が性に合っている…と、ヤコブとあっさり和解。聖書には争う兄弟やら皆殺しやらの話は沢山あるが、エサウの場合は財産も権力も必要ない自分の生き方を(かなりヤクザで乱暴な生き方なので周りは相当迷惑したと思うが)手に入れたので、適材適所がうまく利いた稀有な例だろう。
❐ヨセフ
イスラエル(旧ヤコブ)の息子たちの中でも知恵が回ったのはヨセフ。幼い頃から機転も口も回る生意気小僧で、長じてはエジプトの王の側近となり政治的にも力を発揮する。
スッタモンダの末、ヨセフの一族(父イスラエルと兄弟たち)はエジプトで暮らすことになる。
カナンは「神から与えられた約束の地」だが、エジプト移住については「それも良かろう。いつか時が来たらお前たちをカナンに呼び戻そう」ということで許可を出したらしい。
そう、何かというと「神の御神託」を戴き、その御神託がどんなに理不尽でも依怙贔屓でも、人間はただただ神を信じて従うのが彼らの生き方だ。
❐モーセ
ヤコブの四代あとに生まれたのがモーセ。
このころイスラエル人はエジプト王から迫害されていた。
そんななかで、モーセは本当はイスラエル人だが諸事情により身元を隠しエジプト王宮で成長していた。
ある日モーセの前に神が顕われて告げる「イスラエル人の苦しみの声を聞いた。おまえはイスラエル人をエジプトから救いだし、約束の土地カナンへ行け」この後は有名な「モーセの出エジプト」になる。多くの奇跡、多くの厄災、長年の放浪、「十戒」を受け取ったり、海を割ったり。
カナンに入る前にモーセは死ぬ。
阿刀田高が参考文献的にあげている、チャールトン・ヘストン、ユル・ブリンナー共演映画は見ましたよ。モーセが手を挙げる紅海が割れ、イスラエル人が海を渡ると海が戻りエジプト王の軍隊が飲まれてゆく…まさに大スペクタル映画。
❐ヨシュア
モーセの後を継いだのはヨシュア。指導力も、戦いも、知能も、宣伝も、人心盛り上げ方も、かなり遣り手。
有名エピソード「エリコ(ジェリコ)の壁の崩壊」はこの時ですね。
まあ彼の指導により、イスラエル人はカナンの地に入る。
旧約聖書はあくまでもイスラエル人の神だから「カナンは神から与えられた土地だから、自分たちに所有権はある!」としているが、しかしヤコブの時代から100年は経て、カナンにはすでに別民族が住んでいる。
結局このころからの争いが、現代中東戦争にいまだに続いている。
❐士師たち
聖書では、モーセとヨシュアによりイスラエル人がカナンに戻った後は、「士師記」の記述に入る。
士師とは裁判官みたいなもので、大衆の指導に当たった人たち。
イスラエル人が神への敬いを忘れると、神からの罰が当たり、イスラエル人は気持ちを引き締める、それを伝えるのが士師。
有名なのが「サムソンとデリラ」のサムソン。
「サムソンとデリラ」はオペラでの曲が有名ですね。昔映画でも見たような気がする。聖書の中でも数ページのエピソードがオペラや映画になるのはやはり美女で悪女のデリラが映画で映えるからだろうか(笑)
❐サウル王→ダビデ王→ソロモン王
また年月が経ち、イスラエルには「王」が必要となった。
預言により選ばれたイスラエル最初の王はサウル。最初は戦いで力を発揮したが、徐々に権力と疑心に溺れる。
次に王に選ばれたのはかのダビデ王。
ダビデを主題とした美術品いろいろあり。
シャガールは、サウルからダビデの流れを連作で描いていた。
ミケランジェロが彫ったのは巨人ゴリアテに石打を持って挑むダビデの銅像。
巨人ゴリアテの首を持つダビデは、ルーベンス、カラヴァッジョを始めとして多くの画家たちが描いてきた。
ダビデ王は施政としても人心は悪としても特出していたようだ。しかしその人生は栄光もあったが犠牲も多かった。多くの息子たちのうち、跡を継いだのはソロモン。彼も知力体力に優れ統率力があり経済力を持ち近隣諸国との交易も盛んに広げて神の加護もあり…。
有名エピソードは「ソロモン王の指輪」(動物と話ができるというのは誤訳)、「シバの女王」など。
❐イスラエル分裂
しかしソロモン王の後、イスラエルは乱れる。
ヤコブの十二人の息子たちを開祖とする、イスラエル十二部族も分裂する。
イスラエルの南側は、エルサレムを首都としたユダ族の土地。北イスラエル王国の首都サマリアは他の部族たちの土地。
しかし強大な勢力を持つ周辺諸国に常に脅かされ、北イスラエルは完全に陥落して歴史から消え、南イスラエルはバビロニアに攻められ崩壊する。大勢のイスラエル人がバビロンにつれていかれたのが「バビロン捕囚」であり、この五十年後にいったんは帰国を許されたが、結局イスラエル人の土地は分裂を繰り返して完全に拠り所となる国を失ってしまう。
聖書のサブエピソード的な「黙示録」ではこの「バビロン捕囚」の恨みを晴らすがごとき記述がある。イスラエル人にとってはまさに忘れられない酷い歴史だったのだろう。
再びイスラエル人が国を持ったのは、1948年のイスラエル国建設。ほとんど二千年の間、イスラエル人は各地に散らばらざるを得なかった。
中東紛争は「ここはイスラエル人が神に与えられた国」という主張と、「それは二千年前の話であって今はアラブの領土だ」という主張のぶつかり合い。
❐実存主義と神
ここで聖書の始まり「天地創造」に話は戻る。
神が天地、生命を作った。人間も、モラルも、社会の掟も、全て神が創った。人間とは神の意思により神の意思を実現するためにこの世に存在したものだ。
しかし最初に逆らったのが「知恵の木」を勝手に食べたことで、「失楽園」となる。
さて、ここでサルトルの「実存主義」が語られる。(実存主義とは何かとは初めて読んだので間違えていたらゴメンナサイ)
何のためにあるかの本質、定義が先に決まり、その後に作られて存在している。という「本質主義」に対して、
「人間とは、個人が偶然にこの世に存在し、その本質や定義は人間自らによって選ばれ決定している→人間においては実存が本質に役立つ」としたのが実存主義。ある意味神に逆らっている。
宗教という物の多くは「人間はこういう物で、こうならなければならない」という思想の出発で、
それに対して「もともとの本質は関係ない。人源が選んでゆくものだ」とした実存主義は、当時には営利で斬新で挑戦的な主張だったのだ…
この後は、カインとアベル→ノアの方舟→バベルの塔へと旧約聖書の話を辿ってゆく。
❐逃亡者ヨナ
神のお告げを嫌がって逃げ出したヨナは、大魚に呑みこまれて神からは逃げ出せないと知り、結局そのお告げに従うことにした、というお話。
❐試されたヨブ
敬虔に神を信じるヨブに対して、神と悪魔が「ヨブからすべてを奪ってもそれでもまだ信心を捨てないのか?」を実験することに。
財産、家族、健康、全てを喪い、友人と思っていた人たちから「このような目に合うのは君に信心が足りないのだろう」と責められるヨブ。このヨブ記では、神への信心とは何か!というやり取りがメインと言うことらしい。
さて、ヨブはそれでも神への敬意を持ち続けたために、喪ったと同じ数の家族、財産をまた与えられる。
…現代感覚からすると、「息子のA君、B君、C君を殺しちゃったけど、代わりにD君、E君、F君が生まれたからいいよね」と言われても、死んだABCという個人はどうなるんだ…と思うんだけど、
この当時の「失って当たり前」であり死ぬことが身近であった頃ならば「神が与えてくれた運命は人間が選べない。ただただ存在に感謝。与えてくださったものに感謝」として納得するのか。。
❐預言者
旧約聖書に当たっての「預言者」は、神の言葉を預かって伝える者。続きを読む投稿日:2019.06.29
先日『ダ・ヴィンチ・コード』を読み終わったのですが、その訳者である越前敏弥さんが参考図書として挙げていたのが、この『旧約聖書を知っていますか』と『新約聖書を知っていますか』でした。
阿刀田先生について…は、以前図書館で借りた『ギリシア神話を知っていますか』が面白くて……手元に置いておきたくて改めて購入したほどです。
ギリシア神話も、名前だけは知っているけど壮大すぎてどこから手を付けたらいいのやら、という読者に向かって、先生ならではのユーモアで面白くわかりやすく解説してくださいました。
本書も、同じようなスタンスです。
「旧約聖書ってアダムとイヴの話でしょ?」とページを開いたところ、まずは「アイヤー、ヨッ」と叫んでほしい、とのこと。そしてアブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフとつながる主要人物たちのエピソードに入っていくのでした。
読み進めていくうちに、これは知っている、あれもこれも、と著名なお話がたくさん出てきます。ラピュタに出てきたゴリアテとか、ミケランジェロのダビデ像とか。
私達日本人にとっては特にとっつきにくい世界観ではありますが、思わずクスッと笑ってしまう軽妙な語り口で、最後まで読み通すのは決して難しくないと思います。
先生いわく、旧約聖書と新約聖書は「京都と奈良」のようともいえるとのこと。都は京都に移ったけれども、奈良にも敬意を払わなければならない。次は『新約聖書を知っていますか』も読んでみようと思います。こちらは、『ダ・ヴィンチ・コード』との関連で楽しめそうですね。続きを読む投稿日:2024.01.03
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