ドン・キホーテ 後篇一
セルバンテス(作)
,牛島信明(訳)
/岩波文庫
この作品のレビュー
平均 4.2 (14件のレビュー)
-
『ドン・キホーテ』前編はこちら。
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4003272110#comment
郷士アロンソ・ケハーナは騎士道物語の読…み過ぎで、自分こそこの世の正道を正す遍歴の騎士だ!と思い込んで、近所の農夫サンチョ・パンサをお供に旅に出る。頓珍漢なことをしまくる凸凹主従は行く先々で騒動を起こすし、自分たちも大怪我しまくるが、出会った人たちが「こいつ頭がおかしいから適当に話を合わせておこう」または「頭がおかしいけど筋も通っててなんか面白いぞ」という反応だったため、このなりきりコスプレ旅は成立してしまっていた。
しかし前編の最後でドン・キホーテは家に連れ戻されたのだった。
著者のセルバンテスはここで終わらせるつもりだったけれど、贋作が出てきたので後編を書くことにしたらしい。
セルバンテスの「読者への序文」では贋作者への皮肉とユーモアを込めた反証を述べているんだが「贋作者があんなこといいやがったけど、本物の自分のほうが優れてるもんねー。贋作者なんて気にしてないもんねー( ̄^ ̄*)」という感じがした。言いたい反論はキッチリする、しかし怒りを全面に出すのではなくて余裕を見せて相手の間違いを分からせる遣り方でさすがに作家だなあ。
もともと『ドン・キホーテ』は、アラビア人(モーロ人)史家のシデ・ハメーテ・ベネンへーリの書いた『ドン・キホーテ』原著をスペイン語のわかるモーロ人が一度翻訳し、さらにセルバンテスが再翻訳と編集して出版している、という体裁の書物です。
後編では、このシデ・ハメーテがちょこちょこと口を挟んできます。
❐ドン・キホーテとサンチョ・パンサが旅に出るまで
郷士ケハーナを家に連れ戻した友人の司祭と床屋は、彼が本当に正気に戻ったのかの様子見に行く。
しかしこの二人、最初から「ドン・キホーテ」と呼びかけるし、話す内容も煽るようなもので、本当は騎士に戻ってまた旅に出させたいんじゃないのか?と思ってしまう。
そこにやってきたサンチョ・パンサもノリノリで旅のお供を申し出る。そしてサンチョ・パンサが言うには「ドン・キホーテの旦那とおいらの旅のことが本になって売られてるんですよ、二人っきりの会話も書かれていて、いったい作者はどうして知ってるんだろう?」ということ。
そして『ドン・キホーテ前編』の内容への補足、矛盾への言い訳や開き直りを当事者であるドン・キホーテとサンチョ・パンサによって語られる。
そう、この『ドン・キホーテ後編』は、いわゆる「メタ作品」となっているのだ 笑
サンチョ・パンサはちょっと人物像が変わった気がする。私が「サンチョ・パンサ」という人物像に持っていたイメージは前編よりも後編のほうが近い。
前編のサンチョ・パンサは、農民としての独自の考えは持っていて言葉も面白いけれど、女房は蔑ろにする、眼の前の金や物を優先にするなど、かなり無学で打算的な男という面があった。後編だとその独自の考えが精神的にも良い面が出ているというか。
お供を申し出たサンチョ・パンサの言葉を抜粋するとこんな感じ。
「おいらが欲しいのは遍歴の騎士に仕えた最も忠実で善良な従士という名誉ですよ。そりゃーご褒美で島の領主にしてくださるってんならありがたく頂戴します。でもいただけなかったからって、おいらも人間として生まれてきたからには、神様がおいらをお見捨てになることはありますまい。人間は神様以外の物を当てにして生きちゃいけないんだから。島の領主になってもならなくっても、毎日食うパンは同じ味がするだろうしね。もし島の領主になったら、悪魔の奴がおいらに罠をかけるかもしんねえ。おいらはサンチョとして生まれたからには、サンチョとして死ぬつもりです。…でも何かをくださるってんならありがたくいただきますけどね。」P83より抜粋
サンチョ・パンサが急に賢い物言いをしだしたことに対しては、他の人物も「まるで大学教授のような弁舌」「ドン・キホーテ殿に着いてから回りくどくなって何言ってるかわからない」とか、挙げ句には作者自身が第四章で「この章はサンチョ・パンサの言い回しが賢すぎるので贋作ではないか?」と、贋作騒動を逆手に取る書き方までしている 笑
後編の新登場人物として学士のサンソン・カラスコがいる。良く言えば弁の立つ、悪く言えば愚弁家の小賢しい人物。
序盤では、出版されている『ドン・キホーテ』の内容をドン・キホーテとサンチョ・パンサ本人に知らせる役割、ドン・キホーテ主従が旅に出てからは家に連れ戻そうとする役割になるみたい。
❐ドン・キホーテが作り上げた想い姫、ドゥルシネーア・エル・トボソへの失意
前編でのドン・キホーテは、自身で作り上げた妄想と「現実」とを都合良く解釈して周りの「正気」な人々の目線など気にもしなかった。
しかし後編の冒頭、サンチョ・パンサが下品な百姓女を「ほら、あちらに高貴なるドゥルシネーア姫がいらっしゃいますよ」と作り上げた嘘に全く乗れずに下卑たる百姓女だとしか見えずに混乱してしまう。ドン・キホーテの妄想の力が薄まったのか、読者としてはちょっと寂しくもあるんだ。
この後もドン・キホーテは「悪魔の魔法使いがドゥルシネーア姫を醜い姿に変えてしまった/いや、サンチョ・パンサには高貴な姫に見えていたのだから(サンチョの嘘です)魔法使いは自分の目に魔法をかけたのだろうか」と混乱する。
❐分別を持ったドン・キホーテ
前編では「ドン・キホーテがなりきりコスプレで無茶をして、周りからボコボコにされたり、『こいつ頭おかしいから話を合わせよう』と相手にしてくれたため、痛い目にあったけどなりきりコスプレは成功」というお約束が繰り返されていたんだが、後編では大騒動はドン・キホーテに都合の良い方向に事が運んでいる。
何と言ってもドン・キホーテは相変わらず「狂人」扱いなんだが随分と分別が付いていると感じられる。
●国王に献上されるライオンを見て勝負を挑むドン・キホーテ。前編だったら大騒動!!を起こすがドン・キホーテとサンチョ・パンサはトンズラというお約束なんだが、今回はライオンとの対決に成功する。そこでドン・キホーテは自分の通り名を「愁い顔の騎士」から「ライオンの騎士」へと改名する。
●ドン・キホーテとサンチョ・パンサは、荷馬車に乗った悪魔や死仮面やら王侯貴族やらに出くわす。前編だったらドン・キホーテの妄想炸裂で、有無を言わさず襲いかかるだろうに…、彼らに「自分たちは旅の演劇一座ですよ」と言われたらそれを受け入れる。その上、道化の一人に無礼を働かれもサンチョ・パンサに「役者っていうのは世間を愉快にするんだから、人々からも大切にされてるし、国王陛下のお墨付きだってもらってるんですよ」と説得されて立会いを辞める。
●ドン・キホーテは緑色の外套の男と行き会う。この「緑色外套の騎士」はドン・キホーテと会話して、狂人としか思えないがその奥底にある教養と教育の高さに驚く。
ドン・キホーテは彼の家に招待され、妻と息子から歓待されてご機嫌なのでした★
●バレエ作品で『ドン・キホーテ』がある。私は見たことはなくて曲は知っている程度。そのバレエで使われている物語が後編19章から21章のものだった。
ドン・キホーテは、若いカップルの結婚を後押しして大いに感謝される。
❐地下洞窟でみた幻想??
しかし相変わらず珍妙な思い込みを持つ部分もある。
伝説の地下洞窟に冒険に出たら、伝説の騎士やら隠者に出会ったり、その地下洞窟は伝説の王宮に繋がっていたんだとか…。
ただの夢なのかもしれないが、この夢(?)をドン・キホーテはその後の冒険のもとにしていく。
❐「鏡の騎士」との対決?
なんとドン・キホーテと同じような想い姫のために冒険に出る遍歴の騎士とその従卒が出てくる。鎧に鏡をつけているので「鏡の騎士」と名乗り、ドン・キホーテを「有名な騎士殿」といい、二人で騎士談に花を咲かせて、想い姫のために決闘することに。
※※※以下ちょっとネタバレ※※※
…まあこの「鏡の騎士」の正体は「カラスコ学士」であり、ドン・キホーテを家に連れ戻すための大芝居だったんだけど、口先ばっかりで弱っちかったために作戦大失敗。
物語としてドン・キホーテが決闘で勝つって珍しいな。続きを読む投稿日:2023.08.21
前編までの本がすでに出版されて、評判になっているという設定で後編の物語は始まる。物語の中に現実が混入する、込み入った入れ子構造になっている。
投稿日:2023.01.25
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