こころが折れそうになったとき
上原隆(著)
/NHK出版
作品情報
不況に震災が重なり、「苦難」に直面する人が増え続けている。人生の様々な苦難に遭遇した人たちへのインタビューを続けてきた著者が考える、いまを生き抜くための「すべ」とは? 先が見えない時代だからこそ、「私」を見つめ、「私から始める」ことの大切さを綴る、不思議な浸透力に満ちた一冊。
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商品情報
- シリーズ
- こころが折れそうになったとき
- 著者
- 上原隆
- 出版社
- NHK出版
- 書籍発売日
- 2012.05.26
- Reader Store発売日
- 2013.04.12
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 240ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (5件のレビュー)
-
この著者は声高になにかを主張する、イデオローグ的な書き手ではない。だが、彼の声は私の心に深く響く。それはこの著者自身が彼が敬愛する鶴見俊輔の思想を身を以て生きている、「実践する」エッセイストであり大げ…さに言えばアクティビストでもあるからだろう。様々な人びとの声を実に丁寧に拾い、そこから決して蔑ろにすることのできない「ひとりの人生」を立ち上げる。ボブ・グリーンに似ていると言われているそうだが、確かにタッチは似ている。沢木耕太郎的でもあり、しかしカッコつけたところのないリラックスした態度において私は信頼したい続きを読む
投稿日:2022.02.22
300人以上の人と会い、話を聞き、感動したものを書籍にして、5冊。その百近くの話を振り返ったのが本書。これまで語らなかった著者自身の考えについて本書では紙面を割いて述べている。
「つらい話をたくさん…書いてきた。
…
こうした話はどれも、気軽に話せるようなことではない。どちらかというと人に知られたくないようなことの方が多い。よく話してくれたものだと思う。
そのような話を原稿にして、発表する前に当人に読んでもらう。そのとき私はいつもドキドキする。『こんなことを書かれたら困る』とか、『私はこんな人間じゃない』といわれたらどうしようと思うからだ。もちろん、修正意見には応じる。しかし、根本から違うといわれたら、もう、私にはその人のことが書けなくなってしまう。
いままでのところ幸いそういうことはない。むしろ、喜んでくれた。」
「人から話をきく。人はそのとき思い出すままに話す。出来事の種類はばらばらだし、長かったり短かったりする。それぞれの時間は前後しているし、関係も原因だったり結果だったりしている。そんな中で、いくつもの出来事がポツンポツンと見えてくる。…
それを家に持ち帰って、じっくりと眺める。そして、私がグッとくるところ、つまり感動するところを見つける。そこを中心に、必要な出来事を並べる。そして出来事と出来事をつないでいく。…
この作業を、私は勝手に『物語化』と呼んでいる。そしてこの『物語化』によって、できあがった文章を読み、当人たちは喜びを感じ、発表しても良いといってくれたのだと思う。
発表しても良いといわせたものは、『物語』の力ではないだろうか。」
「体験の客体化は自分ひとりではなかなかできない。自分にとっては、どの出来事も重要に思えて、体験の中心がどこにあるのかが見極めにくいからだ。私という他人が、感動したところを中心に、出来事を並び替え、ひとつながりのものとすることにより、作品となり、客体化は完成するのだと思う。
それでもやはり浅野の『自己物語はいつでも『語り得ないもの』を前提にし、かつそれを隠蔽している』という言葉を忘れてはいけないだろう。
私の書いたものは、彼や彼女の人生の一部分でしかない。とりあえず彼らの姿だ。作品の外側にはもっと長く、もっと膨大な、もっと重い人生がある。
アルバムをパタンと閉じても忘れられない過去はある。」
「私は、『困難に陥ったときに人はどう自分を支えるのか』という問題意識を持って、人に会い話をきいてきた。それらの中のいくつかの共通点をつかみ出し、この本に書いた。『自分の物語化』や『困難な状況を名づける効果』や『自分を笑う』ことなどだが、そのいずれもが、自分から距離をとる意識の持ち方のことだったと、須原の本を読んでわかった。
困難な状況下の自分を客観視するという方法は、危機回避の方法として人間の脳に仕組まれている一種の認識の仕方らしいのだ。」
「世界情勢を認識しようと、本を読んだり、新聞を読んだりしました。でも、行動できないんです。悩みました。その後、何年か経って、考え方が逆だったと気づきました。世界、日本、学生、そして私ではなくて、私、学生、日本、世界と行くべきだ。私の欲望があって、それを邪魔するものがあり、それと戦うことが日本の問題になり、世界の問題になるというのが筋じゃないかと思いました。」
「困難に陥っている人にごく自然に手をさしのべることのできる人がいる。一方、困難の中にいても、自分を見ていてくれる人がいることを知ったとき、そのことを受け入れ、ありがたいといえる人もいる。
こんな人たちがいること、こんな事実に出合ったときに、私は感動している。
自分の感じたことだけが、自分を内側から変化させる。私に欠けている公共心や道徳を自分なりに作っていくことができるとしたら、こんな場所からだろうと思っている。」
「『隣の芝生』も『自分はまだまし』も『プラス思考』も、それだけを取り出してみれば、社会の原理を説明してくれる考えではないし、人々の行動の根拠を意味づけてくれる倫理でもない。むしろ、他人よりも自分が大切といった考えが強く、良いか悪いかでいったら、あまり良いものではないかもしれない。しかし、私は、彼らの生きるいまを支えていることを重く見たい。そこには、この言葉を必要とする切迫感がある。
私が出会った人で、困難なときに、丸山眞男や加藤周一、カントやフーコーの思想や言葉が支えてくれたというような人はひとりもいなかった。」
続きを読む投稿日:2018.10.08
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