- 最終巻
アドルフに告ぐ(5)
手塚治虫(著)
/手塚プロダクション
作品情報
カウフマンが驚くほど、神戸の街は戦争で荒んでいた。カミルらを拷問し、カウフマンは念願の極秘文書を手にするが、その時、ヒットラー死亡の知らせを受け愕然とする。三人のアドルフの運命を描く大河ロマン、ついに完結。
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商品情報
- シリーズ
- アドルフに告ぐ
- 著者
- 手塚治虫
- 出版社
- 手塚プロダクション
- 書籍発売日
- 1996.10.01
- Reader Store発売日
- 2012.06.15
- ファイルサイズ
- 55.3MB
- シリーズ情報
- 全5巻
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この作品のレビュー
平均 4.5 (11件のレビュー)
-
相当面白かった。内容の哲学的テーマにせよ、歴史物語としての面白さにせよ、さすが手塚治虫すごいな、と思った。
唐突だが、鶴見俊輔が、「戦後日本の大衆文化史」にて手塚治虫を取り上げないのはなぜか、という…問いを持っていた私としては、手塚は、大きな物語と有事を描く漫画家だからなのかもしれないと思った。日常の生活ではなく誰にとっても特別となる大きな物語と時代の趨勢を描いているのが特徴的だった。例えば、アドルフ・ヒットラーのナチス・ドイツと、WWIIの展開をおそらく多くの事前調査を踏まえて歴史的に描き切っている。ここでは手塚は、歴史をバックグラウンドとして「時代に翻弄される人間・人類の業」を描いていると思う。他方で、鶴見が取り上げるような水木しげるの「劇画ヒットラー」では当然彼を歴史と紐づけて描くものの、その主役は歴史でも人間一般の話でもなくヒットラー個人を割と淡々と描いている。鶴見が、大きな物語またはイデオロギーから距離を取り、小市民の感性を重視したことから考えれば、なるほど手塚は小市民の反対にいる、インタラクチュアルでありイデオロジックな作品を描いたから、鶴見が取り上げないのかもしれない、と思った。したがって、手塚作品やこの作品を読むとき、この背景にある強い思想や「大きな物語」は魅力的だが、それが全てではない、と距離を取ることも必要だと思った。
さて、内容は、WWII期においてある日本の新聞記者が糸を繋いだ3人の「アドルフ」の物語である。ナチスドイツの首相アドルフ・ヒットラー、在日ユダヤ人難民のアドルフ・カミル、駐日ナチ高官の息子で日本人とハーフのアドルフ・カウフマンが、歴史にもまれてゆく。ヒットラーは周知の通りのストーリーであって、カウフマンとは途中で遭遇することになる。カミル少年は家族で迫害から逃れてきたなか、同じ神戸に住むカウフマン少年と仲良くなるが、ユダヤ人とナチという関係に引き裂かれてゆく。また2人は在日ユダヤ人・在日ドイツ人としてのアイデンティティの揺らぎや、差別・偏見、またそれぞれの文化の制約や、ナチ教育の影響など、様々な悩みを抱えつつ、それぞれが正しさを追っていく。ついには、PLOパレスチナ解放戦線などがでてくるような、歴史の範囲として大きな物語であり、また物語の焦点は出来事を超えてより抽象的な、正義や葛藤といった哲学的にも大きなテーマを扱う物語である。
日本の戦時下の様子についても度々記載があり、とくに「アカ狩り」の様子が何度も描かれていることが興味深い。いわゆる特高による言論統制がどれだけ厳しいか、というのは現代日本ではあまり語られないが、こういう物語の中に残っていることは、後世への教訓を残すという観点でも重要と感じる。
ここの感想欄に「映像の世紀」を見たみたい、という感想があったが、「超わかる〜」である。続きを読む投稿日:2021.06.28
神戸に住むドイツ領事の息子のアドルフは、パン屋の息子でユダヤ人のアドルフを通じて、アドルフ・ヒットラーの秘密を知る。その秘密とは……!?第2次世界大戦を背景に、3人のアドルフの運命を描く著者の代表作・…第1弾。(Amazon紹介より)
NHKで昔放映された「映像の世紀」のような、重苦しい歴史ドキュメンタリー番組をぶっ通しで観たような感覚に襲われるぐらい、濃厚な5冊でした。この物語には、第二次世界大戦以降現在まで続いている差別と憎しみの連鎖の始まりが描かれています。
手塚治虫作品は、本当に同じ人が描いたのかと思うぐらい、作品によって雰囲気が違いますね。私はこの「アドルフに告ぐ」みたいな、固〜い感じのが好きです。続きを読む投稿日:2017.09.18
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