文明としての教育
山崎正和(著)
/新潮新書
作品情報
国語教育こそ「愛国教育」である。倫理の領域に踏み込む「道徳教育」は教室になじまない。学校に過剰なサービスを期待してはならない。……西洋は古代ギリシャから近代アメリカまで、日本は鎌倉時代から明治時代まで、東西の教育史をつぶさに検証。文明と教育との深い関わりを鮮やかに解き明かした上で、明日の日本のため、さまざまな提言を大胆に行う。中央教育審議会会長による画期的な教育論。
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商品情報
- シリーズ
- 文明としての教育
- 著者
- 山崎正和
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮新書
- 書籍発売日
- 2007.12.17
- Reader Store発売日
- 2012.03.30
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 207ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (6件のレビュー)
-
人文系知識人の大御所・山崎正和の教育論。ぶっちゃけ、教育問題についてそんなに新しい提案がされているわけではない。しかし、古今東西の文明における「教育というもの」を概観しつつ議論を進行させており、その教…養の深さとバランスの取れた議論は非常に共感の持てるものだった。教育という領域はとかく「政治」に翻弄されやすいだけに、極端に流れず先を見据えた議論ができる資質は貴重だ。それにしても、新潮新書を内容の薄さから小馬鹿にしていた俺だったが、今月は『温泉文学論』とあわせて2冊も買ってしまった。新潮もやればできるじゃないか!続きを読む
投稿日:2007.12.22
Amazonレビューに書きました。↓
前半で「ざっと」古今東西の教育思想、教育制度、教育言説を通じて、教育の歴史を整理しています。
あくまでも「ざっと」であり、山崎さん特有の要約に基づいたものなので…、教育思想史における通説的理解に反していたり、文脈的に無理筋の批判もないではありませんが、媒体も新書ですし、「概観」としては何の問題もない程度でしょう。
かぬひもとさんの読解によると、「まず山崎は「教育とは国家による統治行為である」ときちんと言い切っている」と言っていますが、これは事実に反します。他のレビュワーさんも言う通り、山崎さんは「義務としての教育」(これが統治行為に当たる部分)と「サービスとしての教育」に分離したのです。(なおこれは論理的な区別とでも言うべきものであって、実際は境界画定が難しい局面が多くあるだろうということを山崎さんは認めています。)
かぬひもとさんの国旗国歌法に関しても奇妙な読解をしています。この人のレビューで抽出された論点は、端的に言って文脈を踏まえていないのです(それこそ「義務としての教育」で身に付けるべき、国語力の問題でしょうが)。君が代も日の丸も、歴史的な知見から見れば伝統を表現するものではないと断ったうえで、国旗国歌法が国会で決議された(そして、国会の決議は現代社会において規範として機能する)以上、「私たちはそれなりに尊重しなければならない」と言っているのです。山崎さんは、端的に「遵法せよ」と言っている。
続く箇所で、「義務教育」、特に公立学校における国旗掲揚と国歌斉唱の問題をとりあげています。義務としての教育は統治行為であり、国家から免許を受けて俸給をもらっている以上、内面の問題ではないと言っています。つまり、義務教育の場面でなければ問題にならない。高校や大学、スポーツ観戦などでは、文脈を踏まえれば問題になりませんし、これは「愛国」や「伝統」の話題とも関係がない。端的に遵法という規範の問題です。実際山崎さんは、義務教育に携わる反体制の先生も、「少なくとも口内で国法を尊重するふりをするのは当然の義務だと思います」と言っている(170頁)。
山崎さんは「愛国」という言葉を時折本文で使っているのですが、それは以下のような認識に基づくものです。
人権がほぼ守られている、議論の余地があるにせよ民主主義に基づく政治が行われている、治安もよく、社会保障の水準も守られている、宗教的な争いもない、衛生的な環境である、大衆文化が「クールジャパン」と言って世界的に受けている……こういう「近代以降の日本の誇るべき成果」を理由に、「私たちは国を愛すればいいのです。伝統的な文化はここからいったん切り離し、多国の伝統的な文化と同様に尊重すべきでしょう」。(167頁)
この観点から改正された教育基本法を批判もしています。
「『伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する』という文章はかなり曖昧で」、伝統尊重と愛国が併記してあるだけなら問題はないかもしれないが、併記と言い張るのは無理筋だ。「少なくとも私は、両者の間に理由の関係を読み取るべきではないと革新しています」と強く訴えています。(168頁)
「伝統と文化」は恐らく大和文化を指しているのだと推定する一方で、山崎さんは次のように訴えます。「愛国心とは、何より現代の日本社会、すでに多用な要素を含んだ文化に対して向けられるものでなければならないでしょう」。紆余曲折や逆行を経験しながら、明治以降の日本は、近代社会を作り上げてきた。「そしてそれはアイヌの人も、在日韓国・朝鮮人も、沖縄の人も参加して得た成功でした」。(167頁)
山崎さんの教育は、かぬひもとさんの牽強付会する教育観が示唆するようなものとは全く違います。
本書は、こう言って良ければ、意外と普通です。ネトウヨが喜ぶようなネタもなければ、軍隊的なしばきを肯定するものでもありません(しばき的なものを山崎さんははっきり否定しています)。
山崎さんの教育観は、理解ある先行世代の穏当な提言とでも言うべきものではないでしょうか。続きを読む投稿日:2014.11.19
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