量子力学の哲学 非実在性・非局所性・粒子と波の二重性
森田邦久(著)
/講談社現代新書
作品情報
私たち自身を含めたこの世界のすべてが量子力学が扱うミクロな物質から成り立っていることを考えると、ミクロの世界の「真の姿」を理解することは、私たちが日常的に生活しているこの世界を、ひいては私たち自身を理解することにもつながるであろう。本書の目的は、量子力学が私たちに示す世界像についてこれまで提案されてきたさまざまな哲学的議論を解説することである。――はじめにより。
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商品情報
- シリーズ
- 量子力学の哲学
- 著者
- 森田邦久
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 数学・物理学・化学
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社現代新書
- 書籍発売日
- 2011.09.16
- Reader Store発売日
- 2011.11.11
- ファイルサイズ
- 1.5MB
- ページ数
- 240ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (20件のレビュー)
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量子力学の哲学
量子力学は我々の生活に無くてはならない、いわば実用上必要な理論となっている。しかし量子力学が意味するところを理解することは、非常に難しい。
量子力学が提示する、簡単には理解しがたい現象である…、「物理量の非実在性」「非局所性」「粒子と波の二重性の解釈」及び「状態の収縮」がいつ、どういうメカニズムで起きるのか?という点に対する解釈の紹介・解説が本書の主題である。
著者が良書と勧める「量子力学の解釈問題―実験が示唆する「多世界」の実在 (ブルーバックス)」は以前読んだことがある。この本では「多世界解釈」を推しているが、世界中のあらゆる現象、一挙手一投足ごと(例えば、シュレディンガーの猫が「生きている世界」と「死んでいる世界」)に世界が分岐していったのでは、すごい数の平行世界ができてしまい、こりゃたまらんだろう、と思った。
一方で本書で著者が最も有望であるという、「時間対称化された量子力学」 は未来が過去と同様に現在に影響を与える、という説である。この説は本書で初めて知った。波動方程式を使った理論的な解釈も簡単に説明されているが、割愛する。
我々は過去から未来への時間の流れが絶対と感じているが、元々物理法則は時間に対して対象であり、時間の方向・流れは決まっていない。本書では「 原因と結果(因果)」という概念は人間が作ったものであり、世界の側に客観的に存在しているものではない、という。
具体的にどういうことなのか、まだよく理解できていないが、確実に新しい世界観を与えてくれる理論であると思う。個人的には、「多世界解釈」よりは違和感が少ない。
また,本書において、粒子と波の二重性について以下の様な「たとえ」による説明があった。「二次元しか認識できない生き物には、円筒はある向きでは「円」に見え、ある向きでは「長方形」に見える。二次元の生き物には同一のモノであるとは思えないだろう。これと同じように我々の認識を超えたレベルでないと「粒子と波の二重性」は矛盾のない姿が描けないのかもしれない。
新しい知見も多々あり、難しい話も比較的易しく記述されている良書である。続きを読む投稿日:2013.09.24
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「本書では、量子力学のさまざまな解釈を紹介する。これらはいずれも「解釈」であるから、量子力学が経験的に正しいこと(実験事実をうまく予測したり説明したりすること)を認める。つまり、実験的に確かめることが…できるものについては、どの解釈も一致しているのだ。それゆえ、どの解釈が正しいのかを実験的に確かめることは、いまのところできない。だから、これは「科学」ではなく「哲学」なのである。(p.7)」
量子力学の非-常識的な性質は、それこそ量子力学が提唱された黎明期において既に指摘されていた。それというのは、本書の副題にあるように、「非実在性・非局所性・粒子と波の二重性」のことである。以降、不可思議な量子の世界を何とか人間が分かる形で言語化しようと様々な「解釈」が考案されてきたが、残念ながら未だ、物理学者や科学哲学者の皆が同意するような解釈には至っていない。
量子力学に対する批判として最も有名なのはEinsteinらによるEPRパラドックスの議論だろうが、量子力学の非-常識さを定量的に表現できたのはBellの定理が最初らしい。本書も、このBellの定理から始まる。
Bellの定理の主張は、「(B1)量子力学系における物理量はいつでも明確な値をもっている (B2)量子力学系において局所的な相関しかない (B3)量子力学は経験的に正しい の三つが同時に満たされることがない(p.120)」というものである。現在の標準的な解釈(コペンハーゲン解釈)は、(B1)と(B2)を諦め、状態の収縮を認める射影公理を導入するというものであるが、この「諦め方」は他にも色々な可能性が考えられる。本書では、その様々な解釈がパターンごとに整理されて紹介されている。名前だけ列挙すると、GRW理論、デコーヒレンス理論、軌跡解釈、多世界解釈、裸の解釈、多精神解釈、単精神解釈、一貫した歴史解釈(多歴史解釈)、様相解釈、交流解釈、時間対称化された量子力学…。こうして改めて並べてみると当然というべきか結構沢山あって驚くが、Bellの定理やKochen-Speckerの定理などのNO-GO定理のために何かを守るためには何かを諦めねばならないので、そこに解釈の「個性」が生じるわけだ。
筆者の一推しが、「時間対称化された量子力学」という解釈である。この解釈によればBellの定理を破ることなく実在性や局所性を守れるので、著者の『アインシュタインvs量子力学』を読んだ時は、どこが悪いのか・なぜもっと支持されないのかが分からなかったのだが、本書では、確かに有力ではありつつ問題点があることも述べられていた。曰く、「ハーディのパラドックス」と呼ばれる状況において、負の確率(みたいなもの)が出てきてしまうそうだ。しかも、それが単なる思考実験にとどまらず、大阪大学の研究チームによって実際の実験として行うことに成功したらしい。この負の確率に対して幾つか説明が提案されてはいるそうだが、取り敢えず留保というのが現状のようだ。負の確率がどのようにして導かれるのか非常に気になるが、本書では数式などは登場しないので分からないのが残念。
新書にしては、とても難解。多分、常識が通用しないために理屈を積み上げていくしか方法がなく、頭がこんがらがってしまうんだろうなぁ。
はじめに
1 量子力学は完全なのか 量子力学のなにが不思議なのか1
2 粒子でもあり波でもある? 量子力学のなにが不思議なのか2
3 不可思議な収縮の謎を解け
4 粒子も波もある
5 世界がたくさん
6 他にもいろいろな解釈がある
7 過去と未来を平等に考えてみる
読書案内
索引続きを読む投稿日:2022.02.02
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