冤罪の軌跡―弘前大学教授夫人殺害事件―
井上安正(著)
/新潮新書
作品情報
警察のストーリー通りの調書と、疑惑の証拠鑑定によって、二五歳の青年は殺人犯にされてしまった。判決が確定し、服役も終えた後、真犯人が名乗り出てきたことで、時計の針は再び動き始めたのだが……司法の不条理に青年と家族はどのように立ち向かったのか。過ちはいつまで繰り返されるのか。戦後日本の冤罪事件の原点、弘前大学教授夫人殺害事件の顛末を新資料を盛り込んで描き出す、迫真のノンフィクション。
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商品情報
- シリーズ
- 冤罪の軌跡―弘前大学教授夫人殺害事件―
- 著者
- 井上安正
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮新書
- 書籍発売日
- 2011.01.15
- Reader Store発売日
- 2011.07.22
- ファイルサイズ
- 0.8MB
- ページ数
- 207ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (5件のレビュー)
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戦後の混乱期に起きた殺人事件。真犯人は別にいたが,与市ゆかりの那須家の跡取り息子が逮捕され,冤罪で懲役刑を受ける。苦難に満ちた雪冤の経緯をたどる。
冤罪被害者の那須隆は逮捕時25歳。再審により雪冤…を果たしたのは53歳。ひどい話だ。警官志望だった隆は,近所で起こった殺人事件を知ると,捜査に協力しようといろいろ動くが,それで目をつけられてしまった。せつない…。
否認事件だったようだが,鑑定結果がまずかった。鑑定人が曲者。「法医学の天皇」こと古畑種基博士が血痕鑑定をするのだが,当時の法医学は裁く側に協力する「国家学」。法医学の力で犯人を挙げることを誇りとしている鑑定人では,どうしてもバイアスがかかる。
古畑の鑑定は,財田川事件,島田事件,松山事件など,多くの冤罪事件で死刑確定させている。いづれも再審で無罪。すごい天皇もいるものだ。昭和50年に白鳥決定が出るまで,再審開始への道はほとんど閉ざされていた。冤罪の証明ができずに終った事件も少なくないだろう。再審がいかに難しいかを表すには,「針の穴に駱駝を通すより難しい」という比喩が有名。なんでラクダ?聖書だろうか。「鼻の穴に大根」との関係はあるのかないのか。
再審のきっかけは,真犯人が名乗り出たこと。別事件で何度も刑務所入ってる男で,出所後に元同囚に説得された。殺人事件はすでに時効が完成している。三島由紀夫の割腹が,真犯人の告白につながったというのは数奇。続きを読む投稿日:2011.11.18
冤罪は人の人生を狂わせてしまう。日本の犯人を検挙する警察力は世界でも高いという話を昔聞いたことがある。当時は安心で安全な生活はそうした警察官の努力でできているんだと感謝の気持ちだった事、日本人としての…誇りの様なものも感じたと覚えている。私は大学は法学部へ進んだ。とりわけ勉強熱心な優秀な生徒では無かったにしろ、特に刑法の授業は面白かった。沢山の判例を見て、その向こう側にある様々な犯罪を無邪気に想像したりしていたものだが、そうした法律が人々に自制や反省をもたらしているんだと、法学部生であることに誇りを感じていた。
だが現実の蓋を開ければ、我が国では多くの冤罪事件がある。罪のない人々が罪を着せられ長きにわたり囚われていた事で、大きく報道されたり書籍にもなっている。そうしたものを読むたびに、世の中の真実が自分の信じてきた警察や法律だけで成り立たないもどかしさ悔しさの様な感情が浮かび上がってくる。仕方ないと諦めて仕舞えばあっさり忘れる事もできるのだろうが、やはり法律を学んだ記憶がそれを許さないのか、そう簡単に記憶の奥底から葬り去る様に私の頭は出来ていないらしい。
本書は弘前で発生した殺人の冤罪を扱うものである。逮捕その後刑務所に収監されるまでの経緯、杜撰な捜査と取り調べ、権威に溺れた法医学者など読んでいて苦しくなる様な経緯が綴られていくが最初から冤罪だとわかっている分、怒りの感情も加わって読み進める事になる。
最後まで自分が無実だという何ものにも変えられない信念、それを信じ支える家族の愛情、ただ真実のために闘う弁護団、そして罪を犯しながらも最後には事実を語った真犯人の勇気、それら登場人物の魂が文面から伝わってくる様だ。服役を終え、最後の真実である無実を勝ち取るまでの後半部分は目頭を熱くする。そして、無罪判決。
日本の安全で秩序ある社会は警察官や弁護士、裁判官など多くの国民の血と汗と涙が成り立たせている事は間違いない。現代の科学も医学もそこに大きく貢献しており、今後もきっと恐らくは変わらないだろう。その中に不幸にして生まれてしまった冤罪が、当人と関係者の強い信念のもとで、新たな真実に繋がっていく。今後の冤罪発生の抑止はこうした人々の努力の上に成り立つのも、また間違いない。真実は一つ、諦めてはいけない事を学んだ。続きを読む投稿日:2023.10.20
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