ウォール・ストリート・ジャーナル陥落の内幕 なぜ世界屈指の高級紙はメディア王マードックに身売りしたのか
サラ・エリソン(著)
/プレジデント社
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新聞業界の衰退がとまらない。淘汰の波は、エリート記者集団を抱える名門「ウォール・ストリート・ジャーナル」にも及んだ。この本が原因でウォール・ストリート・ジャーナルから出入り禁止になった元記者が暴く、名門新聞社に突きつけられた究極の選択。「メディア王」に身売りするか、誇り高き没落者になるか。オーナー一家の内紛、幹部社員らの暗闘、投資家の思惑、そしてニューズ・コーポレーションを率いるルパート・マードックの欲望が絡み合った大型買収の果てに、品位ある高級視は、利益の出せる大衆紙となって生まれ変わった。「良質なジャーナリズム」の担い手はどこにいくのか?
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この作品のレビュー
平均 4.0 (3件のレビュー)
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父の残したメディア・グループを受け継ぎ、オーストラリア国内で
多くの新聞を買収して会社を急成長させたルパート・マードック。
彼の買収劇はオーストラリア国内に留まらなかった。イギリスでは
「ザ・サン」…をはじめ、名門紙「タイムズ」を。アメリカでは映画
会社20世紀フォックスを買収する。
そして、次に目を付けたのが世界的高級紙「ウォール・ストリート・
ジャーナル」だった。
105年に渡って支配株主であるバンクロフト家が君臨して来た高級紙
だったか、株価は年々下落を続け遂に30ドル代に。
経営にはノー・タッチのバンクロフト一族も、自分たちの資産が目減り
して行くことには危機感を持っていた。
そこへ持ち上がったのがマードックによる買収提案だ。「1株60ドルで
買いましょう」。世代が下って団結力もなくなったバンクロフト一族は
揺れに揺れる。
まるで小説を読んでいるような面白さだ。バンクロフト一族、マードック、
両方の関係者に取材し丹念に書かれている。
ただ、アメリカのメディアについて全く知識がないと辛いかもしれない。
登場人物も多岐に渡るので、途中で誰が誰だか思い出せないことも
あった。それはひとえに私の資質の問題なのだが…。
2007年、「ウォール・ストリート・ジャーナル」は多額の金と引き
替えに、マードックの手に渡った。「編集権には口出ししない」との
約束も、結局は反故にされ、世界有数のクオリティ・ペーパーは
大衆紙への道を突っ走ることになった。
アメリカだけではない。新聞業界の衰退は世界規模だ。日本では海外
のような高級紙はないけれど、毎日配達される全国紙が、ある日突然、
一面記事が全て東京スポーツのようになっていたら…なんて考えて
しまった。
経済紙であった「ウォール・ストリート・ジャーナル」を、分析記事や
調査報道で高級紙へと脱皮させたバーナード・キルゴアの理念は
既に消え失せてしまった。
ピュリツァー賞常連だった「ウォール・ストリート・ジャーナル」、
それも昔日の思い出だ。優秀な記者・編集者の多くもジャーナルを
去った。
確かに資本がなければ新聞も維持は出来ない。だからと言って、
どれもこれもが同じような新聞では面白くないと思うんだけどな。
「もっとも惜しまれるのは、ウォール・ストリート・ジャーナルらしい
批判記事がなくなったことだ──ジャーナルにしか伝えられない、
企業の不正行為の舞台裏を暴くような記事である。そうした記事を
日常的に掲載する新聞はジャーナルをおいてほかになく、ジャーナル
がそれをやめてしまったいま、伝統的な地域言語のように完全に
滅びてしまうことになるだろう」
マードックによる買収後に「ニューヨーク・タイムズ」に掲載された
「ウォール・ストリート・ジャーナルよ、安らかに眠れ」と題された
記事の一節だ。
記事の質よりもセンセーショナリズムを選択、マードック色に染め
られた「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、その新聞名が同じ
だけで、中身はまるっきり違うものになり下がった。続きを読む投稿日:2012.12.15
巨大マスコミは、ニュースを届けてくれるのではありません。
巨大マスコミは、何をニュースとするのかを決め、そこに一定の意味を加えることができます。そして、事実そうなっています。
それは、消費者のもので…はなく、発信者のものでしかありません。
発信者と受信者のバランスはそこでは既に失われています。
資本主義のしくみの中では、ジャーナリズムに限らず、必ずしも良質のものが生き残るとは限りません。
だからこそ、消費者である一人ひとりに本来求められるハードルは高い、はずです。
世界のクォリティペーパと呼ばれたインターナショナル・ヘラルド・トリビューンンも、近年はその役目を果たせずもがいています。
ほんの2・30年前の記事とくらべても、その格差は明確であり、悲しみの感情さへ抱きます。
資本主義が我々人間が創りあげ・選択したしくみの一つなのであれば、我々はその中で、強いものだけを残すのではなく、残すべきものを残す運用を試行錯誤し続けることが求められるのだと考えます。
本書は、経済のクオリティペーパとして過去に名を馳せたウォール・ストリート・ジャーナルの没落の内情を、関係者への取材をもとに、物語風?に書きあらわした一冊です。
その作風のためか、どこまでが事実で、どこまでが脚色なのかが分からなくなってしまっており、残念ながら私が期待したものを得ることができませんでした。
あくまで私が期待したものに対しての感想です。
読み物としては、一読の価値がある一冊だと思います。続きを読む投稿日:2013.03.09
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